第41話 気合入れて調査します
小屋を出て屋敷に戻った後は、使用人達が寝泊まりする区画へ向かう。
そしてこの間の出来事で罰を言い渡した人間、使用人の一人を説得。使用人服をもらい、それに着替えた。
男物だったが、贅沢は言えない。屋敷にそのままの姿で入れば一目見て私と分かってしまうので、我慢した。
そうして変装した後は、できるだけ目立たないように屋敷の中をこっそりと移動する。
私がこれまで事故にあった場所、それぞれの現場にいた者達に話を聞きにいきつつ(もちろん口止めするのも忘れず)、猫の影や猫の毛が落ちていたという証拠を集めていった。
それを、数人と、十数人と繰り返していけば十分な証拠が集まったのだが……その頃になると、さすがにトールにばれてしまった。
適当な頃合いを見計らって、私は今は清掃済みの物置へ向かう事にした。
そこなら、誰にも聞かれずに話をする事が出来るからだ。
彼はやはり、ついてきた。
室内で向かい合ったトール。
彼の姿を、物置の小さな窓からもれてきた陽の明りが、わずかに照らしている。
薄暗い部屋の中で見る彼の顔は、疲れている様にも、何かを恐れている様にも見えた。
あるいはその両方なのか。
「お嬢様、出てしまったのですね」
「ええ、あんな所で大人しくしていられる私じゃないもの」
「貴方という人は、ここの者に狙われている事が分からないんですか?」
「分からないわね」
怒った顔でこちらに近づいてくるトールに、使用人の一人が採取した猫の毛の一部を見せつける。
「貴方が探してる犯人なんてこの屋敷にはいないわ。全部屋敷に住み着いている黒猫の仕業よ」
「猫はそんな手の込んだ事できませんよ」
「できるわよ。状況が証明しているわ」
だがトールは、人間が犯人だという事を思い込んでいるようで、なかなか納得しようとしない。
彼は慎重な性格で、そしてかなりの心配性だ。
普段は常識という存在がブレーキをかけているが、今はそうではない。
百パーセントの証拠がない限り、私の監禁を止めようとはしないだろう。
やはり、こちらの方面からでは説得できない。
それだけ私の事を心配してくれるのは嬉しいのだが、そのままではお互いが不幸になるだけだった。
私は、一歩彼に近づく。
トールは僅かに身を引いたが、下がらなかった。
「トール、貴方にとってこの屋敷の人達は何かしら」
「家族ですよ、そう思ってました」
「今でもそうよ。貴方にとって、そう」
「嘘です。信じられません。私の大事なお嬢様を傷つけよとするなんて」
「じゃあ、そういう私の事も家族だって思ってくれない? 信じてくれないの?」
「……それは、それとは別です」
トールは否定しなかったが、肯定もしない。
彼は私の視線から逃れる様に俯いた。
「そもそも私はお嬢様の使用人です、家族にはなれませんから。その枠を超えるというのなら、家族ではなくもっと別の……」
言いかけて、トールははっとする。
そして、ゆっくりと頭を振った。
それは良くない兆候だ。
あまり追い詰めすぎると、彼が吸血鬼としての力を使ってしまう。
そうじゃなかったとしても、あの小屋に連れ戻されてずっと監禁され続ける事になるだろう。
先程のような……比較的自由があった状態ではなく、完全に身動き出来ないようにされて。
よく親しんだ相手にそんな事をされるのを想像するとぞっとする。
逆にだから、今まで彼の内面に踏み込めなかったのだが。
私はトールの気をそらす為に話題を変える事にした。
「トール……彼らが私を狙っているにしても。そもそも、動機がないじゃない」
私がゲームそのままの悪役キャラで、嫌な人間だったらともかくとして。
アリシャという人間は、これまでの人生で人に顔を向けられない事はしてこなかったつもりだ。
それは屋敷の人間達も分かっている。
彼等を傍で見てきたトールも分かっているはずなのだ。
けれど、どうしても最後の一押しが足りない。
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