第89話 鈴。
「あぁそうだ、ユージア。武器って何が使える?」
登城して……つまりはおしゃれ着のまま、こっちに飛ばされちゃったわけで、3歳児の私はともかく、ユージアも武器になるようなものを持っていない。
魔物と対峙してしまったときに、逃げの一手で駆け抜けるにしても、丸腰では助かるものも助からなくなっちゃうからね。
「短剣。投擲とかもできるけど……重い武器はダメかな。あ、弓はアウトね。どう頑張ってもダメだった」
「……筋力不足だな。もう少し鍛えろ」
「弓を持ち歩くと、かさばって身動き取れなくなるから、使えなくて良いんだよ!」
エルフ=弓とかレイピアなイメージでしたごめんなさい。
ユージアは短剣。投擲……暗器的な物が得意なんだろうか?
どうもこの親子は喧嘩口調が多くなるけど、ひとまずルークの言葉も一理あると思うよ?かなり華奢だもん。
筋力がつけば、今使ってる武器だってコントロール性能が上がるだろうし、頑張ってもらおうかな。
「私は杖と……コレだ」
「げ。やっぱり、バケモノ。ていうか、どこに隠し持ってたんだよそれ」
杖はさっきも握ってたからわかってたけど、剣は本当にどこから?
白銀に光る刀身の……うーんミスリルかなぁ。
レイピアと言い張るにはかなりがっちりとし過ぎた、しっかりとした剣が目の前に置かれた。
……普通に騎士団の騎士たちが使うような長剣だった。
持ち手に宝石のような石がいくつかはめられていて……あぁ、魔法の媒体としても使える仕様っぽい。
剣も使えるけど、魔法剣士?ってな感じの動きになるんだろうか?
「魔術師団の事務方でも、一応騎士団の一部だからな。剣が使えないとダメだと言われて使えるようにした」
「使えるように……ってさらっと言えちゃうのがすごいんだけど……討伐とかも可能なレベルで使えそう?」
「あぁ。使える」
にこりと涼やかな笑みで返される。
たしか、学園内での武闘大会……あ、あれだ、体育祭や運動会みたいなものよ?
あれで学園内の問答無用フル出場で、精霊魔法と棒術を組み合わせて出てた記憶があるな。
結構上位まで食い込んでたと思う。
強かったし、これは信頼できる強さなのだと思う。
「……私は一応コレ。杖ね。シシリーのなんだけど、
「ユージアが使えそうなのが確かあったはずだから、後で探しとくね」
……まぁ、問題というか足引っ張るのは、確実に私な気がするんだけどね。
ユージアは戦えなくても逃げ足だけなら、ピカイチだと思うし。
「そうだ、ね、その剣、ちょっと貸してくれる?」
「どうした?一応手入れはしてあるが……何か変なものでもあったか?」
剣は持ち手部分の両端に…柄頭か鍔に装飾があるんだけどね、どちらかに大体、小さな輪になっている場所があるんだよね。
ちょうど、根付…えっと今の人だとキーホルダーっていうのかしら?あれがぎりぎり通るような、携帯とかスマホとかにも小さな穴、あったでしょう?
……そういえば、最近のスマホには無かったかもしれない。
初期のスマホには、あったんだからね?
まぁいいや、そこに、さっき
「さっき、
「これは……?シシリーが杖につけてたやつか……?」
「うん、同じやつだね」
私としては昔は普段使いに、さらっとってほどではないけど作れて、重宝するものだったのだけど、今ではきっと高機能な
そういう品である。
まぁ、博物館に飾られたり、高価で取引された挙句に貴族のコレクションと化すくらいなら、使ってもらった方が嬉しい。
使ってもらうために作ってるんだからね。
「これは……って、どうしたの?」
なんか隣でユージアがにやにやと変な笑い方をしてるんだけど、それは放置でいいとして。
ルークまで変だ。
じっと剣を凝視して、頬を赤らめてる。
私の視線に気づいたのか、片手で口を隠すように、長くて艶やかな黒髪で表情を隠すように俯いてしまった。
……その表情、なんだか初々しすぎて、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうんだけど!
「セシリア……えっと…騎士の剣の柄頭とか鍔に家紋とか宝石とかついてるのって、それぞれにちゃんとした意味と理由があるの、知ってる~?」
「え?魔法効果付与の媒体とか、有効に魔法を使う為の魔力媒体とか…えっと、保護魔法等の強化用の……他に何かあるの?」
「ぶふぉ」と激しく噴き出して、笑い転げるユージア。
いや、知らんものは知らんから。
そもそも私は魔法一筋、というか騎士なんて、絵本や御伽噺でしか知らないから、頑丈な鎧つけて剣持ってる?強いよね?くらいしか知らないからね。
「騎士の剣は、自分の家紋もだけど、忠誠を誓う主人の紋や、自分の大事な人、守るべき人、そういうのに所以のある装飾とかを付けるんだよ…ぶ…だから、ほら……」
ぷるぷる笑いを我慢しつつ説明してくれてたけど、やっぱり我慢しきれなかったのか爆笑を始めるユージア。
一方、ルークは俯いたまま動かない。
今回はユージアに反撃しないんだな~とか思わず見てしまったのだけど。
「えっと…わかりやすく言えば『私だけの騎士になって♡』とか?あははは…まぁ、そういう意味?
そう言えばメアリローサ国では、軍部にあたる部分が『騎士団』で一括りだったから魔術師団も騎士団所属なのか。
って事は父様もだけど、ルークも騎士になるのか……魔法がメインなんだから魔術師だと思ってたよ。ルークごめん。
「えぇ……そういう意味じゃないんだけどなぁ…じゃあ、ユージアの分もあったんだけど、あげない」
「えっ!ちょうだい!くださいっ!大切にするから!」
「ん~どうしようかなぁ……ま、とりあえずルーク、その鈴に魔力を軽く通してね。リボンの色が変わればOKだよ」
俯いたまま、片手が鈴に伸ばされて、触れるか触れないかで根付の色が白く変わった。
まぁ、これ、なんで色が変わるのかわからないんだけど、個人差でカラフルに変わるんだよ。
色の法則がわかれば、それこそ魔法の相性を見る石版の改良にも使えそうなものなんだけどね。
「ありがとう。じゃ、この鈴の音を覚えておいてね。剣借りるよ~」
「あぁ……」
ちりんと、鈴を鳴らした後、剣をぎりぎり引きずらない程度に、なんとか持って移動する。
剣ってかなり重いんだよね、これを思いどおりに振り回したり、そもそも模擬でも実戦でも、素早く動きながら振り回すって、どれだけ筋力がいるんだろうね。
頑張ったんだろうなぁ。
さて、私の寝室として使っていた部屋まで持って行くついでに、寝室のチェストにしまってあるスリングショットを取り出した。
スリングショット……パチンコですね。
あ、護身用にではなくてね、研究用に使っててね、小さな力でもそこそこ飛ぶから、重宝してたんだ。
ルークの剣はベッドの上にそーっと置いたまま、2人のいる応接のある執務室に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます