紅井幻 詩集

紅井幻

地上に縛りつける荷物

十代の後半から、不要な荷物を持たずに生きていこうと決めた。

荷物に縛られ、思った時に空に飛んで行けなくなると思ったからだ。

それは人間関係にも言える事で、とにかくトカゲの尻尾のように交友関係を切りまくった。

あらゆる意味で身軽でいたかった。

いつでも死ねるように、いつでも捨てられるものしか持っていなかった。


先週俺は意中の娘にフラれ、

その日の内に自殺を図った。

が、死ねなかった。

不思議なもので、いつの間に随分多くの荷物を蓄えていたようだった。

そうしてそれは荷物などというよりも、

財産と呼ぶに相応しい代物だった。

生きていればきっとそういう、かけがえのない値打ちのある財産を一つか二つは手に入れられるものだ。

それを心の額縁に飾って、酒でも飲みながらゆったり眺めて生きていけばいいのだ。

せっかく生まれたんだから、そんなに急ぐもんじゃないよ。

砂になる前に、やる事はやったのか?

あんまり急ぐと損をするぞ。

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