第71話 お着替え。
……幼児の誘拐とか、ありえないもんね。
前世でも、過保護になるつもりはなかったけど、子供が小学生になって朝の登校班での登校ってだけでも、車に轢かれやしないか心配で。
下校に至っては立地的に1人で帰るタイミングがある事に気づいて、実際に登下校が始まるまでは、毎日帰りは学校までお迎えに行こうかと、スケジュールの調整をしていたことがある。
実際始まって終えば杞憂に終わるものだから、大丈夫だったよって周囲も言ってたし、私もそう言いたい所なんだけど、残念ながらうちの子たちは、そんな1年生のうちの登下校中に大怪我をした。
それだけでも、子供の痛がる姿を見ただけでも、心臓が止まる思いをしたのに、もっと小さな幼児を……誘拐とか、どれだけ心配をかけてしまったのだろうか。
そう思うと心が痛い。
「さぁさぁ、みんなが心配……びっくりしてたから、もっと可愛くなって、びっくりさせちゃいましょうね」
母様が、ぱんぱんと手を叩くとセリカと母様の専属メイドがドレスや下着を持って近づいてきて、着せ替え人形よろしく、着付けられていく。
コルセットとか、ぎゅーっとするタイプのドレスかと思ったら、そういう締め付けのない、ウエストより少し上で切り替えになっているワンピースの様な淡い紫色のドレスだった。
色を紺にして、もう少し丈を短くしたらメイド服っぽいかもしれない。
メイド服よりはスカート部分のフレアが強くて、中のスカートも半円どころか全円フレアっぽい形状をしていたので、これはきっと、くるりと回ったら激しく広がるんじゃないかな?
……ちょっと楽しみ。くるっと回ってふわっと広がるのって、楽しい。
風の強い日は、うっかり捲れて、いろいろ見えてしまいそうで危険そうだけど、こちらではミニスカートって無いからなぁ。その点は安心かも?
「セシリア様、こちらはドロッセル様からのお下がりとなります」
「姉様の!……ドロッセル姉様は美人さんだから、私も美人さんになれるかな?」
ドロッセル姉様はガレット公爵家の長女です。
一番上のお姉さん。
長女と長男は双子さんで……もちろんだけど成人してます。
確か二十歳くらいだったと記憶してる。
双子といっても性別の違う双子だから、二卵性双生児のはずなんだけど、そっくりです。
流石に性差での違いはあると思うのだけど……学生時代は服を取り替えっこしてもバレなかったとか。
ドロッセル姉様は、なんというかゴージャスな美人さんって言えば良いのかなぁ。
すごく眩しい、くらくらしちゃう美人さんです。
母様そっくりで……というより、母様の実家である、王家の血が濃い感じで、
レオンハルト王子もエルネスト王子も金髪だったよね。
学生時代の姿絵を見せてもらったのだけど、なんかもう、絵本によく描かれているようなお姫様!って感じの可愛らしさだった。
ちなみに今は、まさに母様そっくりで髪色が違うだけなので、まるで姉妹の様です。
(母様……美魔女ってやつですよね)
もしかして、エルフの血でも流れてるのかしらと思うくらいに、加齢という言葉を知らない母様。羨ましい。
「セシリア様も、とっても美人さんですよ~?でも、お化粧は…まだやめておきましょうね。お肌とっても綺麗だから!気になるなら、セリカに食事後に紅だけ、軽くさしてもらいましょうね」
「はい」
(化粧はいいや……しなくて良いうちはしたく無い。顔に何か塗り立てられてるのが、どうも苦手で、綺麗になるとわかっていても、蒸しタオルとかあると即、顔をごしごししたくなっちゃう)
「髪は……そうですね、邪魔にならない程度に纏めましょうね」
母様の専属メイドにてきぱきと着付けられて、髪も両サイドから目にかかりそうになる位置を控え目に編み込まれて後ろに飾りとともに纏められていく。
そんな手際の良さとともに、私の専属メイドである、セリカにも作業の流れを説明していってる。
慣れなのか、プロ意識なのか、凄い。
って、そうか!
セリカは私が元に戻るまでは、いきなり成長してしまった私のお世話をしなくちゃいけないから、オムツの処理とかやってたのがいきなりドレスとアクセサリーの合わせや選び方、着付けや、さらには作法なんかも……本来なら普段の生活で徐々に覚えていかなくちゃいけない様なものも、私に教えつつフォローしなくちゃいけなくなったんだ……。
……中身が幼児の身体が大人とか、危険極まりないわ。
(セリカ、なんかごめんなさい)
しかもそんな状態の娘を王城へ、守護龍のもとへ……とか、心配すぎるね。
まぁ、実際の中身はおばちゃんだから!多分大丈夫だよっ!
むしろ動きやすいし喋りやすくなったから、楽しみ……あ、これがまずいのか。
うん、頑張るし、気をつけるよ!
(私は、もうちょっと母様達の子供でいたいです)
前世の日本にも家族はあったし、珍しく結婚という経験もできたけれど、世間体というのか何かすごく建前やら見栄えの様なものを重要視されていたので、あまり可愛がられた記憶はないし、成人してからは更に親との関係は希薄に、というか存在すら忘れてしまう様な有様だった。
そう思うと、今はすごく恵まれているんだと思う。
全身で好きだと愛情を示してくれる家族がいて、出来たばっかりだけど友達にも恵まれて。
きっかけはとんでもないものであったけど、一気に世界が広がった。
(それでも、せめて成人までは、学校に通ったり、この世界での普通の生活がしたい)
うきうきわくわくしながら着付けをしてもらってる私の様子を、にこにこと眺めている母様。
(七五三みたいな子供の成長を祝う行事があったなら、きっと大喜びで参加するんだろうなぁ)
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