第369話 剛剣のゴロツキ親分vs流剣の狂達人
ゴォッガ!! ドッ、シャッ……ギィンッ!!
アルハシムのシミターも、並みの物に比べれば長大だ。しかし、そもそもシミターという武器自体、重量級の剣というわけではない。
本来なら柄込みで80cm~100cm、重量が1.5kg~2.0kgのものが一般的だ。しかしアルハシムの用いているモノは刃だけで130cmほどはあり、刀身の幅も一番広いところで15cm以上はあろうかという一振り。
しかしメサイヤの用いるグレートソードは刀身が2mオーバー。しかも幅も従来のグレートソードでは思いもよらない30cmの巨大な両刃剣だ。
刃など、あって無きが
『(理屈は簡単ダ。……が、ソレを現実にスルには、並み大抵の者デハ不可能)』
それこそ自分達のように魔物化した人間ならば余裕だろうが、このメサイヤのように真っ当な人の身のままでその重戦スタイルを実現している事が、既に賞賛に値する。
アルハシムはなんと面白いことかと、喜びに満ちた表情のまま、その剛撃をいなし、受け、あるいはかわし、反撃の1撃を繰り出す。
キィンッ! ギギッ……
「(いかに大物とはいえシミターで我が攻撃に砕かれる事なく渡り合うとはな……それに、流れるような掴みづらいこの剣筋は、どこぞの剣術家崩れか)」
剣の道に限らず、何かしらの道にどっぷりとハマり込み、そのままどこまでも進んだ結果、狂った領域へと踏み外してしまう達人の話は、意外と多い。
強さ、力、剣技、あるいはその全て……更なる先を渇望し過ぎるがゆえに、外道に堕ちる者―――情けない奴らだと思う一方で、正しく厄介な強者であるだけに、メサイヤは軽く舌打ちをしながら、受け止めたシミターを払って、間合いを取った。
「親……分……」
「喋るなアワバ。出血を止め、息を整えていろ、死ぬぞ」
感情のこもらない平坦な声なれど、しかと手下の心配をするメサイヤに、アワバは嬉しく思いつつも、これだけは言わねばとなお口を開く。
「ヤツは……アルハシム、と名乗っていやした……はぁ、はぁ……奴の持ち味は、高速のくせに波のようにうねる斬撃です、気を付けてくだせ……げほっ、うぐっ!」
「……分かった、それで十分だ。よくやったアワバ」
メサイヤが再びアルハシムに向かっていく。
ガッ、ブンッ、ヒュオッ、カカッ、キィッン!
アワバから情報を得たとはいえ、アルハシムはまだその自身のスタイルはほとんど見せておらず、一般的な剣術の基本に沿った攻防をメインにしている―――メサイヤの実力を測っているのだろう。
メサイヤの実力を見抜くというのもあるだろうが、どちらかといえば十分にこの敵との戦いの状況を楽しみたい、という欲がそうさせているように思えた。
『良いゾ良いゾ……ここまデ戦えル者がまだ人の世にもイタとはナ!』
「フン……己に敵う者はないと
『言いヨるワ! シかしソの
アルハシムがそう言った瞬間―――
キキィンッ!
「む? これは……」
相棒たるグレートソードが、これまで奏でたことのない金属音を発する。そして……
バラッ……ゴトトッ、ゴトンッ
刀身がぶつ切りにされた根菜のようにバラバラになって地面へと落ちる。メサイヤが握る柄から僅か30cmに満たない部分だけを残して、グレートソードの刀身は破壊された。
『ククク、ただ打ちあってイたダけに見えタか? 戦いにおいテ武器破壊は基本中の基本……重厚巨大なル金属の塊とテ、私に斬れぬモノはナイ』
「(なるほど……名声は伊達ではない、という事か)」
しかしメサイヤとて並みの男ではない。グレートソードの切断面を注視し、武器破壊のカラクリを読み解く。
「(そもそも長年使っていたモノだ。金属疲労は無論、見えない部分にもヒビや欠けはあったはず。打ち合いの際の金属音にて、その箇所を特定し、狙って刃を合わせた……事実、切断面は奴のシミターに切り離されたというよりは、ヒビに沿って割れたような跡だ……つまり奴が口で言うほど、金属まで容易く斬れているわけではない)」
相棒を破壊されてしまったのは残念だが、さほど問題ではない。短くなったとはいえ、刀身の切れ味ではなくパワーと重量による破壊力が、その攻撃の
つまり壊れたグレートソードはまだ使える。
短くなっただけならば、予備に持ってきた
問題は、どちらも
「(グレートソードならば、その重量に力を乗せた破壊力でもって、奴らにもダメージを与えられた……しかし……)」
重量と射程を失ったグレートソードと、長くとも重さの足りないファルクス。
アルハシムの攻撃を凌ぐ事は出来ても、その刃は魔物化した肉体を傷つける事が困難なのは明白。
「(どうする……アンシージャムンとエルアトゥフは、兵士達を先に撤退させるために残って敵をなお引っ掻き回しているからこちらへの合流はなお遅れる……手下に重傷者は多い……強行撤収は不可能)」
戦闘者としてだけでなく、上に立って人を率いる者としての判断も加わるメサイヤ。
チラリとアワバ達重傷者の様子を伺う―――と、あるモノが目に留まり、メサイヤはそこに勝機を見出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます