第68話 北高祭活動申請

「入るぞー」


 連休明け最初の同好会。真知子先生がいつものように入ってきた。


「さて、今日は北高祭でどのように活動するのか返事を聞かせてもらおう。部長、どうすることになった?」

「はい、ゲリラライブをやることに決まりました」


 まどろみさんが部長らしく答えた。


「おお、そうか、それは同好会メンバー全員の意見だな?」

「総意です」

「うむ、よろしい」


 先生は満足げに頷いた。


「ただし、一つだけ言いたいことがあります。先生はゲリラライブに関する全ての責めを負うとおっしゃいましたが、私たちも責めを負います。誰かに責任を押し付けて自分だけ楽しむと言うのは間違っています」

「そうですよ、先生だけを悪者にはしませんよ」

一蓮托生いちれんたくしょうってやつね。わたしは当日来ないけど」


「お、お前たち…」

『わ~』


 まどろみさんとお嬢と香風このかの3人は先生に向かって駆け出した。

 両手を広げて3人を抱き留める先生。わーっと泣くまどろみさん達…それを見ながら拍手を始める亮…なんなのこの茶番劇。打ち合わせでもしてたの?


 急に泣き止むと3人がこっちを振り返る。先生もあたしをジッと見ている。え、あたしも参加するの?断れる雰囲気でも無いか。

 やれやれ…あたしは、わーっと泣き真似をしながら先生の胸に飛び込もうと走って行った。


「待て美咲、違うよ。この状況を写真に撮らないでどうするんだ?ほら、早く」

「けっこう恥ずかしいんだから、早く撮りなさいよ」


 まどろみさんと香風にかされた。あたしも超恥ずかしいよ。でも確かに絶好のシャッターチャンスだわ。


「撮るわよ。ラブ・アンド…」

『ピース』


 写真を撮ると、まどろみさんと香風はすぐに先生から離れた。でも、お嬢は先生の胸に顔をうずめてしがみついたままだった。マズいわ、中学の時の恋愛を思い出したの?ダメよっ、お嬢。


「どうした小清水?私の胸が気持ちいいか?」


 事情を知らない先生は、優しい目をしてお嬢の頭を撫でた。


「いいえ、固いです」


 けっ、という表情をしてお嬢は先生から離れた。


「な、固いだと、胸の表現に使う形容詞じゃ無いぞ。か、固い?…固いって…」


 ショックを隠さない先生。大きくはないけど貧乳でも無いんだけどなあ、そんなに固いの?


 お嬢は未だに、けっ、という表情をしている。ブラックお嬢だわ。


「さ、さて、即興寸劇はここまでだ。最後の小清水のアドリブには参ったけどな」


 真知子先生はコホンと咳払いをして続けた。


「ゲリラライブとは言うものの計画を立てないといけない。出没する時間と場所だな。特に場所はそれなりのスペースと逃げるときの経路を考えとかなきゃならん。それと誰かに見張りを頼めたら良いんだが、それは口の堅いやつじゃないとダメだ。練習をしつつ計画の策定を進めてくれ。計画はこの北高祭活動申請書に書き込んどいてくれ」


 申請書には顧問と生徒会と実行委員会が印を押す枠が有った。


「せめて私だけは印を押させてくれよ」


 そう言って先生は颯爽さっそうと職員室に戻って行った。


「真知子先生って格好良いよね」


 あたしがつぶやくとお嬢が言った。


れします。胸が固いけど」


 そんなに固いの?


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