第47話。救出作戦、始動
「どうして盗み聞きなんてしていたんですか?」
「エミルさんが女子の部屋に入るのを丁度見かけてしまったのです。それで気になってしまって」
見られていたのか。それは俺にも非があるな。そんな場面見たら俺でも気になるし。
「そうでしたか。それで……手伝ってくれるとは?」
「私の結界は音を遮断できるのです。使い方によっては内からの音も外からの音も弾きますわ。ですから、幻覚魔法で姿を消し、結界で音を消せば救出可能でしょう」
なるほど、そんな効果があるのか。
だが、駅前で親衛隊と一悶着あった時サラシャが使った結界は、間違いなく空間に固定されていた。親衛隊が動かそうとして、ビクともしていなかったし。
「発動したまま移動できますか? 俺を助けてくれた時は空間に固定されていたみたいですが」
「使う時に少々手を加えれば可能ですわ」
それなら脱出できるだろうし、捜索も気配察知でなんとかなるだろう。
「じゃあ問題ないわね。早速救出にいくわよ!」
「あ、ちょっと待ってルーシィ」
サラシャの返答を聞いたルーシィが、張り切ってドアから出ようとしたので慌ててとめる。俺たちは今遠足中で、本来は自由に動けない。動くならそれ相応の誤魔化しが必要だ。
ベッドに幻覚魔法をかけ、ルーシィが既に寝ているように見せかける。
「サラシャさんと俺のベッドにも同じことをします。部屋まで案内してくれますか」
「こちらですわ」
ルーシィの部屋から3つ隣がサラシャの部屋だった。幸い同室のアリスはもう寝ていたので問題なく幻覚魔法をかけ、今度は俺の部屋へ。こちらも無事に済ませ、準備が整ったので行動を開始する。
俺とルーシィは窓から勢い良く飛び降りたが、サラシャは翼を使ってふわりと舞い降りた。
ここからは俺たちの姿をあまり見られない方がいい。幻覚魔法で姿を消すのだが、応用で3人だけはお互いを視認できるように調整する。
「道路はまだ人がいるし……屋根でも走る?」
「賛成ね。今の状態で普通に道を走ったら、気をつけていても危険だわ。足音は多少出るでしょうけどできる限り抑えるわよ」
「私は飛んで付いていきますわ」
決まりだな。軽く身体強化をかけて近くの屋根に飛び上がって城を確認し、その方向に走り出す。
夏休み前の7月。少し蒸し暑い気候の中そこそこスピードを出しているので、頬を撫でていく夜風が心地よい。そのまま3、4分走っただろうか? 城を囲うように水が流れるお堀に到着した。
お堀の幅は約20mで、城が建てられている土地が少し高くなっている。今の身体強化状態だとジャンプして届かない距離。しかし、これ以上強化して飛ぶと地面が陥没してしまうので音が出る。そうしたらお堀の側に立っている警備兵に気づかれるだろう。
ちょっと考えて、1つ方法を閃いた。
「サラシャさん、地面に高硬度の結界を貼れますか?」
「できますわ」
サラシャが地面に向けてサッと腕をひと振りすると、薄い長方形の結界が瞬時に現れた。軽く叩いてみたが、かなり丈夫そうだ。
「大丈夫そうですね。俺から跳ぶから、その後ルーシィは真似して跳んできて。サラシャさんはその後、普通に翼で飛んできてください」
「おーけーよ!」
「わかりましたわ」
結界から少し離れて助走する。この時はまだ軽めの身体強化だ。結界に足が付いた瞬間だけ強めの身体強化を発動して、思いっきり踏み切って跳躍。
警備兵の頭上を通り過ぎ、幅が広いお堀も軽々と飛び越えて城の土地にスタッと着地した。
後ろを振り返って大きく手を振り、50m程離れたルーシィ達に合図を送る。警備兵が居ないならもう少し近くから跳びたかったが、それ以上近いと流石に気づかれるので仕方ない。
人間ならまだしも、警備兵は獣人。狐のように耳が良い一族もいるので注意が必要だ。
ルーシィが助走をつけ、こちらに跳んでくるまでは良かったのだが……。
「きゃ!」
「おっと……大丈夫?」
「だっ、大丈夫よ! あり、ありがと」
「どういたしまして」
着地で失敗して転びそうになったルーシィの体を、咄嗟に支えた俺。ルーシィの顔が一瞬で赤くなるが、俺も似たようなものだ。言葉上は平然を装っているけど、夏服の為腕や足の露出が多い状態でこの状況は気恥しい。
2人して会話ができなくて黙りこくっていると、今度はサラシャが飛んできた。彼女は着地する瞬間に一度大きく羽ばたいて緩やかに地へと足をつけた。
「よし、まずは第一関門突破だね。次は俺の出番か」
集中できるように目を閉じて、気配察知の範囲を広げる。先に探すのは貴族院の人達。固まっているのか、それぞれバラバラなのかもわからないから慎重に探っていく。
1階……居ない。2階……居ない。3階……居ない。4階…………居た! たぶんこれだ。
大きな部屋に30人ほどの固まった気配があり、部屋の入り口に4人の気配がある。その他に気になる気配は無いのでほぼ確定だろう。
次に、城の地下に居ると聞いているハーフエルフを探す。こちらはすぐに見つかった。地下牢らしき空間にまとめて100人居て、それぞれから高い魔力反応が伝わってくる。
「見つけたよ。ハーフエルフの人達は地下牢に。貴族院の人達は4階の大部屋だ」
「了解よ。そこなら案内できるわ。行きましょ!」
「頼むよ」
「参りましょう」
王女だったルーシィは城の内部構造について流石に詳しい。道案内は彼女に任せることにしよう。俺は幻覚魔法の維持と巡回兵を気配察知で見つけることに専念し、サラシャは遮音結界を貼った。
ここまでは序盤。作戦の本番はこれからだ。深呼吸して気持ちを落ち着かせ、俺達3人は揃って城内に潜入した。
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