エイシカ砦とオーク
始まりの青の戦士たちと行動を共にしていたら、ダスクという町がモンスターに攻めこまれて炎上しているところだった。
俺たちがその光景に目を奪われていると、ダスクの女王フレアがオーウェンに助けを求めてきた。彼女は危険を避けるために護衛を連れて逃げてきたという。
続いて生き残った兵士や市民も避難してきて、三十人近い大所帯になっていた。
これだけの人数でその場に留まるのは目立ちすぎるという話になり、オーウェンの提案でかつて使われていた砦に移動することになった。
俺たちは町の様子を見渡せる小高い丘を離れて、モンスターから身を隠せるという砦に向かって歩いている。
人数が増えて心強いものの、先行きが不透明であることに変わりはなかった。
俺はメリルと言葉を交わしながら、日が傾き始めた景色の中を歩き続けた。
やがて、ヨーロッパの歴史資料に出てきそうな西洋風の砦が現れた。
黄土色の石材で作られており、周囲には木立が広がっている。
全員が入るのに十分な空間がありそうだ。
「皆、エイシカ砦に到着したぞ」
先頭を行くオーウェンが高らかに宣言した。
それに反応するようにそこかしこから歓声が上がった。
何だか盛り上がっているようだが、砦の寂れた雰囲気に何やら不安を覚えた。
「メリル、何となくだけど……」
「はい、カナタさんの言いたいことは分かります」
俺たちは度重なる戦いを経験しながら、それなりに長い旅を続けてきた。
――すると直感的に分かるのだ。
窓代わりの申し訳程度の隙間しかなくても、内側から不穏な気配を感じ取れる。
「ちょっといいっすか?」
「どうした、リュート?」
俺が伝えるべきか迷っていると、リュートがオーウェンに声をかけた。
「さすがに、しばらく使ってないと中にモンスターがいるんじゃねえかなって。扉に鍵がかけてあるわけでもないし、先に確認した方がいいんじゃないっすかね」
「……その通りだな」
オーウェンはリュートの言葉に納得した様子を見せると、イアンに話しかけた。
二人は十秒ほど言葉をかわして、すぐに話がまとまったように見えた。
「気力と体力がある者は集まってくれ! まずは内部を点検する」
オーウェンが全体に向けて呼びかけた。
それから十人ほどの戦士や兵士が集まっていた。
俺も呼びかけに応じて輪に加わっている。
様子からして、イアンは戦闘に加わらず待機するようだった。
「メリル、何かあった時のためにここに残ってほしい」
「はい、わかりました。どうかお気をつけて」
メリルから不安げな様子を感じた。
中の見えない建物に入ろうとしているのだから当然のことだろう。
それから引き続き、オーウェンが指揮を取った。
「中はここよりも暗いはずだ。松明を手分けして取ってくれ」
着火済みの松明が数本用意されて、何人かの仲間に行き渡った。
「魔術師殿はどうする?」
一人の戦士が松明を手にしてたずねてきた。
「自分で火を起こせるので大丈夫です」
彼にそう伝えてから、右手の先に火の魔術を発動した。
小さな火の玉が浮かんで消えると、彼は驚くような素振りを見せた。
「そいつは便利だ。松明はいらなそうだな」
納得した様子で戦士は立ち去っていった。
下準備が済んだところで、オーウェンが進行開始の合図を出した。
彼を先頭に縦長の列になって砦に向かっている。
薄暗くて気づかなかったが、近くで見ると砦の老朽化が進んでいた。
前方に注意を向けていると、オーウェンが砦の扉を開けるところだった。
「中に松明を投げこんだら、一気に攻めこむ」
普段はよく通る声を潜めながら、彼はその場にいる仲間に指示を出した。
そして、彼ともう一人の戦士は素早い動作で扉を開けると、火のついた松明を投げ入れた。
「――行くぞ!」
オーウェンのかけ声とともに仲間たちがなだれこんで行く。
俺も遅れないように後に続いた。
中に入ると戦闘は終わりかけているところだった。
十体に満たない数のオークがいたようで、そのほとんどが斬り伏せられている。
「思い知れ、ダスクの敵だ!」
そう声を上げながら、一人の男がオークを両断した。
自分も戦うことを想定していたが、終わってみれば呆気ないものだった。
「手分けしてオークの死体を片付けるぞ。ここなら雨風をしのげるし、すぐには見つからないだろう」
オーウェンの言う通り、ここは主要な道を外れたところにある。
ここにいるオークたちが伝令にでも行かない限りは見つかりにくいはずだ。
俺の火の魔術や仲間が手にした松明が薄暗い部屋の中を照らしていた。
注釈:戦士=始まりの青、兵士=ダスクの勢力。
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