第83話 可愛い。




「結局、セシリアに抱っこされちゃった……僕は抱っこする方が好きなのになぁ」


「……私はどっちも好きよ?ユージア可愛いし、たまには良いんじゃない?」



 ふと顔をあげるユージアと目があって、思わず笑みが溢れる。

 撫でる手を後頭部でとめて、顔を引き寄せるとおでこに頰を当ててみる。

 幼児のおでこって、柔らかいんです。気持ち良いんだよ~。



「ん~大好き!」


「ちょっ…と!セシリアっ!……苦しいから、やめて…」



 思わず強く抱きすぎてしまったようで、力を緩めてユージアを覗き込むと、相変わらず顔を赤く上気させ、涙目のまま上目遣いにこちらを見上げていた。

 可愛すぎるっ!



「ごめん。あと、もう一つ…ごめん」


「ん?」



 抱き上げる手を緩めた時に、ユージアが少しずり落ちてしまったので、抱き直したら、シャツが少しずり上がってしまっていて…。

 よくあるよね?抱っこしてると、子供の服がどんどんずり上がっていくってやつ。


 抱き上げる際に体重を支えている腕が……なにか、ダイレクトに柔らかいんです……。


 備品室に到着し、ドアを……と思ったら、さっとルークが前に進み開けてくれた。

 お礼を伝えるよりも何よりも先に、こちらに振り向いたルークが笑いを堪えるようにポツリと呟く。



「……尻、見えてるぞ?」


「あ、やっぱり?……そんな気がしてたんだ、ユージアごめん」



 ずり上がってしまっているドレスシャツの裾を下げようと、背をさするように裾を探す……といきなり肌の感触。

 あらやだ柔らかい。……じゃなくて、手を少し上へ戻し、シャツを掴みなおして下へ引っ張る。



「いやああああああああっ!降ろしてえええ!」


「……可愛いから大丈夫、あははっ」



 お尻を隠すために何度か、むしろお尻を触ってしまったような気もするけど……気にしない。

 可愛いから良いのだ。



「やっぱ好きだ~」


「そういう問題じゃないからねっ!?」



 これ以上無いってほどに、顔を首まで真っ赤にさせて、涙目で抗議をしてくるユージアをきゅっと抱きなおして、備品の棚を見て回る。


 様々な種族用の特殊な縫製の衣類やサイズがあって、簡単に見つけ出せそうにない。

 背後から、すでに『笑いを堪える』という行動を放棄し、爆笑しながらついてくるルークにも手伝ってもらうことにした。



「ルーク、悪いんだけど制服の100センチか110センチのサイズの棚を探して?初等部の最小サイズがそれくらいだったと思う」


「わかった」



 ……本当はそれ以下のサイズもあるんだけど、そっちは職員の子の為の保育園の制服になってしまうので…あれは可愛さ重視なんだよね。

 初等部の制服であれば、それなりの機能性があって動きやすい構造になってる。

 機能性ってのは魔法付与されてたりするんだよ。


 今世で魔法付与のされた衣類なんて、物凄い高級品になるみたいだけどね。

 これから通る場所は、しっかり準備を整えていかないと危険な場所だから。

 使えそうなものはしっかり利用させてもらおう。


 制服のコーナーへと向かうルークを見送りながら、改めて胸の中のユージアを見つめる。



(抱いた感触がエルネストよりもひと回り小さくて柔らかい)



 年齢的には、セシリアわたしと同じ3歳か、エルネスト達と同じ4歳…にしても小柄な子なんだろうなぁ。

 まぁ、エルフって華奢な体格してるから、そういうのも関係してるのかな?

 可愛くてしょうがない。



 さて……この学園は基本的には全寮制だったから、下着なんかもブランドやら縫製に拘らなければ、各種サイズがあったりする。


 私が探してるのは、男の子の下着の棚。

 パンツもだけどシャツと靴下も欲しいよね。

 今着る分をユージアに渡して、替えを1セット余分に貰っておく。


 抱っこから解放すると、凄い勢いで棚の影に隠れて下着をつけてきたようだった。

 上には、さっきと同じぶかぶかのドレスシャツを着てるから、確認はできないけど。


 憮然とした顔で戻ってきた…その姿を見つけたので、速攻捕獲して抱き上げる。

 少し抵抗されたけどね。

 ……普段が信じられないくらい俊敏なユージアが、抵抗してるのに簡単に私に捕獲されてる時点で、かなり消耗してるっぽいから休ませないとだ。



「ユージア、魔力切れ起こしてるなら、今のうちに寝てて良いんだよ?これから大変だから」


「じゃあ、おろして~」


「それは私がイヤ!可愛いユージアをたっぷりと堪能させてください♡」


「……っ!…セシリアまで変態っぽくなってる…もう、本当にやめて?!」



 終始、ユージアが涙目な気がするけど、気にしない。

 というか、どんな表情でも、その鈴の鳴るような高い声で言われると、何もかもが可愛いすぎて無理なのですよ。


 ユージアを抱いたまま、背をぽんぽんと軽く叩きつつ、他の衣類を眺めつつ歩き…試着室のコーナーの前にあったソファーに座る頃には、すっかり睡魔に負けてすやすやと寝息を立て始めていた。



(見た目的に身体が縮むだけじゃなくて、体力や特性も幼児と同じになってるっぽいなぁ)



 完全に寝られてしまうと、脱力して抱えるのに少し重く感じるのだけどまぁ、無防備な寝顔がこれまた可愛くて……。

 頭を、幼児特有のぽよぽよのふわふわのおでこから鼻筋から、頬も、思う存分撫で回して、まつげ長いなぁ、とか間近で観察したり。

 触られてるのがむずかったのか、顔を胸にすりすりされる仕草や、払うように動かされたふにふにの小さな手に頬擦りしたり、思わずおでこにキスを落としたり。


 ……文字通り堪能してしまった。

 ちゃんと本人には宣言しておいたし、いいよね?



「シシリー……ユージアの精神面は母親からの魔法で幼児まで縮むくらいに幼いが、実際は…実年齢としては、もう成人してるんだよ?」


「……えっ!?」



 いつの間にやら戻ってきたルークが隣に腰掛けてくる。

 一揃い見つけてくれたようで、小さなテーブルに積まれていた。


 ルークの黒く長い後毛が肩にかかる。

 ……妙に密着するような位置なんですけど、少し近すぎませんか?



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