第214話 戦い終わって陽は昇り在る
「まったく、とんだ式典になりましたわね。皆様大丈夫ですの?」
そう言って、帰ってきたリュッグ達を出迎えるルイファーンも、目の下に軽くクマができている。
「うん、平気平気~。まさか朝になってるとか思わなかったけどねー」
「なかなか……面白い結婚式、だった……ムフー」
ムーとナーは疲れなど知らぬとばかりに元気がいい。
「ふー……さすがに招待客の方々は緊張が切れたか」
避難した賓客たちも、状況が状況だけにおちおちのんびり休んでもいられず、魔物がどうなったか気をもんでいたのだろう。
だがグラヴァース率いる軍の兵士達によって討伐された報を受けて安堵したのか、何人かはみっともない恰好でソファーに身体を預け、寝息を立ててる人すらいた。
「リュッグ様もお疲れ様ですわ。あのような化け物をお相手に、さぞ大変でいさしたでしょうに……ささ、私がその労を慰めてさしあげ―――……あら?」
いつものようにリュッグへとすり寄ろうとしたルイファーンだったが、足元がおぼつかずにフラつく。すぐ近くだったムーとナーが咄嗟に支えた。
「さすがに全員ヘトヘトだな。とりあえずまずはしっかりと休息を取ろう。
招待客達の避難室になっている宮殿の広い応接室内には、グラヴァースの同席たる女将軍の姿が見当たらない。
「彼女でしたら何やら仕事があると言われまして……先ほどのリュッグ様方の勝利の一報が参りました直後、兵士の皆さまをお連れになって出ていかれましたわ」
それを聞いて、リュッグの顔が僅かに険しくなった。
オキューヌの護衛としてワッディ・クィルスからここまでお供してきた彼女の兵士達は、さほど多人数ではない。
リュッグが最初、借り受けた兵士を除いた残りは、念のためオキューヌを含めたこの賓客たちの守りとして残っていたが、10人といなかったはず。
それを全て率いて応接室を出て行ったということは、少なくともここの守りは既に必要ないと判断したからだ。
「(オキューヌ殿は奔放的に見えて理知に従うタイプだ。意味のない行動はしないはず……まさか、まだ何かあるのか?)」
正直、リュッグもさすがにヘトヘトで、そろそろ休みたかった。だがもし事がまだ完全に終わりを迎えていないのなら、安易に休むことはできない。
「あら? そういえば……シャルーア様は? 御一緒ではありませんの??」
ルイファーンは、リュッグの後に続いて応接室にやってくる人影がないことに気付き、キョロキョロと見回した。
「ああ、シャルーアはその、ちょっと動けない状態にあってな。怪我したとかそういう事ではないんだが……」
――――――その頃、砂漠の巨大妖異との戦闘地。
グラヴァースの指揮のもと、完全停止した巨大妖異の身体を、兵士達が慎重に解体していた。
その現場の脇に、シャルーアはいた。
「………ほぁ~……」
いかにも電池が切れましたと言わんばかりに、呆けた状態でへたり込んでいる。
その上には日除けのための簡易テントが張られ、左右には彼女に霧吹きで水をふきつける兵士と、大きな団扇のようなもので風を仰ぐ兵士の4人が、動けない少女の世話をしていた。
「だ、大丈夫ですか??」「もう結構こうして―――あちっ!?」
「まだ熱が冷めないみたいだな。もっと霧吹きを―――」
「いやもうコレ、思いっきり水をぶっかけるくらいでもいいんじゃあ?」
巨大妖異を倒した後、シャルーアは例のごとく、その身から高熱を発する状態になっていた。
シャルーア自身、意識はあるようだが何を問いかけても " ふぁ~ " とか “ ほぁ~ ” としか返せず、しかも動けないようで、仕方なくこういう状態になっていた。
刀を持った両腕をだらんと前に落とし、やや股が開き気味な女の子座り。上の空で軽く朝の青空を眺めている。
「……ほぁ~………」
霧吹きで水分をふきつけ、風を仰ぎつけることで気化熱で身体の冷却を早めようというのはグラヴァースの案だが、いっこうに冷める気配がない。
それどころか褐色肌に熱された適度な水分が輝き、またその黒髪の艶やかさを際立たせている。ただでさえ魅力ある美少女……その態勢も手伝ってより煽情的に兵士達の目には見え、魅了される。
「(ゴクッ……)」
「おい、ヘンな事考えるんじゃあないぞ? 今回一番の戦功者なんだからな」
「わ、分かってるって!」
「だけど、功績は全部グラヴァース閣下の名の下にっていうのが不思議だよな」
「あまり公にしない方がいいってことだろ。このコのあの、舞うような神秘的な光景……俺達だって、思わず止まって見入っちまってたくらいだ、普通じゃあないんだろう」
「確かに。名誉うんぬんよりも色々面倒なことがくっついて回りそうだもんなぁ」
「だから、グラヴァース閣下の指揮のもとに俺達兵士が頑張って倒した事にする、って決めたんだろ。あのリュッグってこのコの保護者も言ってたろ? 大手柄は悪い事も引き寄せちまうって」
兵士達が理性をたもつため、雑談に華を咲かせようとする。だが……
「……はふぅ……」
「「「「っ!!!」」」」
シャルーアが時折あげる小さな吐息が色っぽくて、すぐに遮られてしまう。
まだ朝早くて日は浅い位置だというのに、彼らの熱さは真昼の炎天下のごとく昂っていた。
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