アンナ・クロンツェル 2


 ティアナを見送った私は、今回の事の発端である吸血鬼の方に向き直る。


「……さて、どう落とし前をつけてもらおうかしら」


 壁にめり込んでいる吸血鬼に向かって言う。

 すると、吸血鬼が壁を破壊して出てきた。

 さすが吸血鬼だけあってパワーあるわね。


「ず、図に乗らないでよ、人間風情が……! たかが分身に勝った程度で、本体の私に勝てると思わないでよね!」


 壁から出てきた吸血鬼が威勢よく言った。

 それ、分身も言っていたのだけど……。


「ふうん? それにしては、体が震えてるみたいだけど?」


 一目で震えているのがわかるほど、吸血鬼の体は震えている。

 見た目と同じで、中身も幼いのかしら?


「ち、違うわよ! これは……そうっ、武者震い、武者震いよ! 決してあなたに怯えているわけじゃないわ! これからあなたをボコボコにできるのだから!」

「そう……だったら、かかってきなさい。宣言通り、灰も残さず殺してあげる」


 私が剣を構えながらそう言うと、吸血鬼は一瞬怯んだ。


「どうしたの? かかってこないの?」

「う、うるさい! これでも喰らいなさい!」


 そう言って吸血鬼は電撃を飛ばしてきた。

 私が炎の塊を斬ったことから、速さで勝負をしようという魂胆なのだろうけれど、生憎と私は、騎士は騎士でも邪神を倒した騎士だ。

 雷撃一発程度で負けるなら、邪神は倒せていない。

 飛んできた雷撃に向かって手のひらを向け、魔法を発動させる。

 私の手のひらから魔法陣が浮かび、雷撃が魔法陣に当たると、雷撃は魔法陣に吸い込まれ、次の瞬間には雷撃が魔法陣から飛び出し吸血鬼に向かって飛んでいく。


「ちょっ、なによそ……アバババババババババババ……ッ!!!?」


 何か言いかけた吸血鬼に雷撃が直撃し、吸血鬼が悲鳴(?)をあげる。

 言葉より先に体を動かすべきだったわね……。


「な、なによ、その魔法!!」


 地べたに這いつくばって黒焦げになった吸血鬼が聞いてきた。

 さすが吸血鬼、雷撃一発程度じゃ死なないわね。

 一発で終わらせたら私の気が収まらないから手加減したのもあるけれど……。


「カウンター魔法よ。まぁ、相手の魔力に私の魔力も上乗せされるから実質2倍の威力になってるけれどね」


 けどこの魔法、簡単なように見えて結構リスクが高いのよね……。

 相手の攻撃に使われた魔力と同じ量の魔力を自動的に持ってかれるから、魔力量が極端に少ない人や魔力を使って少なくなってる時にやると、暴発する上に激しい頭痛や目眩,吐き気を催す魔力欠乏症が発症してしまう。

 私は、魔力量が多い方ではないけれど、スキルによって魔力の回復量が桁違いに多いため、邪神の魔法による攻撃に使ってもなんともなかった。

 それはもう使ったそばから全回復するぐらいだから、どんなに多く使っても最終的に全回復する。


「敵を前にして考え事だなんて、随分とよゆ……へぶっ!?」

「あ、ごめんなさい、後ろから急に耳元で囁かれたからつい裏拳が……」


 そう言いながら振り向けば、鼻血が出たのか片手で鼻を覆い、地面に尻餅をついた吸血鬼がいた。


「お、乙女の顔になにするのよ!」

「乙女? この世で最も乙女に相応しいのはティアナよ? あなたみたいな見た目だけ可愛いぶりっ子ちゃんと違って、ティアナは内から滲み出る可愛さ、儚げで保護欲をそそられるか弱さ、何者にも汚されていない純潔さ、諸々を兼ね備えた超絶美少女なのよ? ティアナが乙女じゃなかったらなんだって言うのよ。あなたみたいな顔だけ良い性格ブスが乙女? 笑わせないで。そもそも……」

「も、もうわかったから! 乙女って言った私が悪かったから! もうやめて!」


 まだ語り足りないのに……。

 そう思いつつも、物凄く顔を近づけていた半泣き顔の吸血鬼から離れた。

 その次の瞬間、吸血鬼が驚いた顔をした。


「……えっ? なにこれ……あの人間達との契約が切れた……? しかも人間に戻った……? いったいどういうことなの?」


 困惑している傍らで、私は何が起きたのか理解していた。



 ――ティアナがスキル【】を発動させたのだな……



 と。


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