第410話 後宮に今は秘される新たな星
リュッグの予想通り、シャルーアが帰って来た事で他の側妃たちは色めき立った。
しかし予測できていた事だけに
もちろん、外部への連絡などは全てシャットアウトだ。
表向きの理由付けとしては、王都の治安が不穏な状況下において、王の後宮に住まう者の手紙等が万が一にも賊に漏れてはいけないから、という機密性を誇示したものだった。
「本当にお久しぶりだねー、シャルーアちゃん」
「はい、ハルマヌークさんもお元気でいらしたようで何よりです」
後宮奥の側妃達の個室に繋がるロビーは、シャルーア達を中心に側妃達であふれかえっていた。
「出て行かれた後、皆でとても心配していましたの。……ですが、お変わりないようで安心いたしましたわ」
心なしか、少し落ち着きと側妃らしい淑女さが身に着いたようなエマーニが、本当に安心したと言わんばかりに穏やかな表情を浮かべる。
その後ろでアデナラとデノも笑顔で、うんうんと同意とばかりに頷いていた。
「それでそれで、アムトゥラミュクム様はどうなりましたの??」
「そうそう、シャルーア様に戻られたということはその……」
「……お消えに……?」
他の側妃達の関心は、アムトゥラミュクムがどうなったかに寄っていた。
何せ出かけた時はまだ、アムトゥラミュクムが顕現した状態だったのに、後宮へと帰って来たかと思えば、シャルーアに戻っていた―――外に出かけていった間に何があったのか、アムトゥラミュクム様はどうなったのか、ずっと後宮にいる彼女達には気になること満載だ。
加えてアンシージャムンとエルアトゥフという、方向性の異なる2人の、絶世の美少女まで連れて帰って来たのだから、新しい話題に飢えている側妃達の好奇心は爆発寸前だった。
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「お疲れ、シャルーアちゃん。アンシーちゃんとエルアちゃんも、囲まれて大変だったねー」
側妃達のおしゃべりタイムはおよそ5時間近くにも及んだ。夜の帳が降りてきて、ヴァリアスフローラが側妃達を散らしてようやく終わりを告げ、ハルマヌークがいたわりの言葉を投げかける。
「はい、皆さんお久しぶりということで、お話したい事が山のようにあったようですね」
シャルーアは平然としていたが、アンシージャムンとエルアトゥフはヘトヘトになっていた。
途中から着せ替え人形状態で遊ばれた残滓として、髪にリボンがついていたり誰のものか不明なドレスを着せられてたりした状態で、くつろぎ用のクッションソファーの上に身を投げ出してグッタリしている。
「はー、はー…………ソクヒ、って、もしかして人間じゃなくない?」
「ぅん……何がなんだか分からないうちに私達、どうなったんだろ……はぅ~…」
「クスッ……二人とも、お疲れ様でしたね。この後はお食事のお時間ですから、その前に身だしなみを整えましょう。ハルマヌークさん、お手伝い頂けますか?」
「うん、もちろん。そのうち陛下も来るだろうし、ちゃんと整えとかないとね。名目上だけっていっても、二人も一応は側妃って事になってるんだし」
それっぽい恰好をさせ、整える必要がある。
心なしかハルマヌークは、以前よりも後宮の側妃として完成した落ち着きと雰囲気を纏っているような気がした―――が、その理由をシャルーアは既に理解していた。
「……そういえばハルマヌークさん。陛下にはまだお伝えしていないのですね」
「! ……あはは、さっすが。一目でバレちゃってるのかー。いやー、シャルーアちゃんには敵わないねぇ」
もし
「ヴァリアスフローラ様には相談済みだよ。正直、今の状況で
本当に真剣に考えた場合、ハルマヌークが慎重になったのは大正解だ。
もし安易に明るみに出していたら、それこそ王宮の状況は混迷を深めていたことだろう。
「では、ヴァリアスフローラ様も今は―――」
「うん、まだ言わないでおくほうがいいだろうって話になった。……私のお腹にデキた子のことは、ね」
待望の、王の血を引く子の懐妊。
もちろんハルマヌークの見た目にはまだ、まったくそうと気付く変化は見られない。
ナーがグラヴァース准将の子を産んだばかり。ヴァリアスフローラも妊娠中、そして―――ハルマヌークがファルマズィ=ヴァ=ハール王国に小さな希望の輝きをもたらす。
王国が大変な状況下で苦難に満ちている中、光明さす吉報は静かに知らされるべきタイミングを待っていた。
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