第190話 追いついてどっと疲れる大人達




 翌日、タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達の案内で、リュッグ達は砂漠の横断に成功し、西の大街道へと抜け出ていた。




「ここがママと別れたところです。ママはあの道を向こうへ行きました」

「そうか、ありがとう。ここまで送ってくれて助かった、感謝するよ」

 妖異に謝意を示す日が来るとは思ってもみなかったが、世話になったのは間違いない。リュッグはタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達に礼を言う。


「母に伝言、俺達元気やってる、言ってくれ」

「心配、不要。かーさん、健康、第一」

「うんうん、もし暇があったらママーもまた顔見せてねって言ってね」

「みんなでかかさまに心配かけないよう、頑張ります」



「ああ、うん、伝えとくよ。なんて言うか色々ありがとうね、キミたち」

 オキューヌも何だか調子が狂う。何せ魔物なのに5体ともイイコなのだ。

 国の治安維持で数多の魔物を退治してきた身としては、なかなかに複雑な気分だった。




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 タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達と別れた後、シャルーアの後を追う形で一行は、大街道を北上する。


「エル・ゲジャレーヴァに向かったようだな。まだいるといいんだが……」

「丁度いいね。あそこのグラヴァース少将に話があるんだ。同じ “ 東西護将 ” の一人で、エル・ゲジャレーヴァはこの辺り一帯の方面軍本拠なんだよ」

 もともとオキューヌは、連絡不十分な同僚達としっかりと情報交換すべくリュッグに同行した。

 目的地が同じならまさしく丁度良い。




「ところでリュッグ。アレは……あのままでいいのかい?」

 オキューヌのいうアレとは、馬車の荷台で大きなタンコブを作って正座させられているムーとナーのことだ。


「ああ、今回は少々イタズラが過ぎたからな、反省してもらわないと困る」

 タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人のメスである、アンシージャムンとエルアトゥフをリュッグの寝床にけしかけたのは、他でもないムーとナーだった。


 一番早く怪人達と意気投合した二人は、特に同性のメス2体とはやたら話が弾んでいた。

 そして二人のイタズラ好きな性格が遺憾なく発揮され、2体の妖異は素直に彼女らのそそのかしに従ったのだ。


 その事が発覚したのも、アンシージャムンとエルアトゥフがリュッグの問いに素直に、“ こうすれば喜ぶからってムーとナーが ” とあっさり白状したためだ。

 どうやら素直さも “ 母 ” に似たらしい。


 結果、ムーとナーは温厚なリュッグを怒らせ、脳天に拳骨1発ずつお仕置きを喰らい、荷台でおとなしく正座させられるという罰を受けていた。



「ま、許してやりなよ。実害があったってわけじゃないんだし―――」

「ヨゥイが出てきたらやらせますから、それまであのままです」

 ピシャリと言い切るリュッグ。これといった感情は特に篭っていないが、明らかに怒っている。


「(あちゃー、こりゃ逆鱗に触れちゃった感じだねー。二人とも)」

 やりすぎ注意。

 悪フザケは過ぎるとイジメにもなれば、取返しのつかない事態になることもある。


 むしろ叱られるだけで済んで良かったということだろう。オキューヌはそれ以上双子姉妹を庇うことを諦めるが、タイミングよく罰からの解放の時が来る。



「! ……どうやら、早々に出番が来たな。二人とももういいぞ、ヨゥイが出た」




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「さっすが、整備された街道は狙われるわねっ」

 

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「数が多いっ」「焦るな、1匹ずつ確実にだ!」


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「お姉ちゃん、奥見て奥」「……砂に、隠れてる…、炙り出す」


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「おっと、ここで大物か。だがコイツは人数で囲めば問題ない」


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 道中の妖異との遭遇率は大街道に出てから一気に上がった。対処は可能で問題はなかったが、当初危険と想定していた砂漠を横断する時よりも、街道の方が遭遇率が高い。


「(この辺りのヨゥイは、この街道を獲物が通ることを学んでいるヤツが多いのか……それとも単に偶然か?)」

 街道に出てから2日間のべ20回以上の戦闘は、いかに妖異が活性化している世情とはいえ多い。


 相手も生き物だ。危険と判断すればその近くからは遠のくし姿も消す。なのに襲ってきたヨゥイの中には、明らかに人間が脅威となる弱いモノも混ざっていた。



「(もしかすると、この辺りにかなりヨゥイが集まってるのかもしれない。ヨゥイ同士で生存競争が起こっているかもしれないな)」

 それならそれで、エル・ゲジャレーヴァにしばらく滞在するのも悪くないかもしれない。傭兵目線で見れば多くの仕事が見込めるからだ。


 同じ討伐依頼でも、数が多ければ多いほど比較的こなしやすいものも多くなる。


 シャルーアを捜索中もそれなりについでで依頼はこなしてきたが、それでもリュッグの懐は目減りしていた。



「! 見えたね、エル・ゲジャレーヴァだよ」

 地平線の彼方に城塞の外壁が見えはじめる。


 ともあれ戦い続きだった心身を休めるのが先。まずは町で一息つくかと安堵感をにじませつつ、リュッグは手綱を握り直した。







 ……しかし、彼に一息つく暇はなさそうだった。



『あのグラヴァース様が、ついにご結婚するって噂は本当か?』

『ああ、何でも相手は褐色の美姫らしいぜ』

『お名前は確か……シャルーア様とか。兵士連中がウワサしてるのを聞いたぜ』


 町に入ると、飛び交うウワサはそれで持ち切りだった。



「……あのコ、また何か面倒なことに巻き込まれてるんじゃないかい?」

 オキューヌは面白半分、呆れ半分に軽く笑い飛ばす。


 ワッディ・クィルスでも町の男どもからアイドル状態になっていた少女だ。本人がこれといって何かしでかさなくても、面倒なことに巻き込まれてる可能性は十分にあった。

 (※「第52話 町のアイドル」参照)


「まぁ別にいいんだが、確認は必要か。済まないオキューヌさん、悪いがそのグラヴァースって将軍との面会のツテを頼んでもいいだろうか?」


「はいよ。ま、おかしなヤツじゃないから妙な真似はしでかしちゃいないとは思うけどね。確かにどうなってんだか確かめといた方が良さそうだ」



 こうしてリュッグは、旅の疲れを癒す暇もなく深いため息と共に、エル・ゲジャレーヴァの宮殿へと足を運ぶこととなった。





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