反撃の幕開け

 オーウェンとイアンが友好を取り戻したのは幸いだった。

 厳しい戦いが待ち構えるのに、二人が対立しては上手くいくはずもない。

 

 地下通路を抜けた先で、俺たち八人は作戦を確認していた。


「我々が戦うまではモンスターは町に顔を出すことは少なかった。しかし、今では違う状況のはずだ。市街戦以降は警戒が厳しくなっているだろう」


 エスラ側の長として、オーウェンが話を進めている。

 この町に土地勘があり、指揮官の役割を持つ彼が適任なはずだ。


「あまりこういう話は好きではないが、住民の被害はどう考える?」

「構わない、イアンらしい質問だ。正直なところゼロというわけにはいかないだろう。秘密裏に数を削ったとして、交戦状態になる可能性は捨て切れない」


 オーウェンは覚悟を決めたような強い眼差しを見せていた。


「そろそろ、具体的な話に移ろう――」


 そして、彼は有効だと考えている作戦について説明を始めた。



「たしかに二人一組というのはちょうどいい人数だ」


 オーウェンの話に区切りがつくと、イアンは納得するように言った。


 話し合いの結果、俺とベネット、オーウェンとイアン、リュートとエレン、それとネクロマンサーの洞窟で一緒だった二人のペアという組分けになった。   


「ベネットがエスラに詳しいとは意外だった」

「モンスターに支配される前は市場を見に来ていたわ」 

「そうか、カナタは貴重な戦力だ。しっかり守って欲しい」

「ええ、もちろん」

 

 オーウェンとベネットの会話が終わると、それぞれ出発することになった。


「日が沈んだら山猫亭に集まってくれ。エスラに所縁(ゆかり)があれば分かるはずだ」


 彼はそう言った後、きびきびとした足取りで出ていった。


「ベネット、よろしく」

「ええ、こちらこそ」


 ベネットは艶のある笑みを浮かべてこちらを見据えた。

 美形ではあるものの、彼女の底知れぬ何かが脅威を感じさせる。


「ところで、山猫亭の場所は分かる?」

「問題ないわ。それより、作戦通りモンスターの数を削りに行きましょう」


 ベネットは好戦的な気質があるらしく、戦いが待ち切れないように見えた。

 俺たちもその場を後にして、町に繰り出した。 



 市街戦の前後で町の雰囲気は大きく変わるのかと予想していたが、パッと見た感じでは大きな違いを感じなかった。


 町の人たちは何気ない感じで行き交っているし、モンスターの監視が厳しいようにも見えない。


「……カナタ、あそこ」

「えっ、何?」


 ベネットは目の動きで何かを合図した。

 彼女の視線の先に見張りのモンスターが立っていた。

 

 大柄なオークが鎧を身につけて、手には長槍を持っている。


「前はあんなのいなかった」

「わたしが来た時もいなかったわ」


 おそらく、先に出た仲間もオークを目にしたはずだ。

 ただ、人目につきやすいので、戦わずに通り過ぎたのだろう。


「念のため、道を変えましょう」

「わかった」


 ベネットの提案に同意して、脇道に逸れることにした。


 大きな通りから外れると、裏通りのようなところに出た。

 通行人の数はまばらで、見張りのモンスターは見当たらない。   


 エスラの地理はベネットの方が詳しいので、案内は彼女に任せておこう。


 ベネットは確かな足取りで路地を進み始めた。

 それに遅れないようについていく。


 足元の石畳は日陰になっており、上を見上げれば日差しに晒された民家の屋根が目に入る。モンスターが潜んでいることさえなければ、何気ない風景のように感じられただろう。

 

 彼女が優れた剣士だと知っているせいか、自然と気が緩みそうだった。


 俺たちが町を歩くのは敵の数を減らす作戦のためで、物見遊山のためではない。

 それは分かっているものの、石造りの異国の家々に目が向いてしまう。


 

 二人で動き回っていたが、最初のオーク以外は目立つ発見はなかった。

 歩き疲れたので休憩しようということになった。


 低い段の石垣に腰かけると、ベネットが隣に腰を下ろした。

 モンスターが少ない町は平時と変わらないように見えた。


「思ったよりも警戒が緩やかだったね」

「きっと理由があるはずよ。何かは分からないけど」


 ベネットはつかみどころのない人柄だが、油断をすることはないようだ。


 二人で休んでいると、何やら騒いでいるような声が聞こえてきた。


「何かしら?」

「……向こうの方だ。行ってみよう」


 確認のためにベネットを見ると、彼女は小さく頷いた。


 声が聞こえた方面へ駆けていくと、数人の男性がモンスターに囲まれていた。


「……あれはオーウェンたち」

「彼らが無闇に騒ぎを起こすはずないわ。様子を見ましょう」


 俺はベネットの言葉に同意して、離れたところから見守ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る