第98話 お土産。
「あ……そういえばなんだけど、属性検査に使ってた石板。王家に返さなきゃないんだけど、これ、石板に戻らないし、使用者登録が私で固定されちゃってて外せないから、新しいのを用意して持っていかないと」
管理者権限で思い出した。
メアリローサ国の王家で使われていた属性検査に使われていた石板だった物。
というか、元の石板に戻らない。
大事に保管されていたようだから、確実に貴重なもの……機能も優秀だものね。
帰ったら返えさなくちゃいけないのに。
まぁ同じ石板であればいっぱいあった記憶があるから、問題はないんだけど、私が触るたびに同じ現象が起きても困るから、起動するにしてもせめてイエス、ノーの選択ができるようにしておこう……。
「ルーク、メアリローサ国で入手が難しい物とか、何か欲しい物はあるかい?」
「薬草であれば、それこそ、魔力熱に使うキナが欲しい。全く入ってこない」
『キナ』
マラリアは夜になると、高熱に吐き気、下痢を起こすのだけど、夜中くらいには治るんだ。
ただ、それで完治ではなくてね、また夜になるとさっきの症状が出る。
これが毎日続いていくのだけど、症状自体は軽くなっていくの。
……だから治ったと思うでしょ?
治ったと思うころにはね、内臓がぼろぼろになってるの。
血を破壊していく病気だからね。
内臓を直接攻撃する訳では無いのだけど、血が破壊されてしまうと、内臓は何もできなくなっちゃう……。
(日本では罹ることがほぼないと言われているけど、マラリアが頻発する地域では、赤ちゃんの主な死因にマラリアという名が出てくるんだ……)
まぁ、こっちの魔力熱はマラリアと違って、虫を媒介して広がるものではないけど、子供の致死率がとにかく高い。
数年おきに大発生をして、インフルエンザのように一気に広がっては、たくさんの子供の命を奪い去っていく。
「育つ気候が違うからね……あれは熱帯植物なんだよ。しかも大きく育った木の皮の部分だから、メアリローサでは、発芽はしても、収穫できるまでは育……あ、育つわ」
つい最近、特長的な幅広の葉を見かけてる。
それにメアリローサ国って縦に微妙に細長い地形だったから、南の下限あたりでならもっとしっかり育つかもしれない。
それこそ収穫が見込めるほどに。
「似たような形状の雑草をこの前、聖樹の丘からの移動中に見かけてる。あれ、キナだわ。ただ、すごく細かったから、メアリローサ国では自生したとしても一年草、もしくは宿根草みたいな感じなのかもしれないね。原料って意味だと、そもそも木化した部分を使うから、5年から6年以上育たないと無理だし……環境でいうなら国境の南の下限辺りなら、何とかなるかも?」
「……ひとまず資材庫のものを少し分けてもらおうか。種もあるなら欲しい。栽培も視野に入れたい」
ルークの目が光る。研究好きだもんね。
エルフの得意分野とも言うべき薬草の事だし、これは任せてしまった方が確実な気がする。
ま、栽培って言っても、魔素の関係上、畑では育てられないから、気候の合いそうな森に植えて放置するしかないんだけどさ。
熱病への治療薬としても使われてるくらいだから、魔力熱以外にも、効能が期待できるかもしれないね。
「あとはないかな?」
「流石に急には出てこないな」
ルークが唸りだしそうな雰囲気で、顎を軽くさわる。
その一つ一つの仕草にすら、見惚れてしまう綺麗なお兄さんなのに、今の仕草はどうにもおじいちゃんっぽくて思わず笑ってしまい、不思議そうに顔を傾げられてしまった。
何でもないのよ?ふふふ。
紅茶や焼き菓子の注文と同じように、薬草と石板をリストに入れた。
……ちゃんと持ってきてくれるかな?
ダメだったら直接取りに行かないと…と思ってたら、もう届いてました。早すぎ。
あとは……本題かなぁ。
「じゃあ、必要そうな物はおいおい思い出したらって事で。ずいぶん脱線しまくっちゃったけど、本題の帰宅ルート考えないといけないね」
「……王には『死の森を抜ける』と説明してしまったが、
正直、今のメンバー全員が戦闘に不向きである。
主力になるだろうルークは強いと思う。
それでも『死の森』では『最低限なら動けるだろう』というレベルになってしまうんだ。
しかも、幼児2人を守りながらでは、到底無理だ。
(きっと必死に守ってくれるだろう、けど、そういう状況は作らないのが一番だ)
みんな無事で帰らないと、ダメ。
応接のテーブルをつつーっと指で突くと、周辺マップの他に
今思うにこれって、スマホとかパッドみたいな感じだねぇ。
持てるものなら、このテーブルを持ち帰りたいわ……。
めちゃくちゃ、重そうだけどね。
「
「あぁ、ただそれは一度、上に出てから乗り換えないといけない」
他のルートを探してみるけど、学園内からの直通で行けるゲートは、魔導学園の上に広がっている王国内か王国の外……今では思いっきり死の森の中です。ここは危なすぎる。
「
「上のゲートが生きてるかは確認できるか?」
『上』つまりさ、この魔導学園から、まず上部にある王国に向かうことになる。
王国は……
ただ、その王国にあった、
まぁ、あれだ。
(魔力がなくても、代行で魔力を込めて魔法陣を発動してくれるお仕事もあったし)
その周辺には、衛兵の詰所があって、さらに屋台なんかも出てて……賑やかだったのになぁ。
見る影もないんだろうなぁ。
転移魔法陣の管理は、開発者が……つまり魔導学園が、定期的に保全点検に動いてたのを記憶してる。
地図上では機能していると光ってる表示になるみたいで、逆によく使ってた位置で光っていない部分もあった。
街中のだから、きっと戦闘とかがあって魔法陣が崩れてしまったのだろうね。
「生きてる。でも周囲が安全かどうかはわからないの」
「それは調べさせよう
『はいはい~行ってくるわ。あと王から「気をつけて」ってのと、宰相から「お土産よろしく」って』
いつの間に戻ってきてたんだろう?
えっと……
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