選ばれた精鋭

 俺はオーウェンと別れて、砦の中に戻ってきた。

 特にやることもなく、メリルや他の仲間達と話していた。


 しばらくすると周囲の様子が慌ただしくなり、一部の仲間が呼び出された。

 その中には俺も含まれていた。


 今度もメリルは呼ばれなかったが、悔しそうな素振りを見せなかった。


「カナタさん、私の分も活躍してください」

「ああっ、行ってくるよ」


 俺は他の仲間と別室に移動した。


 すでに何人かが腰を下ろしており、前にはオーウェンとイアンの姿があった。

 これまで通り、彼らがまとめていくのだろう。


 やがて、人の流れが落ち着いたところで、イアンが口を開いた。


「我々にとってダスクの奪還は最優先。しかし、モンスターの包囲を突破するのは困難。よって、まずはエスラを解放して、補給や援軍を増やすところから始めたい……どうだろうか?」


 そう言って、彼はダスクの兵士たちに問いかけた。


「隊長がそのつもりなら、私はついていきます!」

「我らは一心同体! エスラのモンスターなど粉砕してみせましょうぞ」


 彼らは信頼関係で結ばれているようで、口々に賞賛の声を上げていた。


「素晴らしいな。ダスクの助力は素直にありがたい」

「我々の目的は共通している。まずはエスラを奪い返そう」

「うむっ、そうだな」

 

 オーウェンとイアンは清々しい表情で笑みを浮かべている。


 場の空気が最高潮に達したところで、オーウェンが切り出した。


「イアン殿が話したようにエスラ奪還が最優先だ。そして、この場にいるのは潜入するために選ばれた者たちだ。大人数では目立つゆえ、可能な限り人数を絞った」


 ここにいるのは俺を入れて八人。

 

 オーウェンとイアン、リュートにエレン。

 それとネクロマンサーの洞窟に同行した二人。


 あとの一人は女性の兵士だった。

 これまで彼女の存在は気に留まらなかった。


 もしかしたら、市民に紛れて気づかなかったかもしれない。


「今回はダスクの精鋭が含まれるので、各個撃破で戦えば可能性はあるはずだ」


 よそ事を考えていると、オーウェンが自信ありげに言った。


「オーウェン殿、詳しく聞かなかったが、エスラの戦況を知っておきたい」

「簡潔に述べるなら、真っ向から戦いを挑み、それが原因で敗走したかたちだ」

「なるほど、想像以上に手強かったということか」


 オーウェンが敗戦の将として説明すると、部屋の中が静まり返った。


「悪い面ばかりではない。我々は善戦して、大幅に戦力を削ることができた」

「それは朗報だ」

「しかし、未だ町には敵勢力が残る。それを少数精鋭で削りながら戦う」


 彼の言葉には強い意志が込められているように感じた。


「ようはゲリラ戦術ってことだな」

「上官相手なら、もう少し丁寧な言い方があるんじゃないですか」


 感想を口にしたリュートにエレンが突っかかる。

 すでに見慣れた光景だ。


「エレン、私は構わない。エスラのリュート殿とは槍使い同士で仲良くしたまえ」

「ええ、それはもちろん」


 エレンは取ってつけたような笑みを浮かべつつ、イアンの言葉に応じた。


「エスラの代表として、作戦の話は以上だ。ここで複雑な説明をしても混乱が生じる。先の話は現地で適宜伝える」


 オーウェンが会を締めくくり、解散になった。

 仲間と話す用事もなかったので、その場を後にしようと立ち上がった。


「カナタ殿、今回は私も同行する。戦闘時には協力を頼む」


 移動しようとしたところで、イアンが声をかけてきた。


「乗りかかった船ですし、それはもちろん」

「そうか、それは心強い」


 彼は安心したような笑みを浮かべて離れていった。


「――稀代の英雄カナタ様、ご挨拶させてください」

「……は、はい」


 やけに丁寧な言葉づかいで話しかけてきたのは、この作戦唯一の女性だった。

 精巧な楽器を奏でるような美しい声をしている。


「わたしはベネット。エスラの兵士です。お見知りおきを」

「それはどうも。よろしくお願いします」


 ベネットはこの世界の住人には珍しい黒髪だった。

 長く伸びたそれを後ろで束ねている。


 革製の防具に長剣を携えており、おそらく剣士なのだろう。

 言い回しは丁寧なものの、勝ち気そうな性格な印象を受けた。


 用件があるのかと思ったが、彼女は挨拶を済ませると離れていった。

 

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