5幕:人形使いは人形になる 下
身体がすごく重かった。
両手を上げることもできなかったし瞼は開くことを頑なに拒絶していた。
女医の素敵なお姉さん曰く、魔力欠乏による症状だということらしい。
お姉さんを見つめる瞳だけは元気だったが、ほかは思うように動かなかった。
最低でも2日は安静にしなければいけないらしい。
その日、目覚めた僕に小さな手が優しく差し伸ばされた。
小さな女の子だった。
なんてなんて可愛らしい天使だろうか。
窓から差し込む光が真っ白に彼女を包んでいた。
ベッドの側で輝くほど光に包まれた赤茶色の髪の女の子が僕を見つめていたんだ。
それは物凄い衝撃だったんだ。
あどけない笑顔で見つめるそのまっすぐで純粋な瞳と天使のような笑顔は僕の心を鷲掴みにしたんだ。
ベッドの側には綺麗なタオルや衣服、水の張った容器なんかが置いてあった。
どうやら彼女が必死で僕の看病をしてくれていたみたいだ。
根気強く顔を拭いてくれたりしてくれたんだろうか。
なんて優しい子なんだ。
感動で胸がいっぱいの僕に彼女は泣きそうな顔になりながら胸に飛び込んできた。
「大丈夫で良かった、、、私すごく怖かったの」
「もう大丈夫。君こそ怪我はないかい?」
「うん、大丈夫。私よりあなたが心配だった」
力を込めれば壊れそうなほど小さな体を軽く抱きしめながら僕は頭を軽く撫で続けた。
最近、お姉さんたちから僕も味わったから力加減は大丈夫なはずだ。
筋肉のお姉さん?
あいつは論外さ。
「僕はシュガール。人形使いの冒険者さ、君は?」
「私は、、、パトレール。パトと呼んでほしい」
「そうかいパト、、、あのご婦人を助けることができなかった。すまない」
「違う。顔を上げてシュガール、私は感謝している、、、」
泣き出す彼女の背中をさすりながらパトが落ち着くのを待った。
こんな小さな子供があんな状況に置かれていたんだ。
とても不安で怖いことだったに違いない。
「私一人になっちゃった」
「違うさ。僕がいる。僕でよければ力になるよ」
「本当?嘘じゃない?」
「あぁ嘘じゃないさ」
「何でも聞いてくれる?」
「あぁ僕にできるならね」
僕は小さいころから一人だった。
お世話する人も家族も僕との距離は一定だった。
だから状況は違えど彼女の不安がわかるんだ。
それにこんな小さな子供を放っておけるはずがないんだ。
「じゃあ約束してほしい、、、指切り」
なんて可愛らしい約束だろうか。
子供の頃から絵本で見た大切なことを約束するときのお約束。
そんなことぐらい僕ならば簡単に叶えられる。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ますっ、指きった!!」
「指切りげんまん、嘘ついたらあなたと人形の首お~とすっ、指きった!!」
「え!?」
小さな小指に小指を絡めお約束のフレーズを囁く。
だが今とんでもないことを彼女が呟いた気がしたんだが、、、
しかし僕は甘かったんだ。
この時、僕はとんでもないことをしてしまったということに全く気づかなかったんだ。
そうさ、僕は若かったんだ。
抑揚がなくなった平坦な声で彼女は続けた。
「ん。これからシュガールは私の家来。奴隷。そう私がご主人様」
「え!?どういうこと?」
「ん?シュガールいきなりで迷うのも分かる。でもあなたは約束した。これからあなたは私の人形になる」
「ちょっと待って!?なんでいきなり性格変わって、、、泣いていたのは何だったんだ」
「ん?嘘泣きなんか誰でもできる。演技は得意。それに私はあなたのご主人様、奴隷は顎で使われるべき」
「冗談じゃない!!僕には夢があるんだ。それが叶うまではそんなことはできない!!」
「ん?夢を見る時間は終わり。奴隷は現実に目を向けるべき」
「嫌だ。僕は帰らせてもらう!!」
「ん。それにあなたはもう逃げられない」
僕がベッドから立ち上がり病室から出ようとした時だった。
黒い笑みを浮かべる彼女が僕に語りかけてきたんだ。
「ん。これをさっき拾った」
そこには大切な相棒の右腕が握られていた。
「そ、それどこで拾ったの?」
「ん。これはあの時に森で拾った」
「ほかに似たようなものもたくさん拾った」
そして逆の手に大切な相棒の生首が握られていた。
「ねぇそれは僕の大切なものなんだ、、、返して欲しい」
「ん?名前が書いてないから私のもの」
「いや僕のだよ!!」
「ん。筋肉男女が拾ったものは自分のものよーと言っていた。だからこれは私の」
「あの野郎、、、」
「ん。だからこれもシュガールも渡さない」
「いや僕は僕のものだ!!それに人形たちは僕の大切な相棒なんだ!!」
「ん。奴隷が生意気。頭を地面につけて這いつくばったらくれてやってもいい」
「なんて超上から目線!?」
「ん。なら財布の中身全部出して。有金全部でお菓子買ってきて」
「え!?僕の寂しい懐を揺するだと!?」
「ん?何か聞き間違いだったような気がする」
「そうさ。僕は君の奴隷じゃない!!」
「ん?じゃあ下僕で譲歩する」
「それ同じ意味だよね!!」
「ん。なら仕方ない。ご主人さまの言いつけは絶対」
「冗談じゃない!!君のわがままには付き合ってられないよ!!」
しかし彼女は続けた。
「ん。別に出て行くなら出て行けばいい。私は今から焚き火をしにいく」
「焚き火だって?なんで今の状況で、、、」
「ん。今日の私のご飯はお肉の串焼き」
「それで?」
「ん。剣を持った人形と杖を持った人形の残骸を燃料にしてお肉をたくさん食べる」
「ふぁっ!!?!?!??」
「ん。ちなみにもう焚き火は始まってるし残りの材料も全てその側にセットしている」
「ちょっと冗談だよね!?」
「ん。奴隷でも少しは考えればわかるはず。もう時間がないけど返事は?」
「はぁっ!?嘘だよね!!」
「ん?返事は?それから食後のデザートが食べたい」
「ち、ちくしょーーーっ!!!」
「ん。とりあえず今日のおやつは一番高いケーキがいい」
そして僕は幼女の人形になった。
この時、誰が予測できただろうか。
これから先、僕が幼女に顎で使われる未来が待っているなんて!!
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パト(`・ω´・)+:ん。シュガールは私の奴隷。
にんじん太郎さん(https://kakuyomu.jp/users/ninjinmazui)のご好意により紹介動画を作成していただきました。
合わせてチャンネル登録もどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=2Cjy5Owlhf0
ぜひご覧ください。
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