第483話 さらに危険になってゆく道



――――――サッファーレイから北へ30kmほど。


 ちょうどアイアオネとの中間にあたり、周囲はどこまでも開けていて黄砂と荒れ地がマダラに混ざり合っているような景観が続いている。


 街道がなければ、今どこにいるのか迷いそうなほど、目印になるモノがない道の途上に、数多くの車列が止まっている。



「いやー、助かったよ。魔物に襲われて撃退したまでは良かったんだが、こんなところで車輪がイカれちまって、困り果てていたんだ」

 ラクダ車の荷台の足元で作業していたハヌラトムが立ち上がると同時に、持ち主がお礼を言って来た。


「旅は道連れ世は情け、でしたかしら? 困っている時はお互い様というものですわ」

 修理作業を終えたばかりのハヌラトムに代わり、応対するルイファーン。

 ラクダ車の荷台はかなり大きめで六輪タイプ、中は大量の積み荷を搭載している―――隊商キャラバンの車列だった。


「サッファーレイに荷を運ぶ途中か? こんなにどっさりじゃ、時間かかるだろ」

 マンハタが他のラクダ車の数を数えるように再確認する。

 大型の荷台を二頭立てで引くラクダ車が12台。


 もちろん護衛で傭兵やら私兵やらがついてはいるが、護衛対象の数に対してやや人数が不足しているように見える。


「まぁ鈍重なのは違いないですがね……やはり魔物との遭遇が多くて、大変で……」

 いやはや困ったものですと、この隊商の長が頭が痛いと言わんばかりに首を振った。


「どーやらスタンピードのせいで、サッファーレイ以北はますますヨゥイが増えちまってるみてぇだな。オレが仕事で半月前にレックスーラ行った時にゃあ、まだ行けたもんだったのによ……ますますヤベぇ感じになってきてやがんな」

 ザムがいやだいやだと肩をすくめ、軽く身震いした。


「先々の町や村は大丈夫なのでしょうか……」

 シャルーアの呟きは、自分達が行く上での治安の心配ではなく、現地の町や村の人々を心配してのこと。

 なにせその中には、奪われたとはいえ自分の生家があるスルナ・フィ・アイアもあるのだから。


「アイアオネの方は、まだ比較的大丈夫だと思いますよ、お嬢さん。ジューバなどの西方面の町の方には、怖くていけませんが聞いたところによるとレックスーラの南東あたりで軍が頑張って魔物の群れが北へと広がるのを防いでるとか……なので今はまだ、大丈夫だとは思いますがね」

 商人は、いかにも下手にあちらの方には行かない方がいいですよと言いたげに言葉を結んだ。


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「王国各地で魔物が活性化し、治安が悪化してはおりますが、やはりスタンピードの影響でしょう、王国北端地域はより野の魔物が増加しているようですな」

 南下する隊商と別れ、再び北へと走りだす馬車の上で、手綱を取るハヌラトムが憂慮を示す。


「スタンピードの広がりを抑えてるっつーても、討伐しきれてねぇのがな……。随分長いことかかってるみてぇだが……」

 マンハタは、魔物のスタンピードをなかなか倒しきれないでいる王国正規軍の不甲斐なさに眉をひそめる。

 実際、すでにスタンピードが起こってからかなりの時間が経過している。

 南はマサウラームまで、北はジューバから南に50kmほどのところまでで押しとどめているとは聞くものの、根本的に脅威を取り除くことが今だできていないのは問題だろう。


「広い範囲に広がっているようですし、難しい問題ですわね。兵士の皆さんの数にも限りがあるでしょうし」

 実際、ルイファーンの言う通りだ。現地では魔物たちと戦う兵士の数がギリギリで、押しとどめ続けるので精一杯になっている。

 当該地域担当の方面軍が全力で当たっているものの、ここでも平和だったファルマズィ=ヴァ=ハールの普段からの有事への備え不足がたたっている。

 戦力不足はもちろん、兵士達の対魔物意識の欠落などもあって、対応はかなり後手かつ場当たり的なのが現場の実態だった。


「陛下が戦力を回す手はずをつけてはいるでしょうが、ジウの動きにも注意を向けなければいけない今、何とも苦しいところでしょうな―――と、どうやらまたお出ましのようですね」

 ハヌラトムが馬車を止め、御者台から飛び降りる。



 呑気におしゃべりをしながらの旅路も、10分もできれば良しというところ。本当に魔物との遭遇率は数か月前とは比べ物にならないほど上がっていた。



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