第22話 パレードの後に

 未来の国王夫妻であるシオンとエステルの顔見せパレードが終わった日の晩。

 ターコイズ王国城の食堂で。

 エステルは実の兄であるクリフォード、婚約者のシオン、そしてその妹であり、自分にとっても妹のように可愛がっているイリナと一緒に夕食を楽しんでいた。


「今日のパレードは大成功だったみたいだな」


 クリフォードが向かいに並んで座るシオンとエステルを見て言う。


「ああ。エステルのおかげだな」


 シオンはふふんと笑って、隣に座るエステルを見る。


「え、ええ? 普通に考えて、シオンさんが民から愛されている証拠だと思いますが」


 不意に持ち上げられ、瞠目するエステル。手にしていたナイフとフォークの動きを止めると、目を泳がせて語った。


「まあ、お兄ちゃんも民衆からの人気は高いけど、エステル姉さんがいなきゃあそこまで盛り上がらないよ。二人の相乗効果ってところじゃない? じゃなきゃあの盛り上がりは説明できないよ」


 イリナが自分のことみたいに嬉しそうに、シオンとエステル双方を持ち上げる。

 実際、パレードは大成功だった。大通りどころか路地まで人が溢れかえっていたと警備の兵達から報告も上がってきている。


「だな。二人が結婚すればターコイズ王国の未来は安泰。民衆からはそういうふうに思われているんじゃないか? 強行日程だったけど、わざわざヴァーミリオンから足を運んだ甲斐があったみたいで何よりだ」


 そう言って、クリフォードは口許をほころばせた。すると――、


「二人とも、本当に明日には帰っちゃうのか?」


 シオンが不満そうに顔を曇らせて尋ねる。


「うちの国でも大事な行事があるからな」

「でも、日程に余裕は持たせているんだろ?」

「その余裕は不測の事態が起きた時に備えてのものだ。もし何か起きて期日までに帰れないと親父に怒られる」


 クリフォードは困り顔で肩をすくめた。


「はは、剣聖と呼ばれるようになったクリフォードもお父上には頭が上がらないか」


 シオンが愉快そうにクリフォードをからかうが――、


「そういうお兄ちゃんもお父様には頭が上がらないじゃない」


 イリナがふふっと笑って、すかさず指摘する。


「お、おい。イリナ……」


 シオンは二の句が継げずにいる。


「どうやらお互い父には頭が上がらないようだな」


 今度はクリフォードが愉快そうに笑う番だ。


「……だな。ったく」


 シオンは困り顔で同意する。少し苦々しくも見えた。


「まあ、早く帰る分、早く前入りしたんだ。今回はそれで我慢してくれ。結婚したら毎日一緒にいられるようになるんだしな」

「わかったよ……」


 クリフォードに言われ、渋々頷くシオン。だが――、


「というわけで、いつも通り二人を見送るためにうちの国からも護送の部隊を送ることになっているから。今回、見送りに同行するのは私。お兄ちゃんは留守番だよ」

「はあ? 聞いていないぞ!?」


 シオンはいてもたってもいられず立ち上がる。


「当然よ。今日、パレードの間にお父様が私にご命令なさったんだもの」

「う、父上が? ……そうか」


 イリナが父親の存在を持ち出すと、シオンはあっさりと引き下がった。


「シオンは本当にお父上に頭が上がらないんだな」


 クリフォードはそんなシオンの姿を物珍しそうに見て、くつくつと笑いを滲ませる。


「う、うるさいな」


 バツが悪そうに顔を赤くするシオンだった。

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