第94話 続き。




「でも、そうねぇ。晩餐会で学生時代むかしと全く変わってないルークを見かけて、すごくびっくりしたんだよ。もしかしたら、似てるだけで、親戚とかかな?って思ってたら、まさかの本人だし……嬉しかったな」


「そんなもんかなぁ?」



 ユージアはクッキーをかじりながら、不思議そうに首を傾げてる。

 人間の寿命は、エルフから見たら一瞬だもんね。

 というか、エルフが長命種だったってことをすっかり忘れてたってのもあるけど。



「うん、そんなものだよ。吟遊詩人の冒険譚がハッピーエンドで終わって、よかったねって思う一方で、その続きって気にならない?私は、詩人に謳われて広められる程の主人公達のことだから、きっとまだまだいろんな冒険をしてるんだろうなぁって、気になるのよね」


「それはなるけど、セシリアの場合はそれで言うなら、死亡エンドってハッピーなの?」



 バッドエンドが多かったけど…まぁそうでもないのもあった……と思う。

 それでも短命という意味であれば、バッドなのかなぁ。

 今回はそういう意味ではバッドエンドに向かわないように慎重に動いたつもりが、今に至ってるわけだから、上手くいかないってのはおりがみつきですよね。



「そこは……模索中だけど。それでも人間で言うなら、数年ぶりに会った友人ってだけでも嬉しいのに、数百どころか千年ぶりに再会とか……人間で通常であれば絶対に無いからね。まぁ、研究に没頭していた教授あたりなら、魔物や死霊化して存在してそうだけどさ……」



 あぁでも、ユージアはそもそもが『昔からのお友達』と呼べる存在が無かったのか。

 これからだもんね。


 これから……たくさんの出会いがあると良いね。



 正直なところで言えば、短命でも本人にとっては、はっきり覚えてる大切な一生の出来事だから、巡礼じゃないけどさ、いずれは再度訪れてみたい。

 他人から見れば、英雄でも有名人でもない限りは歴史書には残らないから、時間が経てば経つほど、足跡は消えてしまうけど。

 せめてお墓くらいはまいりたい、そう思ってもこの世界では『家族や親戚の墓すら無い』っていうのがザラだからね。


 そう考えると、自分の足跡どころか、かつての友人とまた、生きて会えるなんて、本当に嬉しい。



「まぁ、ルークの場合は……エルフが長命だというのをうっかり忘れてたのと、所在かな。『なんでメアリローサ国こんなところにいるの?』っていうのがまず最初に浮かんだから」



 ……バレたらどうしよう…って必死に思ったのはあえて言わない。

 最初っから私が思うより確実な方法をもって、気付かれてたみたいだし。



「それでも、シシリーわたしを忘れずにいてくれて、こんなに時間が経ってから再会するなんて……意外すぎて焦ったけど、うれしかったのよ?」


「うっかりで、息子を襲う変態なのに……?」



 あはは……そういえばここにも、うっかりがいたんだっけ。


 運命の悪戯か何かなのかはわからないけど、ガレット公爵家わがやの襲撃者で、セシリアわたしの誘拐犯が親友ルークの息子で、さらに自身ユージアも囚われの身だったとは思わないもの。

 ゼンは嫌がったけど、助けて良かった。助かって良かった。



「すごく嬉しいよ。しかも、こんなに可愛い子までいるとか。びっくりだよ!」



 思わず目の前にある、ユージアの頭を撫でると、ふにゃっと口角が上がり、嬉しそうな表情になった。

 さっきまでは、子供扱いを嫌がってたのに素直で可愛い。

 そういえば、膝の上からもくっついたまま降りないな……その方が私は嬉しいから良いけど。



「幼児に襲いかかるような耄碌なのに?」


「ん?耄碌って……辛辣ね。そういえば、ユージアってハーフエルフじゃなくてエルフなんだよね?」


「うん、ほらこれが本来の耳の形。エルフだよね?」



 ユージアが耳の付近の髪をかき分けると、ひょこりと、尖った耳が出てきた。

 エルネストのケモ耳とは違って、子供の頃は頭に対して小さい感じだった。

 ケモ耳は、頭に対して……やたら大きかったので、あれは可愛すぎだった。


 ユージアにエルフ耳とか、違和感たっぷりで思わず凝視してしまったのだけど、魔力切れからまだ回復し切れていないみたいで、すぐ元の人間と同じ形状に戻ってしまった。

「本来の」と言われても、私にすれば、初対面が人間の姿だったから、その尖った耳の方が違和感たっぷりなんだけどね。



「そっかそっか、じゃあ父さんルーク似だと良いね」


「えっ……やだ」


「あはは。ルーク、自分の子に嫌われ過ぎ」


「反抗期だろう」



 ユージアの拒否の早さに、思わず笑ってしまう。

 この親子、やっぱ仲が悪いを通り越して仲が良いんだと思う。

 似た者同士?違うな。なんだろうね?


 まぁいいや、学園内ここなら他人に聞かれるような場所ではないし、私も一つ反撃してみることにする。



「似れば素敵なのに。どう思います?ハイ・エルフのルークさん」


「は?ハイ・エルフってどういう事?」



 ユージアが不思議な顔をしっぱなしなんだけど、まぁこれだけは確認しておきたかった。

 初対面の時に、どう考えても年齢計算が合わなかったのだもの。

 それの答えを知っておきたい。



「いくら人間より長命って言ったって、普通のエルフがこんなに長生きなわけないじゃない……つまりはそういう事でしょう?私の秘密も明かしたんだから、ルークも説明して欲しいなぁ」



 それに、種族の話に限っては、息子であるユージアだって巻き込まれてしまうことだってあるんだし。

 子を人質に。もしくは、まぁユージア自身がハイ・エルフだったとしても同じだけどね。

 エルフってだけで狙われる場合もあるし。



「まぁ、かね予想の通りかな。だからユージアもハイ・エルフの可能性がある……現状では呪の効果もあって、判別はつかないが。特徴で言えば、少なくとも人間とハーフエルフでは無い。せめて魔法が使えたら良い判断材料になったんだが」



 ……私の質問に返答しつつ、片手に本を持って、読書しながらの……本?

 本棚のやつかな?変なの見てたりしてないよね?!

 怪しい本はなかったと思うけど!


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