第424話 追跡する影潜馬と一般人少女(22)
結論から言えば、カッジーラ一味は仕事を果たしたと言える。
まず馬車10台以上の車輪、荷台が損壊。荷駄馬の数頭がケガをし、馬車を引く事ができなくなった。
さらに護衛の兵士およそ60人ほどに重軽傷を負わせ、積み荷の荷箱や麻袋などを程よくかっぱらう事に成功した。
もっとも手下の30人ほどが捕えられたり、その場で叩きのめされて二度と動かなくなったりした者もいるので、彼らにしても損失はそれなりに出しているが、大仕事の場合はそのくらいの犠牲はいつものことで、取り立てて問題でもない。
―――だが、カッジーラ一味の失敗は、その輸送部隊を狙ったことからして既に大きなミスであった。
「囮の輸送部隊をまんまと襲ってくれた。おかげで連中の頭数の実態や頭目のカッジーラも確認できたし、何よりアレらの引き上げ先に追手が入っているらしいから、おっつけアジトの場所も分かるそうだ」
リュッグはここまで計画通りだと、ちょっと気持ち悪いと言わんばかりに肩を軽くすくめる。
「上手くいってよかった。なかなか面白かったです、エサに食い付いた獲物を背中から襲うにもタイミングがある―――いい事を学べました」
「うむ、奥が深い……実に」
「俺、よく覚えておく。狩りにも、応用……できそうだ」
ザーイムンらは非常に良い活躍をしてくれた。
乱戦になるのが予想できていたので間違えて同士討ちにならぬよう、念のためにファルメジア王にお願いして用意してもらった王国正規軍の装束をまとった彼らは、他の護衛の兵士達から、あいつらはどこの所属だ? すごいじゃないか、など賞賛の声が上がるほど、活躍していた。
しかも今回、加減が上手かった。
彼らが本気になって暴れると、おそらく襲ってきたカッジーラ一味は全てあの場でぶち殺されていたことだろう。
だがアジトなどの活動の地盤が暴き切れていない以上、全滅させてしまうとアジトと一味の残党がしつこく残る。
なので事前に、ほどよく手加減するようにとリュッグは指示していたのだが……
「(手加減とその意味を理解してくれ出したのが、ここ一番の成長かもしれんな)」
おかげで重軽傷者こそ出たものの、こちらに死者はなく、相手にいい感じで打撃を与え、追い散らすことができた。
あれなら追尾する者はかなり楽に尾行できるはずだ。
「(確か、10人程度が連中の尾行に動くと聞いているが……結局そいつらとは顔を合せなかったな)」
―――その追尾班の一人として雇われたオーヴュルメスは、現場から荷箱を持って路地裏を走るカッジーラ一味の1人を追跡していた。
「(一般人を装ってー、ってかモロ一般人なんスけどねー、こっちは)」
まとまった額の報酬を約束されているし、上手くやればさらに多く貰える。
金目当てではあるものの、無理をする気はサラサラなし。
いくら相棒のバイコーンが強く、万が一でも問題なしとはいえ、トラブルはなるべく回避するに限る。
理由は単純―――めんどくさいから。
「(バイ君、他に気配はあるっスか?)」
『(ブルル……)』
「(アイツ1人、近くにはなし……と、さんきゅーっス。ってぇことは、下っ端っスかねぇ? まぁそのくらいのを追いかけるのが丁度いいっスかね)」
あとはアジトの場所を教えてくれればOK。
オーヴュルメスとて一般人とはいえ、これまで相応に危ない橋を渡って生きて来た経験がある。素人よりかはこうした尾行は上手い方だろう。
……しかし、あくまで何の訓練もしていない一般人である。捕まれば終わりの、真の綱渡りな生き様をしてきた賊徒たちとは、その辺りの差は思いのほか大きく開いていた。
「(! あの建物に入ったっスね)」
『(ブフッ……)』
「(中に気配が多数あるっスか? ……じゃあ当たりで間違いなさそうっスね)」
しかしオーヴュルメスは、その場からしばらく建物を伺い続ける。
理由は単純。アジトと見せかけておいて、追跡者を誤認させるためのブラフやダミーの可能性があるから注意しろと、作戦を伝えられた際に注意されていたからだ。
「(んー……お、出て来るっスね、ゾロゾロと。やっぱりあの建物自体はブラフだったスか)」
合計20人と少しが建物外へ出て来て、揃って移動を開始。それぞれ恰好はバラバラだが、いずれも一般人を装い、手には大小なんらかの荷物を持っている。
「(着替えと荷物をバラして分担して持っていく感じっスかー。思ったよりも徹底してるみたいっスねぇ)」
『(ブルル……ヒヒン)』
「(おっと、そうっスね。追いかけないと)」
見失っては意味がない。オーヴュルメスは移動していく連中の後を追う。
が―――ブラフの建物、その入り口の1つの前を横切ろうとしたその時、暗闇から手が伸び、その身を掴んできた。
「!!?」
「へへ、なーに俺達を
そのまま建物の中へと引きずり込まれる。
だがオーヴュルメスは、相棒のバイコーンに助けを求める―――のではなく……
「(バイ君、あっちを追ってくださいっス!)」
『(ヒヒンッ)』
移動していった連中の行先を突き止めることをバイコーンに託し、自分は建物の中へと完全に引きずりこまれていった。
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