エルフで少女で魔術師 その2

「……えっ、そんなはずは」


 少女は力を注いだ一撃に自信を持っていたのだろう。

 シモンの何事もない様子に困惑したような表情をしている。

  

「おれの降参でお願いします」


 クルトのもとに近づき、シモンは弱々しい様子でいった。

 何が起きているのかは本人以外の誰にもわからない状況だった。


「……そうだな、シモンがこういってるから、君の勝ちということでいいのか」


 クルトは釈然としない気持ちのまま、少女の勝利を認めた。

 しかし、少女はクルトの言葉に反応を示さず、シモンのもとに近づいた。


「あなた、何をしたの? 魔術の威力が無力化されてる」

「……いや、その、何というか、訳ありでして」


 クルトは少女の話に耳を疑った。

 魔術を無力化する方法など、生まれて一度も聞いたことがなかったからだ。


「シモン、君は一体何者なん――」

「わたしが勝ったから、5000レガル払ってくれるんですか?」

 

 少女は控えめな様子でクルトにいった。

 彼はその言葉に対して、どう返すべきか悩んだ。


 シモンを倒したところまではよかったが、金を受け取って去られたら目的を果たすことはできない。

 

「ああっ、払う。それに偽りはない。……ところで、君はどうしてこんな無茶をして、報酬を得ようとしたんだ?」


 生真面目な性格のクルトは、会話の矛先をそらすのが精一杯だった。

 彼の言葉を聞いて、少女は何かを考えるような間をとった。


「わたし、森育ちでフォンスに憧れがあって、豪邸に住みたかったんです。そのためにお金を貯めようと思っていたら、ちょうどあなたたちが」

「なるほど、それであそこにいたのか。残念だが、5000レガルあっても、あの辺りに建つような家は買えない。ただ、君にいい知らせを伝えたい」

「えっ、なんですか?」


 クルトの言葉に少女は目を輝かせた。

 続きを聞きたそうに真剣な表情になっている。


 彼が出せる現金に限りはあったが、現物支給でよいのなら話が違ってくる。

 優秀な人材のために、保有する邸宅を放出するという思い切った決断をするつもりだった。


「僕の所有する屋敷を君に譲ってもいい。ただ、5000レガルどころの価値ではないから、出来高払いにさせてくれ」

「ホントですか!? やった!」

「あっ、一応、最後まで話は聞いてくれるかな……」


 クルトは少女が落ち着いてから、具体的な説明をした。


 彼はカルマンの兵力と戦うことになるというお断りされそうな内容を包み隠さず伝えた。それでダメなら仕方ないと腹をくくっていた。


 しかし、クルトの予想に反して、少女は前向きな反応を示した。


「豪邸のためなら、多少の危険は目を瞑ります。それに森の中も十分、危険がいっぱいですよ」

「そうか、そういってくれるのなら助かる。……ところで、名前を聞いていなかったな」

「ヘレナです」

 

 少女は涼しげな笑みを浮かべていった。

 

 エルフ特有の美しさと少女特有の可愛らしさを備えた表情だった。 

 たしかにシモンが照れるのも無理はないかもしれないと、クルトは思った。


「僕はクルト、フォンスの騎士をしている。それであいつがシモン」


 シモンは少し離れたところに腰かけていた。

 ヘレナをちらりと見るのが精一杯で、まだ彼女に慣れていないように見える。


「シモンは遠い国からやってきたらしいが、腕は立つ。君とシモンがいれば、かなりの戦力になる。これからよろしく頼む」

「はい」


 クルトは意気揚々とした気分になっていた。

 出だしはつまづいたものの、強力な戦力を二人手に入れることができた。


 自分を含めてわずか三人。

 カルマンはどれだけの人数で攻めてくるか分からない。


 彼は改めて作戦を立てる必要があると感じた。

 夕方に近づきつつある太陽がクルトの姿を真っ直ぐに照らしていた。

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