女達の強さ
第41話 悪徳商人を捕縛する方法
『仕事を探してるんなら、ちと一つ頼まれてくんないかいお嬢ちゃん?』
それはギルドでリュッグの安否を確かめた後、町での当面の滞在費のために、シャルーアが自分にこなせそうな仕事はないか、壁の依頼掲示を見回していた時のことだった。
声をかけてきたのは一人の女性。
やや年増なれど十分に美人でスタイルがいい。しかし、この辺だと奇異なほどに目立ちすぎる色白な肌をした、少し言葉遣いの粗い彼女は二人の兵士風の男を伴っていた。
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「……なぜそのように危険な役目をシャルーア殿にやらせたのかっ!!」
シャルーアがいかがわしい店で働き始めた理由を今しがた聞かされたマーラ
それに対して女性は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「そりゃーアンタ、若くてピッチピチの美少女ちゃんでないと
こめかみ辺りに青筋を浮かべるほど強いイラ立ちと不快感を女に感じるが、おちょくっているのが明らかな相手にくってかかる時間がもったいない。
奥歯を強く噛み締めて前を見据え、走りに集中する。
「(何なのだ、こいつは? ……しかしデキる。ただ者でない事は確かだ)」
何せ彼は、例の大食堂に向かって割と本気で走っている。
まだ全力でないとはいえ、余裕の表情で並走する女がいる事実に驚きを隠せない。
「勘違いすんじゃないよ。こっちだって強制したわけじゃあない……ナニをどうスるか、こちとら仕事の内容はキッチリ懇切丁寧に説明した。それを聞いた上であのコは承諾したのさ。当の本人が文句ひとつ言ってないってのに、無関係なヤツからとやかく言われる筋合いはまったくないね」
「チッ、……貴様自身がその潜入とやらをやればよかったではないか。なぜわざわざ人を使った?」
「ハッ、アタシは目立つんでね。こう見えてこの町じゃ名も顔も姿までも有名……潜入仕事にゃ向かないのは一目見りゃあわかるだろう?」
病的なまでの肌の白さは本当に珍しい。万人に1人……いやもっと少ないだろう。
ウェーブのかかった長い髪は艶のない黒、後ろでポニーテールにしている。肌の白さとの対比があまりにハッキリしていて、確かに一発で特定されてしまうくらいにその姿は目立つ。
「ま、そもそもからしてあーだこーだ口出しする権利なんざないでしょーよ、
スラリ。
言葉尻に、まるで鞘から剣を抜き取ったかのような気迫の尾が引く。
一瞬で消えたその真剣味は、マーラ
「(この女……まさかこちらの正体を見抜いているというのか?)」
いや、そんなはずは―――潜入は完璧で、この国の人間にバレるはずはないと思い込んでいる彼は、緊張感を持ちながら誤魔化すように、いっそう走るスピードをあげて大食堂へと急いだ。
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シャルーアが大食堂 “
密かに彼女より送られてきた報告書の数々から、店の摘発およびラダトン達を捕縛する準備はこの3日で完全に整えられていた。
毎日客として店でのシャルーアの様子を伺いに店に通っていたマーラ
ことの仔細をつい先ほど知って、昨日までより早い時間に店前に到着すると、昨日まではいなかった人影が大食堂を囲っている。
すでにいつでも突入できる態勢を整え、スタンバイしている兵達だ。
「準備は出来てるね。目標は支配人のラダトンおよび店長のムーリタだ。この2名は絶対に逃さないように。他の女従業員は確保、保護を基本としな。ただしラダトンらの逃亡を手助けする奴、逃げ出そうとする奴は容赦なく捕縛。いいね、間違えるんじゃないよ!」
「ハッ、了解しております、オキューヌ隊長!」
―――オキューヌ軍団長。
ファルマズィ=ヴァ=ハール王国の東方域を守護する軍団長の一人。
女性でありながらこのワッディ・クィルスの町を中心とした、周辺地域のトップであり、この国では東西護将と称される10人のうちの1人である。
肌が透けてしまいそうなほど病的に白い事から、
軍団長という仰々しい肩書で呼ばれるのを嫌い、その地位と立場を感じさせないほど気さくてフットワークが軽く、町の人々から親近感をもたれている。
彼女が今日、マーラ
兵を突入させるにも内部の様子を知っている人間がいるのといないのとでは事の成否は大きく異なる。利用する気満々なのだ。
「じゃ、一つアンタにも働いてもらうよ? 先陣きって真正面から突入しな。騒ぎになったら本命は裏から逃げようとする……陽動の囮くらいアンタなら楽勝だろう
「! ……いいだろう」
間違いない。明らかに自分について
マーラ
今はとにかく、
「じゃ、気取られてもつまらないし、さっさとおっぱじめるとしようか。
―――そこからはあっという間だった。
いかに建物が大きくとも300人からなる兵士達が完全包囲。
そして巨体のマーラ
「シャルーア殿ぉっ!!」
万が一、窮地においやられたラダトンらがシャルーアに危害を加えるような展開にならないとは限らない。
マーラ
……が、最奥の支配人の部屋の扉をぶち破って飛び込んだ瞬間、ジウ王国きっての若手将軍マーラ
「な、なんだ貴様らは?!!?」
ラダトンは容易く見つかった。まだ逃げようともしていなければ、事態を把握すらできていなかった。
なぜなら彼はベッドの上で、同衾させていたシャルーアに夢中だったのだから。
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