第十七章
オアシスのある大地
第481話 美しき湖畔の町の朝
――――――オアシス。それはこの砂漠や荒野の多い地域においては楽園と呼んでも過言ではない、重要な水源地だ。
貴重な植物が身を寄せ合い、野生の動物がノドを潤し、人もまたその周囲に集まる生命の
このサッファーレイは、まさしくそのオアシスの代表的ともいえる要地であった。
「おはようございます。
シャルーアが宿泊テントから出てくると、ザムは軽くフラつきながらも何とか笑顔を作った。
「はは、は……ああ、大丈夫さ。このくらいどーってことないから、ははは」
ザムは、連夜に渡り野宿の際の見張り番を担わされていた。もちろんマンハタが主導となって取り決めた、夜の間にシャルーアに良からぬことを行わせないためだ。
その代わり、昼間は馬車の荷台で乗り続けていても良い―――というのは建前で、当然ながら馬車の荷物番を務めさせられている。
つまり、ザムはシャルーア達と行動を共にし始めてからロクに眠っていない。
「(くそー、あの嫉妬野郎め……ここまでするかっつーの、別に手出しするつもりは―――)」
しかしふと視線に、寝起きのシャルーアの、優れたその肢体が朝の光に照らされて煌めくのが見え―――途端、気付けばザムは自分でも無意識のうちに、真正面から思いっきり彼女の胸を持ち上げるように揉んでいた。
直後、横から小石が飛んでくる。
「痛ってぇ!? 何すんだっ」
「そいつはこっちの台詞だぜ、朝っぱらからシャルーア様に堂々とセクハラしてんじゃねーぞ、この野郎」
石の投げ手はマンハタだ。
ここまでの旅で、マンハタが本当にシャルーアに心酔信奉し、自分から彼女の下僕であらんとする者だというのはザムにも理解できたが、特にザムのセクハラを指一本でも許さないと言わんばかりに当たりがキツい。
「マンハタ、
「いーえ、シャルーア様がいかにお許しになりましょうとも、このマンハタの目の黒いうちは、この
ザムに関しては強い意志で譲らないマンハタ。
さすがにシャルーアもそこまで言われるとマンハタの意志を尊重し、かつ自分を守ろうとしてくれているその気持ちを汲み取るべきと思って、それ以上マンハタをなだめはしなかった。
・
・
・
「まぁ、大きなコブですわね?」
「……ああ。まぁ、ね」
サッファーレイの食事処で、一同が朝食に集まる。
ルイファーンがむすっとしているザムの後頭部にできているタンコブを、また何かしでかしましたの? と呆れたようなジト目で見る。そんな彼女に続いてハヌラトムも入店してきた。
「はは、またぞろマンハタ殿に叱られたというところですかな。おはようございますルイファーン様、ザム殿」
以前は野宿などの際の夜の見張り番は彼がやってくれていたがザムが加入して以降、その役目は彼が担ってくれているので、ハヌラトムはしっかりと睡眠が取れ、連日調子が良さそうだった。
サッファーレイは今、スタンピードの影響で故郷から避難した人が避難先としてそれなりに入ってきているせいもあって、かなり人が多い。
当然、既存の宿泊場所は満員満室。
なのでシャルーア達のみならず旅人たちはみんな、サッファーレイの郊外にテントを張って寝泊まりし、このオアシスの町での用件を済ませて旅立つといった感じになっていた。
「ここまで混雑したサッファーレイを見たのは生まれて初めてですわ。昔は避暑によく訪れていましたけれど、今でしたら落ち着いて過ごすこともできそうにありませんわね」
そうしみじみ語るルイファーン。
思えばシャルーアとルイファーンが初めてであったのもこのサッファーレイだ。
(※「第142話 風のお嬢様・ルイファーン」参照)
「せめて別荘が無事でしたら少しはゆっくりと出来ましたのに……残念ですわ」
彼女の別荘は、マサウラーム町長の名義で建てられていた。
その町長たるジマルディーが亡くなってしまった事でその効力は失われ、サッファーレイの町預かりとなっていたのだが、父の死後のアレコレに忙しかったルイファーンは、別荘のことを長らく後回しにしてしまった。
結果、別荘はサッファーレイの町の所有になり、昨今の人の増加に対応するために今は宿の1つとして機能させられていた。
「仕方ありますまい。このような状況では、別荘として取り戻すことも
「まったくだぜ、感謝してくれよー?」
「……そう言って、こっそりお尻を触ろうとしないでくださります? そのような事をなさるからマンハタさんに殴られるんですのよ?」
ルイファーンに指摘され、少しだけ触れたところで手を止めたザム。ハヌラトムが軽快に笑う。
そこへシャルーアとマンハタも入店してきて、全員が朝食の席に合流した。
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