魔術医は竜の秘薬を手に入れたい

 同じ日の夕方になってから、カレンと会ったカフェにやってきた。


 どこにいても見つけられるというのを証明されたくなかったのが理由だった。

 こちらのマナを探知して会いに来られるというのは、何だかいい気がしない。


 夕日のあたるテラス席で、本日二杯目のハーブティーを頼んだ。

 一日に二度目の来店をすれば、何かしら反応されそうなものだが、自然に対応してくれるこの店は素晴らしい。


 ドラゴン退治に巻きこまれて気分が晴れない節があったものの、お気に入りのお茶を飲めばマシになりそうな気がする。


 それから、ゆっくりとお茶を楽しんでいると徐々に日が暮れてきた。

 この店は夜も営業しているが、屋外は少し暗くなってくる。


 席を店内に移動しようと思いかけたところで、カレンがやってきた。


「お待たせしました。ちょうどいい人材が見つかりました」

「あっ、そうなんだ」


 実際に本人がやってくると、煮え切らない態度は失礼な気がした。

 不服そうな態度を取るのは大人気ないと感じた。


「やあ、カナタ。まさか、ドラゴン退治の仲間になるなんてね」

「えっ、スカウトされたのはクラウスなんですか?」

「以前から診ている患者に難病の子がいて、竜の秘薬が必要なんだ。カレンは治癒魔術が得意な人がほしいみたいで、要望がマッチしたって感じかな」


 整った銀髪を撫でて、クラウスがいった。

 いつも通り、涼しげで色気のある同性だと感じた。


 シモンとカレンも顔立ちは平均以上なので、引け目を感じてしまう。

 当然だが、外見と魔術に相関がないのは言うまでもない。


「剣術に優れたシモン、攻撃魔術の得意なカナタ、治癒魔術の得意なクラウス。そして、オールラウンダーな私がいれば完璧」


 カレンが嬉しそうなトーンで言った。


「四人ってけっこう少ない気がするんですけど、これでいけますか?」

「はい、伝承では前回のメンバーも四人みたいなので大丈夫です」

「なるほど、そういうことですか」


 アバウトな気もするが、担保できる何かを求めるのは無粋な気がした。

 心のどこかで、新しい旅に出られるならそれでいいじゃないかという声が聞こえた。


「顔合わせはこれでよろしいですか?」

「俺は問題ありません」


 クラウスとシモンも頷いた。


「それでは、一度解散にしましょう」


 俺たちは待ち合わせの時間を聞いて、それぞれの帰路についた。


 

 そして、翌朝。

 ミチルちゃんにしばらく宿舎を空けることを伝えて出発した。


 待ち合わせは街の出入り口にあたる城壁の近くだった。

 門のところには衛兵が立ち、不審者が入りこまないか監視している。


 俺が一番乗りのようで、他のメンバーは誰も来ていない。


「朝早くからお疲れ様です」

「これはカナタ様。今からお出かけですか?」

「はい、ちょっと遠出をしようと思って」

「左様ですか。お気をつけて」


 衛兵の男性と話してから、彼らを待つことにした。


 しばらくすると、カレン、クラウス、シモンの順に到着した。


「おはようございます。来てもらえてうれしいです」

「約束しましたからね。そういえば、どうやって行くんですか?」


 わりと重要なことなのに、聞きそびれていた。


「そういえば、おれも知りません」

「私もそうですね」


 シモンとクラウスが同じようなことを口にした。


「隠すつもりはなかったのですが、秘伝の魔術で移動します」

「秘伝? 一体、どんな魔術なのかな」


 クラウスが興味の有りそうな反応を見せた。 

 

「仕組みとしては簡単です。風を使った魔術といえばいいでしょうか」


 彼女が頭上に右手を掲げると、俺たちの周囲に風が吹き抜けた。


「移動はその応用で可能です。魔術から発生した風に乗るイメージです。人数制限があって体重にもよりますが、四、五人が限度です」

「えっ、それって何気にすごくないか?」


 そんな魔術の使い方は知らなかった。

 クラウスも感心しているのか言葉がない。


「一度、出発するとしばらくここに戻ることはできません。今の人数を運んだら、私のマナが戻るまで時間がかかります」


 カレンの説明に俺を含めた他の三人が頷いた。


「それでは、早速行きましょう」


 全身の力を抜くようにと指示があり、言われたとおりにした。

 すると、重力を無視するように身体が浮かび上がった。

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