第12話強敵

 魔族の一団が視界に入った。10人はいた。今までとは異なり、魔軍正規軍崩れだと感じた。特に、二人は魔軍の正騎士だと感じた。避けようとしたが、見つかってしまった。二人の馬は既に倒れてしまい、彼らに容易に追いつかれてしまった。 

「もう後、1日少しで魔界を出られたのに。」

 テルシオは唇を噛んだ。

「仕方があるまい。やらねばならないのであれば、受けて立とうではないか?」

 彼らは前方にまわり、馬を降りて待ち構えていた。より体が大きな二人の一人が、前に進み、まず俺が相手だ、一人でも、二人でもいいぞ、かかってこいと声をかけときた。テルシオとセスタは躊躇せず二人同時に斬り込んだ。テルシオの目くらまし、二人同時の、魔法と剣での攻撃を彼は受けきることができなかった。決して致命傷ではなかったが、かなりの傷を受けて、戦力がかなり落ちた。

「こ、この卑怯もの!」

と叫んで、同様に大柄な、魔界騎士という雰囲気の男が飛び込んできた。セスタが直ぐさま飛び込んで切り結ぶ。傷ついた奴と他の雑兵はテルシオが相手となった。

 テルシオは、時折チラッとセスタの方を見ながら、“やはり、こいつら魔族の正規兵崩れか。全員手強い。セスタを援護するどころじゃない!”と焦っていた。セスタも苦戦している。相手も、かなりの格の魔剣を持っているし、かなりの剣の使い手だった。体力と経験ではセスタは敵ではない。彼女はその相手に、一見馬鹿正直に真っ正面から斬り込んでいる。あくまでも、それは一見である。彼女は、相手の攻撃を体をばねにして、その力を分散させて受け止め、攻撃の際は、それを逆に利用して、しかも相手が防御の手薄なところに斬り込んでいる。それができるように、動き回り、相手が攻撃しづらく、自分が攻撃しやすい場所に常に立っている。防御魔法も、攻撃魔法も真っ正面のようで、相手の攻撃を受け流し、相手の防御をかいくぐって、魔力の消耗を、最小限、効果を最大限にして使い、相手の気が付かない第二弾も放っている。天性と修行から得た剣技と魔法はセスタが上回っている。あと、相手は、ここにいたっても彼女を女であることと侮っている。テルシオをかいくぐって、魔族の兵士の一人が彼女に斬り込んだ。彼女は、その剣を、自分の剣で受け止めつつ、本来の相手の剣を避ける。テルシオは、直ぐにセスタ本来の相手に火炎弾をはなち牽制し、彼女の元に駈け寄り、魔族の兵士を押し返す。隙有りとばかり斬りかかっきた兵士の一人を逆袈裟懸けで斬り、火炎の魔法でその兵士を包ませた。絶叫をあげて倒れた兵士にすかさずとどめを刺し、残る手負いの騎士一人と兵士3人を睨みつけた。

“テルシオの助けにゆけぬ。奴も苦戦しているな。奴等もかなりの使い手のようだ。”しかも、二度三度、兵士が斬りかかってきて、彼女が剣で受け止めた。その度に、直ぐにテルシオが駆けつけ、押し返したが、完全に、防げないことで彼の苦戦中だということがよくわかった。セスタは、彼が慎重に防御と攻撃を織り交ぜて戦うだけの者ではないと知っている。それを行いながら、隙を見て、相手の攻撃を抑え込み、真っ正面から必殺の技で斬り込んでいる、魔法攻撃を放っていることを見ている。そして、複数の相手全体を抑え込む術を心得ている。その彼が、自分の背を守り切れない、即座に駆け付けてくれて、押し返したくれてはいるが。“早く倒して、奴を助けなければ。”セスタも焦った。テルシオは手負いの魔族騎士を大上段から斬りつけて、至近距離から続けざまに電撃玉を連射した。相手はよろめいたが、まだ倒れなかった。“人間なら、もう3回は死んでいるぞ!”更に袈裟懸けで切った。ようやく相手は倒れた。かなり息を荒くしながらも、テルシオは残る3人の兵士と向かい合った。

 セスタは、数発の火焔弾を放ち、相手が怯んだ一瞬に踏み込んで、胸に剣を突き刺した。聖剣に魔力をのせて発動させた。魔族騎士はうめき声をあげたが、まだ倒れなかった。彼女を上から突き刺そうとした。セスタは聖剣に渾身の魔力を注ぎ発動した。相手の上半身は破裂し、大量の血と肉片が彼女の体に落ちた。相手の下半身が仰向けに倒れた。荒い息で、膝を折り、力つきたように地面に剣を突き刺して何とか体を支えた。“あいつは?”周囲を見まわすと、やはり荒い息をして、地面に座り込んでいるテルシオが見えた。テルシオも、セスタを見た。“生きている。”と安心すると同時に、“彼が死んでいたら”“彼女が死んでしまっていたら”ということが頭をよぎった。相手が動くのを見て、“生きていてくれた”とわかって嬉しかった。這うようにして、互いの方に近づいて行った。涙が止めどもなく流れるのを止められなかった。手を伸ばして互いの顔に触った。そのまま互いに相手を抱きしめた。“柔らかい。こんな体であんな奴と戦ったんだ”、“温かい。なんか安心する。”そのまま自然に唇を重ねる、舌を差し入れて、舌を絡まらせあった。しかし、しばらくして、はっと何かに気がついてからお互いに体を離した。セスタは軽く足蹴りにしたが、テルシオもセスタをはなそうとした。二人は少しでも離れて、相手を窺った。セスタは、少し睨んでいた。

「立てるか?取るものを取って、早くここから離れないと。」

 彼は立ち上がって、彼女に手を差し伸べた。彼女も拒否することなく、彼の力を借りてようやく立ち上がった。

「私達は生きているのだな。」

「何とかな。セスタ、お前のおかげだよ。」

「私一人では駄目だった。お前がいてくれたからだ、さすが私の弟弟子だ。褒めてやる。」

 テルシオは苦笑し、出発の準備をしながら、“

「早く離れないと、死体を食べようとする魔獣が、集まって来る。今の二人の体力ではやられかねないからな。」

 セスタは頷くと彼の作業を手伝い始めた。

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