第85話 パラダイル総督

 交渉はこちらからパラダイル州へと行くのではなく、パラダイル総督家が帝都まで赴き行うことになった。


 こちらから行くものだと思っていたので、予想が外れた。

 皇帝家の者を呼び寄せるのはパラダイル総督家にとってみると、非礼なことのようだ。


 交渉に来るのはパラダイル総督本人のようだ。

 大事な交渉なので自分自身で行いたいのだろう。


 来るという返事を聞いてから、数日後パラダイル総督が帝都へと入り、城へと入った。


 いきなり顔を合わせたその日に交渉をするのではなく、初日は挨拶やパーティーを行った後、その後日、交渉を行うようだ。


 なるべく早く交渉は成立させたいのだが、まずは一度パーティーを開いて親睦をある程度深めたのちに、交渉をした方が成功確率が上がるだろうという事で、パーティーを行うようだ。


 皇帝陛下のいる部屋で、我々はパラダイル総督家と顔を合わせた。


「陛下の呼び出しに応じてきました。パラダイル総督のマクファ・サーカシアでございます」


 気真面目そうな顔をした、中年の男がそう挨拶をした。


 顔が整っており若い頃は相当イケメンだったのだろうと、予想できる。

 年齢は見た目は40代前後という感じだ。


 私は鑑定をしてみる。


 マクファ・サーカシア 52歳 ♂

 ・ステータス

 統率 78/79

 武勇 88/88

 知略 66/66

 政治 70/71

 野心 33

 ・適性

 歩兵 A

 騎兵 A

 弓兵 C

 魔法兵 D

 築城 B

 兵器 C

 水軍 D

 空軍 B

 計略 D


 それなりのステータスであるが、ずば抜けてはいない。

 意外と歳はいっていた。


 彼の後ろには家臣が複数人同行している。


 全員調べてみる。

 武勇の高いものが多い。パラダイルは強いものほど上に行けるシステムなのだろうか。


 だが武勇以外は正直、微妙な者が多い。


 その中で一人だけかなり凄い人材がいた。


 一番端の方にいて、見た目地味な背の低い男がいるのだが、その男の能力値が、


 バンバ・ファナマーマフ 22歳 ♂ 

 ・ステータス

 統率 70/92

 武勇 52/69

 知略 83/100

 政治 84/98

 野心 11

 ・適性

 歩兵 C

 騎兵 B

 弓兵 B

 魔法兵 B

 築城 D

 兵器 S

 水軍 D

 空軍 D

 計略 S


 こんな感じだった。

 この男は逆に武勇だけが低く、ほかのステータスが非常に高い。


 まだ完全に才能を開花させていないが、開花させれば英傑と言っていいくらいの能力値になる。


 端っこにいて、見た目地味なので恐らく私以外、彼に注目しているものはいないだろう。


 このバンバという男は要注意であるなと、心に留めておいた。


 総督のマクファの挨拶に皇帝陛下が返した後、今度はレングがマクファに挨拶を行う。


 社交辞令の挨拶を交わす。

 パラダイルの話し言葉は、ミーシアンとほとんど変わらない。


 アンセル州と、ミーシアン州と、パラダイル州は比較的言語が近いようだ。シューツ州やサイツ州などは、相当話し言葉が違うようである。


 挨拶を終えた後、親交を深めるために立食パーティーが始まった。


 皇帝は下々の者と一緒に食事は取らない別格扱いを受けているようで、早々に退場した。


 レング、シャクマ、マクファ、ロビンソン辺りが、同じ食卓で食事を取っている。


 私は有能な人材であるバンバが気になったので探す。

 彼が今回の交渉をどう思っているのか確かめたくなった。


 部屋の隅っこの方で、一人で食事を取っていた。


「ご一緒していいですか?」

「童よ……あまり我輩に近付かないことだ……右手に刻まれている暗黒の刻印が暴れだしてしまうかもしれん」


 バンバはそう呟いた。


 暗黒の刻印?

 初めて聞く単語である。

 少し気になったので、


「何でしょう暗黒の刻印とは?」


 そう尋ねた。


「我輩が生まれしころ、悪魔の呪いを受けて刻まれた刻印……それが暗黒の刻印だ。暴走すると我輩は悪魔と化し、暴れ回ることになるだろう……」


 何だそれは。

 悪魔何ていたのだろうかこの世界には。

 確かに魔法はあるし、見た事のなかった生物は多く見たが悪魔は見たことがないぞ。


 何か怪しい感じがして、


「その刻印を見せてもらっていいですか?」


 そう頼んだ。


「興味があるか童よ……」


 と言って右手の甲を見せてきた。


 髑髏の模様なのだが、所々かすれている。

 明らかに墨か何かで書いているとしか思えない。


「あの……かすれてますけど……」

「……え? あ、やべっ!」


 バンバは手の甲を確認して焦る。


「す、墨持ってない?」

「持ってませんが……自分でお書きになっているのですか?」

「え? あ、ち、違うぞ。こほん……童よ安心するがよいぞ。今日は安定日と言って刻印の暴走がしにくい日なのだ。だから刻印が少しかすれておるのだな」


 明らかに即興で作ったとしか思えない設定を口にした。


 この男、所謂中二病というやつか?

 22歳って書いてあったけど、異世界の中二病は14歳で発症するわけではないのだろうか。それともずっとこんな奴なのか。


 しかし、これでステータスは高い……念のためもう一度測ってみたがやはり高い。

 鑑定の精度が下がってしまったのか、不安になる。


 もうちょっと話してみるか。


「あのー、私はアルス・ローベントと申します」

「我輩はバンバ・ファナマーマフである。なるほどお主があのアルス・ローベントか」

「え? 私のことをご存知だったのですか?」


 もしかして私の鑑定が知名度を持ち始めたのか?


「いや、今初めて知った」

「…………じゃあ、なぜ知っている風な雰囲気を出したのですか?」

「その方がカッコいい感じが出るであろう」


 こいつやっぱ駄目なんじゃないだろうか。


 そのあとも、色々話をしてみたが、やはりとにかく変人であるということしか分からなかった。


 もう直球で、


「今回の交渉に関してバンバ様はどう思われているのですか?」


 と聞いてみた。


「ふむ、お主らのボスの言っていることは信頼は出来んな。皇帝陛下に忠誠心を持っているという言葉がまず信用できん」

「なぜそう思われるのですか?」

「あのレング・サレマキアはともかく、クラン・サレマキアは名将であり、大人物であると聞いている。そんなものが今の皇帝陛下に心から忠誠を誓うとはとてもじゃないが思えないからな。大人物からの忠誠は同じく大人物に向けられるものであろう」


 皇帝を批判しているともとれる発言をバンバは行った。


「マクファ様は皇帝陛下に忠誠を誓っていらっしゃるのですよね」

「あの方は若干変わったところがあるからな」


 この男から見て、変わっているってどんな人物なんだ。

 レング達とは普通に喋っているように見えるが。


「まあ、怪しいところはあるが、手を組むメリットは双方にあるだろう。交渉の時、追求せねばならん事はいくつかあるがな」

「何を追求なさるのですか?」

「それをお主には言えんよ」


 交渉では何か聞くつもりなのだろうか。


 有能な男かどうか確信は持てなかったが、注意はすべきだと思った。





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