22幕:人形使いは神託を受ける 上
ふかふかとした感触が身体中に広がる。
背中に感じる柔らかさはこれまで体験したことがないものだ。
それは僕が味わったことがある中でも片手に入るほどの優美な甘味なんだ。
だから僕は必死に手にした何かにしがみついた。
決して想い人のたわわに実ったものに飛び込んだわけじゃないし顔を埋めた訳でもない。
僕はそこまで破廉恥じゃないし節操なしでもない。
そのうち飛び込む予定にしても以前味わったあの感触は最高だった。
事故というか何というか突然のことだったし、、、そうあれは仕方ないことだった。
だけどあのマシュマロのような雲を掴むかのようなものは、、、とにかくあの天国とはまた違ったものを連想させるに至らせるほど今の僕を夢の狭間へと登らせているんだ。
それにお日様の香りが鼻中に広がり僕の心をこれでもかと刺激している。
久しく感じることがなかったこの感触は僕の猜疑心や羞恥心、不安や恐怖といった負の感情のありとあらゆるものを綺麗さっぱりと消失させてくれる。
良いことも。
-----そして悪いことも。
叩き壊された家屋も散らばった食器類も何もかもを僕は無視しながら僕は最愛の人だけを想い続ける。
そうさ。
まるで、、、、
グリンティアを抱きしめたときのように、、、
グリンティアに抱きしめられたときのように、、、
そしてパトに足蹴にされたときのように、、、
そんな僕の夢を汚す世界がこの世には存在するんだ。
「嫌だっ!!僕はここに永住するんだっ!!」
「お願い、、、起きてシュガール」
「嫌だ、、、君の願いでもこれだけは嫌だ、僕は僕は、、、」
「ねぇシュガール話を聞いて。私は私は」
「僕は聞きたくない聞きたくないんだ」
女神の甘言を僕は枕に顔を埋めることで拒否した。
本当は彼女のものに埋めたい。そして彼女を心から抱きしめたい。
だけど僕は今の僕には不可能なんだ。
「シュガール、、、」
愛しの女神に愛想を尽かされるかもしれない。
それだけの醜態を晒している。見る人がみればきっと乙女かと激昂するかもしれない。
うちの姫君なんか、、、ん。奴隷が乙女キモいとか言い出しそうだ。
だけど今の僕にはこの事実を真摯に受け止めることができないんだ。
そんな僕に予想外の言葉が舞い降りたんだ。
「シュガール、、、今夜デートしよっか」
「、、、、えっ?」
思わず顔を上げた情けない僕の前に、にっこりと微笑んでくれた彼女の姿を僕は生涯二度と忘れることはないだろう。
「お待たせシュガール」
繁華街の入口での待ち合わせ。
僕の前に本当の女神さまが降臨した。
僕は形振り構わず彼女の手を取ると引き寄せ抱きしめた。
そんな僕に彼女は微笑んだ後、されるがままになる。
柔らかく温かな肢体。
透き通るように輝く緑の長い髪は艶めかしく彼女の魅力の一つだ。
髪を手に取り肢体に体を重ね彼女の温かさを感じる。
そして数分だけ数分だけだが、とても楽になった。
「少しは落ち着いた?」
「だいぶ楽になったかな。ありがとうグリンティア」
「どういたしまして。それと何か言うことはないのかな?」
「忘れてないさ。ただ今更だけど、、、今日も一段と綺麗だよグリンティア」
「うーんちょっと遅いけど合格」
「よかったよ、じゃあ女性褒賞試験があればクリアできるかな?」
「ん。問題ない」
「だいぶ似てるw」
「そうかしらw」
「「wwww」」
僕たちはそのまま二人で笑いあった。
久しぶりにお腹を抱えて笑ったおかげで、周囲からはきっと変なカップルだって思われてるかもしれない。
でもいいんだ。
それが僕には嬉しいことだから。
僕は改めて昼間の一件を思い出した。
現実から逃げようとし枕に顔を埋めることになった件を。
あの時、
結論から言うと僕には女神様の姿を捉えることはできなかった。
何もないただの虚無。
しかし背中に感じる感触は柔肌の乙女のような温かさ。
その存在をはっきりと感じることができる何かが僕の背中から足を下ろしたんだ。
そして僕の心に女神様の声が響いた。
「なかなかの座り心地。これなら椅子検定上級も合格間違いかしら」
それが僕が交わした最初の言葉だったんだ。
とある女神様(๑• ̀д•́ )✧ドヤッ:現世降誕、、、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます