第79話 香風と千歳
香風
〔こんにちは〕
〔北高祭のチケットだけど1枚で良いの?〕
すぐに返事が来た。
千歳
〔1枚だよ〕
香風
〔その日わたしは居ないけど〕
〔ひとりで来るの?〕
千歳
〔そうだよ〕
〔ゆっことかあーちゃんとか西中のみんなが居るでしょ〕
ゆっこやあーちゃんと言うのは、千歳と同じバスケ部だった子だ。
香風
〔そだね、女バス仲間と久々に会えるね〕
もし千歳が友達に会いに来るだけなら、それを阻止する理由は無い。千歳の気持ちを読み取らないといけない。でも、どうしたら良いのか分からない。直球で亮のことを聞いたらどうなるかな…。
千歳
〔チケットはもう持ってるの?〕
香風
〔月末くらいかな、まだわたしももらってない〕
千歳
〔わかった〕
香風
〔北高祭は何時くらいに来るの?〕
〔午後からライブだけど、午前中早い時間だったら、わたし少し顔出せるよ〕
〔そしたらその場でチケット渡せるし〕
千歳はわたしが地下アイドルということを知っているから、こう言えば早く来てくれるかも知れない。
千歳
〔無理しなくていいよ〕
〔前日までにどっかで会おうよ〕
〔チケットはその時もらうよ〕
香風
〔うん、そうだね〕
千歳
〔また連絡するね〕
しまった、これでは千歳が何時に来るか分からない。話の持って行き方がまずかった。これでは打つ手が無い。わたしは先生のほうを見た。
「まあ良いだろう。千歳の写真はチケットを渡すときに、ツーショットで撮ろうと言って撮っておけば良いだろう…メッセージの受け答えを見る限りでは、病んでるとは思えないんだが…」
亮が口を開いた。
「俺の顔を見たときに感情の起伏が激しくなりました。声を出して笑ったり、ニヤニヤしたり…、かと思ったら急に走り去って行ったり。それからしばらくの間、無言電話とかが有りました」
「あとカップルを見かけた時に逆上することもあります」
わたしは付け加えた。
「カップルを見たらケッて言ってみたり、カップルを見たら後ろから静かに接近して膝カックンしてダッシュで逃げたり、カップルを見たらその真ん中を突き進んで行ったり…」
真知子先生はコーヒーを飲みながらふむと考えた。
「それは病んでいると言うことではなくて、急に終わった恋が消化出来ずに、自分の感情を吐き出している状態なのかも知れないな。千歳と言うのは元々はどんな人物だった?」
「素直で人当たりが良くて優しくて、でも芯がしっかりあって根性のある子です。バスケは下手だったけどホントに頑張ってた…」
わたしは亮を見ながら言った。まどろみさんを膝の上に座らせている姿に腹が立ったけど、不安そうに話を聞くまどろみさんの顔を見たらそれ以上何も言えなくなった。
「日之池に対して素直に好きだという感情を出せなくなって、ぎこちなく笑いかけることしかできなくなった。そして溜まったストレスを他のカップルにぶつけた…と言うことかも知れんな。カップルに対しては今も同じような状態なのか?」
「はい…よくカップルの邪魔をした話を自慢気にメッセージアプリで聞かせてくれます」
「なるほどな…まだ感情が不安定か…日之池と微睡」
真知子先生は2人のほうを向いて言った。
「北高祭のときイチャイチャしないようにしろ」
『えーっ』
2人は声を揃えて言った。
『嫌です』
まどろみさんは膝の上に座ったまま向きを変え、亮と対面状態になって見つめ合った。人目を気にしないバカップルだ。これでも付き合ってないと言うか。
「なんとっ」
先生は立ち上がり、
「2人っきりにしてやろう。みんな、廊下に出ろ。こっそり覗くんだ」
「先生、こんな時に。いい加減にしてください」
「いや、すまん。深刻な雰囲気をほぐしてやろうと思ってだなあ」
先生は頭を掻きながら、
「では、真面目な話だ。桜谷、千歳をどうする?君はどう呪縛から解き放される?着地点は見えたか?聞かせてもらおう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます