第127話 北高祭2日目 勝負

「ゴングが鳴ったぞ」

「何が始まんの?プロレス?」

「なにかのイベントか?」


 渡り廊下付近で生徒や一般客がざわついている。


 しゃがみこんで動かない学年主任が気になって、どうしようかと思っていると2人の生徒が近づいてきた。


「学年主任を運びます」


 2人がかりで手際良く抱え上げると、どこかへ連れて行った。あれが生徒会覆面調査員かも知れない。きっとそうだ。心配事が無くなったから、あたしはすぐに渡り廊下に行った。


 真知子先生が生徒たちの背後を取りつつ前進している。背の高い人を選んで背後につき姿を隠しているつもりみたいだ。反対側からは生徒会長が同じような動きをしてこっちに向かっている。でも生徒会長の動きは丸見えだ。


「見えてるんだからあんなことせずに真っ直ぐ進んだほうが早いのに」

「違うよ。ああやって人を盾にしながら間合いを取って相手の隙を探してるんだよ~」


 宮子はすごく楽しそうだけど、真知子先生に背後につかれた生徒は怯えている。首根っこを掴まれたら動けなくなることを知っているからだ。


「宮前先生対と宮前生徒会長の戦いだ。今年はどっちが勝つかな」


と上級生が言ってる。今年はってどういうこと?


 背の高い生徒を挟み、ついに先生と会長が対峙たいじした。睨み合って微動だにしない。間に挟まれている生徒も怯えて動けない。


「可哀想、巻き込まれたね~。この場合、背後についてる先生のほうが有利だね」

「え、なんで?」

「だって…」


 その時、会長がスッと横に動いた。


「あ、空中浮遊の術っ。さすが能力者だ~」

「浮いてないってば」


 すかさず先生は背の高い生徒の首根っこを掴んで横に無理やり動かした。これじゃほんとの盾になってるよ。


「ねっ、背後を取ったから出来る技だよ!」


 なるほど、宮子の解説は的を射てる。会長は盾がわりの生徒に阻まれた。しかしすぐに会長は近くにいた生徒の首根っこを掴み自分の前に立たせた。


「会長もやるね~。盾が無いと不利だもんね」


 可哀想な生徒が1人増えて、膠着こうちゃく状態に陥った。あたしはふと疑問に思ったので宮子に聞いてみた。


「ねえ宮子、これって何の戦い?ライブは無事終わったから取り敢えず先生は戦わなくてもいいし、会長だってライブを阻止するという目的は無くなってるよね?」

「理由なんていらないよ、そこに敵がいるから戦うんだよ~。あの2人は戦うために生まれてきた戦士だね」


 それ、絶対に違うから。


「このままではらちが明かないですね」

「そうだな。ではまずは…」


 先生は盾にしていた背の高い生徒を解放した。短時間だったからその場に崩れ落ちること無く逃げていった。トラウマにならないと良いんだけど。


「ふ、自ら盾を捨てるとは、愚かな…」

「へー、こっちは盾を捨てて丸腰で戦おうと言うのに会長はまだ盾を使うのか、卑怯者め」

「な、なんですって。私も盾を捨てます」


 安い挑発に乗った会長も盾にしていた生徒を解放した。でも丸腰って武器を持たないことじゃ無かったっけ?


「よろしい、それでは」


 カツッと足音を立て、先生は目にも留まらぬ速さで会長の背後を取った。


「甘いですわよ」


 音も立てずに会長は移動し先生の背後を取った。あれ、やっぱり浮遊してる?まさかね。

 そんなことを何度か繰り返すうちに2人は渡り廊下の端まで動き、先生が普通の廊下との境界線に立った。


「しまった。これでは後ろを取れない」


 会長が悔しがった。渡り廊下から外に出たらダメなルールが有るみたいだ。


「私の勝ちだな、会長」


 そう言って先生は会長の首根っこを掴んだ。


「な~んだ、あっさり終わっちゃった」


 残念そうに言うと、宮子はゴングを鳴らした。

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