竜華燕のセラピスト
高杜 凪咲
Magic1 知らない世界
第1話 養父の心配 1
カタカタと、提出された書類を見ながら、パソコンと
その画面には、おびただしい数の数字が縦に
彼の手元には、昨年の冬に国会を通過し、承認された予算案が置かれている。
この予算案は、彼の努力の結晶だ。
毎年のように、振る袖のない財布の紐を緩めて、必要と思われる所へと配分するのだ。が、予算案を作成すると、会議では決まって・・・・・・
「国土整備は国の、国民の生活を守る為の重要事項ですぞ。今年は劣化した道路整備をしたく、この金額では・・・・・・」
「いやいや、ウチは昨年問題になった、さすらい妊婦問題に取り組むべく、産婦人科医を増やす為に医者を志す子供達への奨学金を更に充実させて・・・・・・」
と、
がしかし、それも開始30分が経過すると、自分の主義主張に酔いしれた大臣達の、いつまでも乾かぬ舌にいら立ちを覚えて、彼は、ちらりと
この国王は、彼の
男児として生まれたのに女性名が付けられたのは、単に、亡くなった生みの親がいい加減な人種だったせいだ。今度こそは女の子が欲しい!!と祈ってやまず、妊婦検診でも「男の子です」と診断が下っても諦めきれず、生まれてみたらやっぱり男だった。
そこで諦めればいいものを、両親は(特に母親が)、諦めきれなかった。
兄弟で喧嘩になってもいけないしと、彼にも女性名を名付けようと主張したのである。
ちなみに、りなの兄は
お陰で兄弟揃って女性名なので、お前だけ男の名前なんてズルい!!という喧嘩は、未だ起きてはいなかった。むしろ、お前も名前で苦労するよなと、慰め合うことの方が多いくらいだ。
脱線した。話を戻そう。
りなの視線に気が付いた養父は、構わないぞと、人の悪い顔でニヤリと笑う。その目元は、獲物を見つけた大型のネコ科動物ように愉快そうだ。
彼は、誰にも
理由は簡単。国の財布のことは、報告書でデータとしては知っているが、実務レベルのことには明るくない。色々突っ込まれると面倒だから、口を挟まないのだ。
――仕方ない。そろそろ鳥かごに戻しましょうか。
いつものことだが、まるで
ピーチクパーチクと、酒も入らぬのに、舌が乾くことなく自分の
が、安上がりな分だけ面倒な人達である。そんな困った大人達を、彼は国で1,2を
「色々ご意見はあるかと思いますが、予算配分してこの金額に決めたのには、理由があります。昨年の秋に見舞われた大水害では、大変な被害が出ております。その復興と、
完全に財布を
「やはり今のままでは、税収が足らないのだ。消費税を引き上げて・・・・・・」
「いやいや、法人税は随分優遇してきたのですから、ここらで少し上げさせてもらって」
「消費税をこれ以上引き上げると国民がうるさいですから、ここは金持ちから徴収しましょう。所得税か、固定資産税か、相続税か・・・・・・」
始まった。自分の
自分達の自己満足を満たしてくれる獲得予算額を増やして箱モノを作り、そして、これは俺が作ったんだ!!と自慢し
毎度のことながら、付き合うのも馬鹿馬鹿しい。
「今のままでも、国民は十分血税を払って下さっています。政府側で少しでも節約すべきです。先程の道路整備ですが、同じ個所を何度も掘り返しているような報告書がありました。どうせなら、一回で全て直してしまえば、何度も同じ場所を掘り返し埋める費用と手間が減るでしょう。それからさすらい妊婦問題ですが、必要なのは、必要な時に誰でも入所出来る住居です。産婦人科医を増やすことも重要ですが、まずはそちらが先でしょう。基本的人権の一つである生存権が脅かされるのですから。それから奨学金ですが、産婦人科医を増やすという目的で充実させようと言うのであれば、そのように明記して、
痛い所をオブラートに包みもせずに指摘した。特に会議を傍聴している官僚から、冷たい刺さるような視線がりなへと送られる。
どこでどう甘い汁を吸うつもりかは知らないが、こうしてりなが毎度釘を刺し邪魔をするので、昔に比べて自由が利かなくなってきていた。
その空気を読んだのか、国王がふっと笑って口を挟む。
「さすらいの妊婦とはよく名付けたものだと思うが、国民の生命が脅かされる問題は
「分かりました」
予算案、作り直しだ。
どこからか予算を削って、こちらに振り替える。まるでパズルのピースをはめ込むような作業だが、量も規模も尋常じゃないので、徹夜必至なのだ。
本日、完全徹夜日数5日目。連続徹夜日数、今年も記録更新である。
「とりあえず、今日はこんなところか?なら、解散にしよう」
終了の言葉と共に、会議に出席していた面々が立ち上がる。
お疲れ様でしたと、それぞれの部署へと戻っていくのを見て、りなは溜息を吐いた。
今日も徹夜決定である。
そうやって、りなが苦労に苦労を重ねて作り上げた、努力の結晶ともいうべき国家予算案。
当然、組むだけじゃ終わらない。きちんと予算案通りに予算が
そして年度が替わり、国会で承認された予算案が執行された今、彼はそのチェック作業に追われていた。
彼は手を止めて、机の片隅に置かれた卓上カレンダーに目をやる。
――おかしい、そろそろ回ってくるはずの警護部の支出報告書がない。
脳みそまで筋肉を詰め込んでいるのでは?と思われる宮廷兵士のとある部隊の、ひと月分の支出報告書だ。王宮内総収支管理をしているのもりななので、こちらは月単位で帳簿を付けている。
そろそろ前月分をやらなくてはと思って、先日提出された報告書をチェックしていたところ、案の定というべきか、数件足らなかった。書類が提出されるのが遅い部署は、いつも決まっているのだ。
――まあ来週でも間に合うから、もう少し待ってから、
今はそっちよりも、国全体の方のチェックが先だ。
足らない資料があるし、王に確認したいことも出来た。
国王はすぐ戻ると言って、かれこれ数時間戻ってこない。宰相代わりの地位に
りなは立ち上がって、傍の政務官に「資料室へ行ってきます」と伝えると、王室(いくつかある執務室のうち、国王がよくいる執務室という意味で、俗に王室と呼ぶ)を後にした。
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