第86話 決戦は水曜日

 月曜日。今日はチケットが配布される日だ。千歳に会うまであと2日。香風このかは既に落ち着かなくなっている。水曜日はもうすぐだ。


「香風、落ち着かないね。便秘解消しそうなの?」


 そわそわと落ち着かない香風の様子を見た友だちが、からかい気味に言ってきても、


「もうすぐよっ」


と、便秘が解消しそうだと間違えられそうに答えてしまう始末。


 3組で授業をしていた真知子も、その落ち着かない様子を見かねて、扉を指差しながら冗談混じりに言った。


「桜谷、落ち着きがないぞ。なんだったら行ってきて良いぞ」

「はあ?違うっつーの」

「そ、そうか、それは失礼したな」


 授業が終わると真知子は香風を廊下に呼び出した。香風はさっきの横柄な返事を怒られるのだと思った。


「気が向いたら食後のコーヒーを飲みに来い。話をしなくても、香りを楽しんで黙って飲むだけでもかまわんぞ」

「は、はい…」


 香風は少し落ち着いた。ちゃんと見てくれている人がいる。それは心強く、気持ちを落ち着かせてくれた。

 昼休みは言われたように部室に行き、黙ってコーヒーを飲んだ。相変わらずほろ苦い。先生も黙っている。でもそれが気分を静かに落ち着かせてくれる。


「ありがとうございました。水曜日に千歳に会います」


 それだけ伝えると、またいつもの便秘ネタになる前に教室に戻った。


 6限目が終わり終学活の時間。


「スマホの電源切って鞄の中に…(以下略)」


 真知子先生はいつも通りのフレーズで入ってきた。


「北高祭のチケットを配布するぞー」


 いよいよチケットが配られた。ほとんどの人が中学の同級生に渡すようだ。

 あたしも宮子や他の南中出身者と打ち合わせて他の学校に行った友だちにバラ撒く予定だ。


 亮も坊主頭の…誰だっけ?とか他の西中出身者とチケットをどうバラ撒くか話し合っているようだ。


 まどろみさんはいつも寝ていて友だちが居なかったと言っていた通り、一般用チケットは貰っていなかった。東中出身者が来ても誰とも喋らないのかな…そう言えばこの学校でも東中の人と喋っているのを見たことはほとんど無い。北高祭では皆に今のまどろみさんを見てほしい。びっくりさせたい。


 お嬢は一般用チケットを貰ったようだけど…じっと眺めている。女学館じょがっこからの外部進学だから、友だちを呼びにくいのか、それとも…交際していた先生を呼びたいのかな…きっとそうだ。まだ想いが残ってるとしたら辛いだろうな…でもお嬢は前を向いているから…だから大丈夫。


 これでチケットは貰った。あたしたちは千歳に会う…決戦は水曜日。

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