第98話 ギルドマスターゴウケツ

右手首を斬られてうずくまる冒険者。

首を刈られて殺された冒険者。

氷柱で固められた冒険者達。

唖然とする『剣神』ジョウセン。


雪女のユキとエルフのエリ。

二人を囲む冒険者達。


冒険者ギルドの1階は時が止まった様に物音一つしない。


そこに受付の奥の階段から1人の男が降りてきた。


「おいおい、何の騒ぎだ!」

ガッシリした体格の牛の獣人。


「ま、マスター」

受付の女性職員が男を見る。


牛の獣人である男はギルドマスターのゴウケツ。

元Sランク冒険者。

獣人国十二神将の1人。

二つ名は『牛鬼ぎゅうき


「何があった!」


『剣神』ジョウセンはギルドマスターに答える。

「こちらの女性二人に乱暴しようとした冒険者達が、殺されました」


「乱暴?異な事を言いんすぇ。武器を持って殺されそうになりんした。正当防衛でありんす」

ユキは冷静に状況を説明した。


「ふん。詳しく聞こうじゃ無いか。俺はギルドマスターのゴウケツだ。あんた達の名前は?」


破落戸ならずもの達に名乗る名前は無いのじゃ」

エリはゴウケツを睨む。


「後ろめたい事でもあるのか?取り敢えず話を聞くから2階に来い!」


「お断りしんす」

ユキは明確に拒否。


女子おなご二人に酔っ払って絡み、断られたらナイフで脅し、あげくの果てには殺そうとして、しかも女子おなご二人を集団で襲う様な組織は信用出来んせん。その長の言う事を大人しく聞くわけ無いでありんしょう。何をされるか分かりんせん」


「何!今の話は本当の事か?」

ゴウケツは受付の女性職員に聞く。


「本当です」


「くっ、馬鹿な事をしやがって。

お詫びも兼ねるので2階に同行して貰えないかね」


「お断りしんす。帰りんしょう」

「そうじゃな」

ユキとエリは出口に向かう。


周りを囲んでいた冒険者達は出口までの道を開ける。


「待て!人を殺して無罪放免されると思ってるのか!」

ゴウケツはエリ達の背中に叫ぶ。


「人に剣を向けて殺された者の、肩を持つのでありんすか」

ユキは出口に向かって歩きながら、威圧を放ち濃厚な魔力が漂う。


「ギルド全体が妾達の敵にまわると言うなら、是非も無いのじゃ」

エリも後ろは振り向かず魔力を溢れさせる。


「くっ」

ゴウケツの額に汗が滲む。


「ふん。妾達は出て行くが、後を付けようとしたり、妾達の不利になる様な事をしたら死ぬぞい。肝に銘じておくのじゃ」

エリが振り返りそう言うと、二人は冒険者ギルドを出ていく。


ギルドマスターのゴウケツと『剣神』ジョウセン、他の冒険者達や受付の職員達は何も言えず見ていた。


ギルドを出てユキがエリに小声で話し掛ける。


「エリさん、お許しなんし。わちきが余計な事をしたばっかりに、ギルドを調べられなかったでありんすね」


「ユキは悪く無いのじゃ。あの馬鹿どもが悪いのじゃ。そして、心配無用。念話で指示して、バズをギルドに残して来たのじゃ」


「そうでありんしたか」

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