第11話 ウルベス・ジディアラーツ



 私には婚約者がいる。

 だから最近、騎士の仕事に余裕が出たので、顔を合わせる機会を作ったのだ。


 騎士団長であるイシュタル殿に「妹の様子を見てきてくれないか? お前はアリシャの婚約者だろう。こちらは休暇を取れるかどうか分からないからな」と頼まれたのも大きい。


 そんな経緯があって今日、休暇を申請して将来を約束した女性へと会いにいった。


 婚約者の名前は、アリシャ・ウナトゥーラ。

 そこそこの名を持つ貴族の娘で、騎士団長の妹である。


 婚約者というものは、愛を語らい、将来を共にする者の事を言うのだろう。

 だが、私はその婚約者に対して特段強い思い入れは無かった。

 愛情を抱いているかと問われれば間違いなく首をかしげるだろうし、将来を共にする相手が必ずその人でなければならないか……と問われれば首を横に振るだろう。


 幼少期の頃に会った些細な事が影響してか、私は人と距離を置きがちとなり、誰かを好くという感情をすっかり鈍くしてしまっている。


 だがら当初彼女とは、人として失礼のないように接するのみで、特別に親しくしようとは思っていなかった。


 だが、時を経るごとに私の感情はほんの少しずつ変化していった。


 きっかけは周囲の人間にハーフエルフである事を話の種にされ、嫌みを言われた時だった。


『ハーフエルフが人間にまざって……』

『あの顔、何考えてるか分からないわね。やっぱり種族が種族だから』

『エルフもハーフエルフも不気味な存在よね』


 誰もが知っている事だろうが、エルフ達はそのほとんどが閉鎖的な環境で暮らし、滅多に人の前に姿を表さない。


 私の父は少数派だったようだが、世間の人間からすればそんな父ですらもただのエルフでひとくくりに考えられてしまうのだ。


 外から見る彼等には私達の事は不気味に映ってしまうらしい。

 感情を表に出さない事の多いエルフ達。

 自分達の知らない場所で、生活している者達。

 何を考えているのか分らかないという思いが、彼等をそう考えせてしまっているのだ。


 だが、アリシャは違った。

 私個人を見て、接してくれたのだ。


『ウルべス様はウルべス様でしょう? 他の誰でもありませんわ。だから他の誰かにあてた悪口なんて気にする必要はありません。ああ、でも……その誰かが友だちだと言うのなら、その時は一緒に怒ってさしあげますけども』


 今は、以前よりも彼女の事を好ましく思っているつもりだ。あくまでも恋愛感情のそれではなく、人として……だろうが。


 そんな彼女から、今回の訪問の最後にデートを申し込まれてそれを了承するくらいには、嫌いではなくなった。


 ほんの少しだが、病み上がりの彼女が待ち遠しく思う、退屈な静養あけの遠出を、二人共に計画したりもした。

 良い褒美となるよう、精一杯彼女の相手を務めらられるようにしなければならない。


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