第58話 お友達。
王族ご一行とその護衛かな。
王様と王妃様、その側に小さな男の子が二人見えたので、王子達なのだろうね。
王様は、三十路くらいのおじさん…って、いや、年齢としては実際そうなんだけど、かなり若く見える。
まぁ、母様のお兄さんなだけあって同じく年齢不詳な、とても優美な顔立ちですらりとした、そして立ち居振る舞いも完璧!といった感じの、一挙一動に見惚れてしまいそうになる、とても存在感のある人物だった。
王様って聞くとイメージとしては、お腹がぽよんとした恰幅の良い…っていうおとぎ話によく描かれる感じの人物を想像しちゃうんだけどね。
実物は素敵でした。
「一先ずは、今回の件の慰労としたい。皆、幼いながらも良く頑張ったと言いたい。…というのが建前でね。みんな無事でよかった。今日はゆっくりして歓談してくれ」
「ふふふ、それでは今の言葉を乾杯の声としましょうね。ほらほら、チビちゃん達!美味しいものいっぱいあるから、たくさんお食べなさいな」
王様の、微妙に柔らかい様な硬いような、良く分からない声と、母様のにっこにこのご機嫌スマイルによって、晩餐会という名の食事会が開始される。
「さ、セシリア、まずは王家の方々にご挨拶行こうね。みんなも」
セグシュ兄様がにこりと優しげな笑顔で手を差し出してきたのでその手を取り、王と王妃の席へと近づいていく。
席順としては王と王妃を挟むように両サイドに2人の王子。
王様の隣に、ザ、王子様!といった整った容姿、はっきりとした金髪で緑の瞳のレオンハルト王子。
王妃様のには兄であるレオンハルト王子に良く似た、容姿でとても柔らかそうな明るい栗毛に近い金髪で優しそうな青い瞳のシュトレイユ王子……。
レイによく似た、そのまま彼を幼くしたような……。
「……れい?」
「あ!まりょくそくていかいのひに、おにわに、いたよね。はじめまして?」
ふわりと花が咲くような優しい笑みで返された言葉に愕然とした。
「初めまして」…初めましてじゃないよね?声もそのままレイなのに、レイじゃないの?
幼く見える時点で、別人だと理解しようと思えばできるはずなのに、心ではわかるけれどどうしても
「セシリア?どうしたの?」
「あ~シュトレイユ王子は凄く良く似てるけど、王子はセシリアの知ってるレイじゃないよ~」
「だよなぁ、似てるけど匂いが違う」
私の異変に気付いたのか、セグシュ兄様が心配そうに顔を覗き込んでくる。
同じく察したように、ユージアが補足のように説明を入れ、エルネストも同じく首を横に軽く振って「違う」と…。
「にてるひとがいたの?ぼくに?……あっ!それって」
「──僕、だよ。僕がレイ」
声の主は、ゼンだった。
終始不機嫌なオーラを纏って、さっきまでだってふわふわの絨毯の上で不貞寝のようにしてた巨大な猫姿のゼンが、耳を下げ、長く優雅な尻尾でぱたんと絨毯を叩きながら、こちらを見ていた。
「そうね、それでステアにおこられてたね」
「ゼンが猛スピードで飛んで王都に報告へ行って、それと変わらない短時間で人であるレイが合流した時点で、おかしい上に、あの顔にビビったし。王子様きたーって。でも、
ぽたり、と堪えてた涙が俯いた拍子にこぼれてしまった。
素早くセグシュ兄様が顔にハンカチをあててくれた。そのままハンカチを借りて、涙を拭き取ってしまおうと思ったけど、一度こぼれてしまうと、どうしても止まらない。
困ったように、でもふわりと優しい笑みを浮かべるシュトレイユ王子。
彼はゼンを知ってた。というか王宮で飼われてたんだから、当たり前か。
ユージアが言ってることは、魔力に関しては分からなかったけど、移動時間を考えたらやっぱりおかしいなと思う所はあったし、いくつか疑問にして聞いてはみたものの、はぐらかされたのは、答えようが無かったって事だったのかな…。
「セシリア、ごめんなさい。騙すつもりはなかったんだ。だけど…急いでセシリアの元に戻りたくて、でも城の外では人の形を取らないとって言われてて、咄嗟に人の形をとったら、レイ…シュトレイユ王子の姿になっちゃってたんだ。自分の姿じゃ無いから、
「はじめての、ひとのおともだちができたと、おもってたの。でも、あのれいが、ぜんなら、ぶじでよかった…しんぱいしてた…ありがとうも、いいたかったの。こわかったから、いてくれて、ありがとうって…」
どうにも涙が止まらずに、ハンカチを顔に当てっぱなしで。
周りは見えないけれど、誰かが背中を優しくさすってくれてる。
晩餐の席で泣いてしまってごめんなさい。
でも、ゼンはずっとそばにいてくれてたんだね。
あのレイは歳の近いお兄ちゃんみたいで嬉したったんだ。
実在しない、という事になってしまって悲しいけど、嬉しかったんだよ。
「えーと、ねぇ、ちょっと待って!?ゼンの化けたレイより、僕の方が先に一緒にいたよね?」
「だってさっき、どれいがいいって…「言ってないよ?!言ってないからね!?」」
ユージアが食い気味に…反論?してきた。
でもさっき、奴隷契約の解除は嫌だって、自分で言ってたじゃない。
私の背をさする手が、微妙に小刻みに震えだしたので、顔を少し上げてみると、さすってくれていたのはセグシュ兄様で、口に手を当てて必死に笑いをこらえていた。
「そもそも、人のお友達…ならば、ユージアは…人族では、無いから…該当しない」
「じゃあ、えるがさいしょになるの?」
いつの間にかに近くにきていたのか、ルークが「ユージアは人ではない」と軽く爆弾発言をしていったわけですが。
まぁ、あえて聞かなかったことにしとく。
そうなると次はエルネストだけど…。
「人族っていう意味なら、多分、僕も違うな…獣人だ」
ひょこりと、耳を出して見せてくれた。
犬耳?狼の耳かな?どちらにしても、獣耳!やっぱり奴隷運搬用の荷馬車でちらっと見たあの尻尾は気のせいじゃ無かった!
さ、触りたい!尻尾も、あるよね?見たい!
「ならぼくが、セシリアのいちばんだねっ!よろしくね」
「王族だって、一応、人だけど微妙に違うと思う…」
シュトレイユ王子がふわりと、そこだけ花が咲き乱れるような、きらきらの笑みを振り撒いてる。
ぽつりと、ゼンが負け惜しみのように呟いてたけど、華麗にスルーされてた。
私の涙が止まったのに気づいたのか、セグシュ兄様に肩をぽんと叩くように、進むように誘導される。
目の前にちょうど王様と王妃様がこちらへ視線を向けていたので、カーテシーをして、顔をあげると次に話しかけてきたのは、その利発そうな深緑の瞳に好奇心の光を強く宿したレオンハルト王子だった。
「セシリア嬢…教会から、王宮の障壁壊す勢いで銀のトレーを飛ばしたんだって?あと、さっきも離宮の屋根を吹き飛ばしたとか…で、属性は何だったの?」
「やね…でしゅか?……やね?」
「「あ…!」」
「え…セシリアって、魔法上手なんだね……」
──身に、覚えはない。はず。
教会からトレーは飛ばしたけど、むしろ風圧で自分が吹き飛んで、気を失ったし。
あ、たしかに教会の壁は壊したけど、障壁は壊してないと思うよ?うん。
さっきの離宮の屋根ってのはもしかして…ユージアが飛び出してったあの穴のことかな。
背後からの声に振り向くと、ユージアとゼンが何か視線で話し合ってるような空気と、エルが少し遠い目をしていた。
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