第12話 動物園のアイスクリン(後編①)


 K太くんが、じっと見ています。


 アイスクリンの屋台をじっと見ています。


 仕方ありません。


 買ってあげましょう。


「え、いいよ、いらないよ」とK太くんは遠慮しています。


 こどもが遠慮するんじゃない。


 私は屋台のおじさんに、アイスクリンを一個注文しました。


 おじさんが作ってくれたアイスクリンを、K太くんに渡します。


「本当にいいの?」


 K太くんはそう聞いてきますが、もう目はアイスクリンに釘付けです。


 可愛い。


「いいんですよ。どうぞ」


 K太くんは嬉しそうに、アイスクリンを舐めました。


 私は自分の分のアイスクリンは注文しませんでした。


 K太くんは、嬉しそうに食べていますが、私はあんまり好きじゃないんですよね。


 アイスクリン。


 なんていうか、アイスクリームの代用品って思ってしまいます。


 触感はシャーベットと、アイスクリームの中間って感じで。


 触感はそれほど嫌いじゃないです。


 でも、味がなあ。


 なんか、味が薄く感じるんですよ。


 私の食べたアイスクリンが、そうなだけかもしれませんが。


 私もK太くんぐらいの年齢の時は、アイスクリン大好きでした。


 よく運動会の時に、小学校の校門の前に売りに来ていました。


 お昼休憩の時に食べて、めっちゃおいしかった記憶があります。


 まあ、K太くんの嬉しそうな顔が見れて良かった。


 そう考えていると、K太くんが、アイスクリンをこっちに向けています。


「食べて」


「え」


「おいしいから食べて」


 え。


 なにこの子。


 天使かな。


 いいんですか。


 こんな幸せな経験をしても、本当にいいんですか。


 ……私は誰に許可を求めているんだ。


 わたしはちょっとだけ、アイスクリンを頂きました。


「おいしいよね」


「はい、おいしいです」


 ごめんなさい、アイスクリン。最高でした。


 ありがとう、アイスクリン。

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