第79話 反省会

「あの乗り切り方は最善ではなかったかもしれませんね」


 交渉が終わった後、ロビンソンがそう呟いた。

 周囲に誰もいないことを確認し、私たちは話し合いを行っていた。


「なぜだ? 中々上手く乗り切ったと思うが」


 レングがそう返す。


「私は皇帝陛下に嘘は吐けないと、あそこではっきりと言ってしまいましたからね。あそこまで明言しておいてそれが嘘であったとなれば、クラン様が独立を宣言したとき、皇帝家も面子が丸つぶれになります。戦は避けられないでしょう」

「ふむ、しかし、普通に独立しても皇帝家との敵対は免れないと思うが……」

「そうですが、和睦の難易度が高くなるでしょう。クラン様も独立して早々皇帝家との泥沼の戦いは望んでいないはずです」

「ふーむ……そうか……」

「あの交渉は最善ではなかったでしょうね……そうだ、リシア様、あなたならあの場面どう乗り切ったでしょうか?」


 ロビンソンはリシアに質問をした。少し試しているような感じも見受けられる。


「えーと、そうですね……わたくしはロビンソン様が間違いだとは思いませんわ。あの場はとにかく皇帝家に仲立ちの依頼を受けて貰えるようにするのが、一番優先すべき事項ですし。ロビンソン様はとてもお上手であられましたわ。あれだけ堂々と皇帝陛下の御前で喋られてて、尊敬しました」


 とリシアは最初にロビンソンを褒め称えた。


「ですが、わたくしなら……そうですね。絶対に違うと明言はしなかったかもしれませんね。皇帝家はお金に困っているということで、レング様が告げられた金額を聞いた時、本当は飛び上がってしまいたいくらい驚いたのだと思います。わたくしも最初聞いた時は驚きましたし。だから多少こちらが不遜な態度をとっても、話自体は受けた可能性が高いと思いますわ。例えば追及されたとき、疑うのは失礼ではないですか? それならこの話はなかったことにしてもいいですよ? と破談の可能性を仄めかせば、向こうから謝ってきたかもしれません」

「なるほど……」

「しかし、交渉を成立させる成功率でいえば、ロビンソン様のやり方の方が高いと思いますわ。だから間違っているとは言い切れませんわ」

「いや、今考えるとリシア様の方法の方が正しいかもしれませんね。確かに多少リスクはありますが……皇帝家の現状を考えると、今回の話は受ける以外の選択肢はなかったでしょう。もっと話が上手な人ならのらりくらりとかわして、明言を避けてたでしょうね。やはり私はまだまだ力不足のようです」


 悔いるようにロビンソンはそう言った。


「まあ、もうどうしようもないので切り替えていきます」


 落ち込んでいたようだが、あっさりと切り替えると言った。精神的には強い人なのかもしれない。


「さて、パラダイルとの交渉が始まるまで少し時間がかかります。現在パラダイル州の州都に、私の子飼いの密偵を派遣しております。パラダイルの現状を調べ、少しでも交渉確率を上げるためですね。もうすぐ情報を持って、帝都へやってくるので、その情報を聞いてから交渉の内容を決めたいと思います。リシア様とアルス様にはその内容を決める話し合いに一緒に参加していただきたいと思っております。可能でしょうか?」

「もちろんです。そのためについてきたわけですから」


 何も仕事をしないで帰るのは流石に申し訳ない。

 まあ、私が役に立てるかどうか分からないが。


 リシアも異存はないと返事をした。


「それでは密偵が情報を持ってくるまでは、自由時間です。あ、そうだ。これは全く交渉には役に立たないのですが、アルス様は皇帝陛下と宰相シャクマの能力を見ましたでしょうか?」

「はい見ましたよ」

「出来れば詳しく教えてほしいのですが、よろしいでしょうか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます」


 私はロビンソンに、皇帝とシャクマの能力を詳しく語った。


「なるほど……皇帝は凡人ですか。そして、シャクマは有能ですが忠誠心は薄い可能性があると」

「はい」

「分かりました。しかし、忠誠心まで測れるとはアルス様の能力はやはり驚異的ですね。敵に回したくはないものです」


 何のためにロビンソンが能力を聞いたかは不明だった。

 ただ単に気になったのか、もしくは先ほど自分の交渉で独立した際に戦が勃発しそうになった際への対策として、知りたかったのか。


 たぶん後者か? 今対策を考えることでもないかもしれないが、ただ興味だけで聞いてくるようなタイプにはあまり見えないからな。


 まあ、どっちでもいいか。


 しばらくは帝都で自由時間が貰えるようなので、何をするか考えよう。




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