第66話 虹

 昔、同じ場所で同じような天気の日に千歳に会っていた。これって単なる偶然…?ぞわわっと背筋が寒くなる。

 あたしとまどろみさんと2人だけの出来事だったら、まだ偶然って言えるけど…例えばもし、お嬢もここで雨の日に千歳に出会っていたら、それでも偶然って言えるのかな。


 まどろみさんの同好会に集まった女子がそれぞれ、ある雨の日に千歳と出会っていた。なんて、考えただけで怖い。


 強い風が吹いた。東屋あずまやの下を雨粒が通り過ぎる。


 こういう時って、植え込みの中から急にネコが飛び出してきて悲鳴を上げるってシチュエーションを漫画でよく見かけるけど…あたしは周囲の植え込みを見る。うん大丈夫、こんな雨の日には、きっとネコも大人しく雨宿りしてるはず。


 まさか雨宿りをしに千歳が現れたり…まさかね。



 ドーンッ



 閃光と共に近くに雷が落ちた。


 あたしは悲鳴を上げてしゃがみ込み、まどろみさんの脚にしがみついていた。美人な上に脚も綺麗だ、怖いのに不思議と冷静に目の前の脚をじっと眺めていた…ずっと。だってあたしは腰が抜けたから。


「美咲、大丈夫か?」


 我に返ったまどろみさんが声をかけてくれた。

 まどろみさんを落ち着かせようとしていたのに…立場が逆転だ。


「ちょっと待ってね…腰が抜けて立てないの」

「とつぜんで私もびっくりしたよ」

「せめて光って数秒あれば身構えられたのに」

「がくがく足が震えてる、怖かった」

「いきなりだもんね~」

「たてるか?」


 まどろみさんは手を引っ張り上げてくれた。あたしはなんとか立ち上がりすぐに東屋の下のベンチに座った。


「あたしも、ここで千歳に会ったことがあるよ」

「うん…私は確実に千歳と亮に会っている。相合い傘の2人に…でもそれは微妙な距離感だった」

「でも昔の話だから大丈夫だよ、ね、まどろみさん」

「うん…でもその姿を思いだすと、どうしようもなく苦しくなる」


 あたしはどう言って良いのかわからない。だから今度はまどろみさんをギュッと抱きしめて頭を撫でてあげた。まどろみさんは耳元でつぶやいた。


「美咲が見た千歳は、どんな子だった?」

「小さな女の子だった」

「たぶん同じ子だな…」

「だね、でも昔の事だし、きっともう気にしなくて良いんだよ。今を大事にしないとダメだよ」


 雨が上がり雲が切れてきた。


「まどろみさんって脚も綺麗だね」

「ななな、何をいきなり」


 顔を真っ赤にして慌てるまどろみさん。だんだんいつものようになってきた。


 そうだ、今度お嬢に聞いてみよう。昔、小さな公園の小さな東屋で千歳に会ったことが無いかを。

 もし会っていたら、これはもう偶然なんかじゃ無い。


 東屋を出ると虹が出ていた。

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