ダンジョンへの入り口
夜の森は闇が深い。一度でも火の魔術を消してしまえば、二度と光の差さない場所へ迷いこみそうな気がした。
俺たちはそれぞれの灯りを頼りにしながら、周囲の捜索を続けている。
グールたちの足跡は撹乱しようという意図が見えず、一直線に続いていた。
「撹乱するまでもないということか。舐められたものだ」
オーウェンがわずかな憤りを感じさせた。
「さっき倒したので全部だといいんですが」
「私もそうあってほしいが、奴らは得体が知れんな」
俺も同意見だった。
消えたグールの残骸がどうなったか掴めていない。
果たして、この人数で大丈夫だろうかと一抹の不安を覚えたところで、砦の方角から松明の炎と足音が近づいてきた。
「オーウェン殿、我々もお伴(とも)させて下さい」
エスラとダスクの仲間が一人ずつ姿を見せた。
彼らはそれぞれ違う種類の装備を身につけており、その腕に自身がありそうな顔つきをしている。
「もちろん、歓迎だ」
「ありがとうございます。イアン殿に直談判した甲斐がありました」
二人は気力が充実しているようで、怖気づくような様子はなかった。
「さて、この辺りは調べ終わった。このまま足跡を辿って進んでいこう」
オーウェンはそう切り出した。
森と平地の境い目から奥に向かうほど、その闇は存在感が増すように感じられた。
大の大人が六人もいるというのに、どこか心細い気持ちにさせる。
「薄気味悪い森だな。エスラの近くにこんなところがあったなんて」
「やはり、肝っ玉が小さいんですね。……うわっ!?」
エレンはリュートを小馬鹿にするようなことを言っていたが、何かの物音に反応して驚いたようだった。
「エレン、味方をからかうのはよしてくれ。ダスクの品格が疑われる」
「おっと、まともな兵士もいるんだな」
「リュート殿だったか。今は協力することが必要な時、多少の無礼は目を瞑ってくれまいか」
後からやってきたダスクの兵士は、丁寧な態度でリュートに申し入れた。
「気にするなって。大して怒っちゃいない」
「それはよかった、はははっ」
ダスクの兵士はリュートの返答を聞いて小気味よい笑い声を上げた。
「――皆、我々を歓迎しているようだぞ」
彼らの会話を遮るように、オーウェンが声を上げた。
獣道の向こうに数体のグールらしき影が見える。
「さっそくお出ましか」
リュートは好戦的な雰囲気を醸し出しながら言った。
「あの一つ提案があるんですけど」
戦いの前に伝えておきたいことを思い出し、自分から話を切り出した。
「どうしたカナタ、手短に頼む」
「はい。実は俺の国にも似たようなモンスターがいて、頭を落とすと絶命させることができます」
「……ふむっ、なるほど。同じ弱点があるかもしれんということか」
「ええ、おそらく」
俺が火の魔術で燃やすことも可能なものの、森が焼失する危険が十分にある。
ゾンビと同じ弱点があるなら、それに越したことはない。
「皆、聞いていたか、奴らの首を狙ってくれ」
オーウェンは神妙な面持ちで言った。
俺たちはじりじりと敵との間合いを詰めていった。
炎や気配でこちらに気づきそうなはずなのに、グールは襲いかかってこない。
「……やけに不気味じゃねえか」
「リュート、慎重に頼むぞ」
オーウェンとリュートが短く言葉を交わした。
やがて、戦闘可能な距離に近づいたところで、控えていたグールたちが足早に引き返した。
「――なんだ、逃げるつもりか!?」
予想外の状況になっている。
しかし、歴戦の強者が揃っているだけあって、仲間たちは怯まずに追いかけた。
俺は罠かもしれないと危険を感じつつ、少し遅れて彼らに続いた。
それから、森の中を少し駆けていくと、グールが立ち止まった。
「……奴ら、どういうつもりだ」
時間差はあったが、オーウェンも不自然なことに気づいたようだ。
「……もしかしたら、グールを操る存在がいるかもしれません」
俺は躊躇いながら、一つの可能性について口にした。
「まさか、そんなことは……」
オーウェンは何かを言いかけたところで、口をつぐんだ。
おそらく、彼も不審な状況だと気づいたのだろう。
「――あれ、グールが消えた!?」
全員で注視していると、グールがの姿が闇に溶けこむように消えた。
「みんな、よく見ろよ。奥に何かあるぞ」
仲間の一人がそう言って松明を投げた。
するとそこには不気味な洞くつがぽっかりと口を開けていた。
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