第36話 DJ
いやいや、もう完全に正義の人と化していやがる。これは何を言っても無駄なのか?
平然と朝一で電話を掛かけてきて、今日は風邪で休んだことにして1日俺に付き合ってくれなんて言いやがった。
誰に?斎藤だよ、斎藤!
5連勤の真ん中だから、そりゃ疲れも貯まる頃だし、本来なら休めて万々歳と言ったところだけど、うちの会社はそう簡単に有給なんかとらせちゃくれないんだ。ましてや当日の朝なんだぞ?
・・・ほら見ろ案の定だ。山田の奴、体調管理くらいしっかりやれ、本当に使えない奴だと散々暴言吐いて電話切ったぞ。ああ胸糞悪い。
全く、只でさえあいつのせいで山田のウケが悪いってのに、これじゃ更に立場が危うくなる。そしてその原因がやっぱりあいつだなんて本当に腹立たしくて堪らない。
はぁ・・・。
まあ、評価は更にガタ落ちだが、一応は休みにはなったな。本当に腹立たしいならこのまま家でアニメ観賞といってもいいんだが、まあ流石にそれはないわな。
「ったく、しゃーねーなー・・・」
・・・いたいた。先に待っててやがる。うぅ~、にしても今日は一際風が冷たいな。ったく、なんで俺がこんな目に・・・。
大体、昨日何も見つけられなかった場所にどうしてまた行かなくちゃいけねぇんだよ。昨日は暗かったから見つからなかった、なんてつまらねえ事を言いやがったらマジで帰ってアニメ観賞だからなチクショウ。
「おはよ!」
ん?なんだ?斎藤の奴、妙に明るいな。あの電柱にもたれて余裕綽々って感じだ。
ったく、こっちは朝早く呼び出されて機嫌悪いってのにらしくないテンションになりやがって。出来るんなら普段からそうしろっての。
「・・・何だ?どうした?朝っぱらから呼び出しやがって。お前は元々休みかもしれんが、こっちは山田の奴に嫌み言われて、態々定期の区間外のバスで来たんだぞ?」
「悪かったよ。だけど今日は決して無駄足にさせない」
何だ本当に自信満々だな。これは何か手がかりを見つけたか?
「ところで、何か気づかないか?」
は?何だよ勿体ぶりやがって。手がかり見つけたんだろ?今日はてめえのせいで機嫌が悪いんだからこれ以上俺をイラつかせるんじゃねぇよ。
「んだよ、わかんねえよ」
「ほら、あの学校を見てみてくれよ」
はあ?見てくれってたって、別に何にも変じゃないじゃん。昨日は暗くてよく分からんかったけど、今日ははっきり見える分、余計平凡に見えるな。
「只の学校じゃん」
「そりゃそうだけど、今日って平日だろ?なのに誰も登校してないじゃないか」
「ん?」
ええと、今は7時40分か。確かに登校時間の真っ最中の筈だな。俺がガキの頃は、この時間でもまだグースカ寝てたよな。遅刻魔でよく先生に怒鳴られてたもんだ。
でも流石に全校生徒が一斉に寝坊ってのは変だ。一体どういうことだ?
「・・・確かに妙だな。全員登校拒否ってか?」
「いや、昨日あれから帰って、一応あの学校のホームページにアクセスしたんだ。そしたら今日、開校記念日だったんだよ」
「何だよそう言うことか。でも、そしたら昨日のガキとも会えないじゃないか?当然、今日はそのつもりで来たんだろう?」
「勿論。でも、必ず来るね。俺は確信してる」
「はっ?何でだよ」
「まあ、とりあえず待たなきゃいけないな。とりあえずあそこで何か飲もうぜ」
んだよ、飲むったって居酒屋で一杯じゃなくて、そこの古ぼけた商店の前の自販機で100円の缶コーヒーだろ?
ったく、何でこんな寒空の下で待たなきゃいけないんだ?さっきから調子のって探偵気取りしやがって。いつまでこんな無意味な騒動に付き合わなきゃいけないんだよ。あの進藤ってやつを締め上げれば一発だってのに。
もうこの間のおじさん探しの恩なんかどうでもいいぜ。とにかく俺は早く帰りたい。こんなくだらんことに何時までも付き合わせないでくれ・・・。
「ええと、コーヒーでいいか?」
んだぁ?奢る気かこいつは。まあ当然だよな。わざわざ仕事を休まされて付き合わせてるんだから。
この店シャッターしてるけど潰れてんじゃないのか?まあまだ朝早いしこれからかもしれんが。
ん?自販機の横にガシャガシャあんじゃん。まあ目の前が学校だし、ガキの溜まり場になるだろうから置いてあっても不思議じゃないな。でも6台も置いてるなんて中々の充実ぶりじゃん。
どれどれ・・・、ええと、ロボット系にアクセサリー系、なぞなぞが書いてあるキーチェーン付きのミニブックに白黒のパズルゲーム、それと壁に引っ付くスライムか。は、こういうのって昔から変わんねぇなぁ。ってか、日焼けしてるから絵がよく見えないぞ?どこまで古いんだよ。
お、でも一番右のやつは新しいな。最近入ったのかな・・・。
「あっ!」
ななななんと!俺の嫁の魔法少女ちゃんのガシャガシャじゃねーか!何だよ!分かってんじゃん!これやりたかったんだよな~。でも近くに中々無くて。デパートなんかに行けば確かにあるだろうけど、あの人混みの中でやれる勇気は流石に持ち合わせて無かったからな。
「何だよ・・・、ああ、それか」
んだよ、冷めた反応だな。こんな辺鄙な所で嫁に出会える奇跡がお前には分からないかね。同期の好で俺の趣味は知ってるだろうが。
「あのな、今日はガシャガシャやりに来たんじゃないんだぞ?あの少年を見つけることが目的なんだ」
「んなことは、分かってるよ。ただ、ちょっとやらせてくれ」
「ったく、勝手にしてくれ・・・」
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