コミュ障吸血鬼、困惑する


「……ムリ、キモい……」


 そんな言葉が、僕の口から溢れた。

 アンナの言葉を聞いた瞬間には言ってしまっていたから、脊髄反射だったんだと思う。

 アンナはというと……


「誰になんと言われようと、この手は洗わないわ! ティアナの頭を撫でた証だもの!」


 そんなことを豪語した。


「洗わなくても必然的に他の物を触ることになるんだから、意味ないわよ……」

「それでもよ!」

「だったら洗っても同じじゃない……」


 呆れた様子でつぶやくルル。

 でも、ルルの言う通りだ。

 他の物を触ってもいいのなら、洗っても差したる違いはないんだから洗ってほしい。

 洗わずにいた手で今後触られることを考えると、なおさら。


「……二度と、近寄らないで……」


 アンナから遠ざかりながら言う。

 すると……


「洗う! 洗います! だから遠ざからないで!」


 誰になんと言われようと云々、と豪語していたはずのアンナから“焼いた煎餅をひっくり返すのと同じぐらいの軽さ”で手のひらを返した言葉が返ってきた。


『はぁ……』


 ため息をつくと、ルルも同じタイミングでため息をついていた。

 思えば、ため息の下り、何回すればいいんだろう?

 でも僕だって、したくてしてる訳じゃない。

 アンナがため息をつくような言動をやめないのがいけない。

 だから、仕方がないんだ。

 そう、仕方がないんだ。


「ティアナ、ダメよ。ため息ばかりついてると、幸せが逃げるんだから」


 子どもを諭すような言い方でそう言ってきた。

 ところが、僕が反応を示すより先に、ルルが反応した。


「それをあなたが言うの?」

「例え原因が私だろうと、ティアナの幸せが逃げないように心配するぐらい良いでしょ!?」


 僕を抱き締めながら反論するアンナ。

 というか……


「自覚あったの!?」


 ルルが代弁してくれた。

 そう。その通り。

 自覚があるんだったら、ため息をつかせない努力をしてほしい。

 この世界に転してからのため息の90%以上は、アンナが原因なんだから。


「それくらいあるわよ! だからこそ、ティアナの幸せを私が守るのよ!」


 心外だとばかりに反論するアンナ。

 そう思うならやっぱり努力をしてほしい。

 と思った矢先、


「まず、ため息をつかせないことを考えたらどう?」


 ルルがそう言ってくれたため、その通りという気持ちを込めて頷く。


「うっ……そうよね……。でも、ティアナのかわいさがこうさせてしまうの。仕方ないことなのよ……」


 そんなことあるわけ……


「それはわかるけれど」


 あるの!?

 思わぬ同意に、ルルを凝視する。


「そこを我慢できてこそ、保護者なんじゃないの?」

「……まさか、あなたに諭されることになるなんてね」


 真顔で見つめ合う二人。

 そしてなぜか握手を交わす。

 えっと……何を見せられてるの?

 まぁ、仲良くなったなら良いか。


 ……良いよね?


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