コミュ障吸血鬼、幼女吸血鬼に出会う


 元北村の人達に連れられて来たのは、まさかの〝不死者アンデッドの洞窟〟と呼ばれている、僕が転生して目覚めたあの洞窟だった。

 洞窟に入ってどのくらいの時間が経ったのかわからないくらいに歩いた先に、開けた場所があった。


「連れてきました」


 先頭の人が開けた場所の奥に向かってそう言ったので、気になって奥の方を見る。

 そこには、僕と同じくらいかもう少し下くらいの見た目をした女の子――ハッキリ言えば〝幼女〟がいた。

 察するに、あの子が〝リオナの村を襲った吸血鬼〟なんだろう。

 いや、正確には〝リオナを襲おうとした吸血鬼〟って言った方が正しいか。


「ご苦労様。下がっていいわよ」


 吸血鬼がそう言っても、元北村の人達は下がらなかった。


「なにしてるの? 早く下がりなさいよ」

「……」

「下がりなさい! それと、入り口で誰も入ってこないように見張ってなさい!」


 強めに言った途端、元北村の人達の体が勝手に動き始めて入り口に向かって歩き始めた。

 これはあれだ、主従の契約を結ばされてるから逆らえないんだ。

 元北村の人達が悔しそうな顔をしていたから、そういうことなんだろう。

 そして、元北村の人達がいなくなると、吸血鬼が僕の傍までやってきた。


「初めまして、可愛いご同輩吸血鬼さん。名前を教えてくれるかしら」


 と、聞かれたけど、教える義理はないので首を横に振って拒否する。


「あら、つれないわね……じゃあ、お、し、え、て、くれないかしら?」


 なにやら目を光らせて凄まれた気がするけど、教えたくないのでまた首を横に振って拒否する。


「な……ッ!? 私のスキルが通用しないなんて……!」


 僕が首を横に振ったことが信じられないとばかりに驚く吸血鬼。

 えっ、というか今の、スキルだったの?

 ただ目を光らせて怖く見せようとしただけかと思ったんだけど……。


「じ、じゃあ、これならどうかしら。――ねぇ、名前、教えてよぉ?」


 今度は、見た目の年相応な感じでおねだりされた。

 まぁ、可愛いと言えば可愛いんだけど、教えるか教えないかはまた別の問題だ。

 とにかく、教える気はないので、またまた首を横に振って拒否する。


「はぁ!? これでもダメなわけ!? あなた化け物なの!?」


 いや、同じ吸血鬼に言われたくないんだけど?

 というか、今のもスキルだったんだろうか?

 甘ったるい感じで、完全にぶりっ子に振る舞ってるようにしか見えなかったけど……。

 まぁ、見た目可愛いんだけどね?

 全く、これっぽっちも、心が揺らがなかった。


「ねぇ、どうしたら教えてくれるの? 教えてよ、教えなさいよぉ!」


 そう言って僕の両肩をガシッと掴んで前後に揺さぶってくる吸血鬼。

 首がガックンガックンして鬱陶しいと思った僕は、吸血鬼を思いっきり押した。

 押した瞬間、「あっ、これ力加減間違えた……」と気づくくらいに押す力が強かった。

 その証拠に、吸血鬼が奥の壁にクレーターを作るくらい壁にめり込んだ。

 どうやらもう夜になり始めたらしい。


「ちょっとっ! なんて馬鹿力してるのよ! お陰で抜けないじゃない! あなたのせいなんだから、助けなさいよ!」

「……やだ」

「……は? 今、なんて……?」

「い、や、だっ!」


 勢いで大きな声を出して拒否すると、吸血鬼は相当ショックを受けたのか「なんで……」と溢した。


「なんで教えてくれないのよ! ケチッ、ブスッ、チビッ、お胸ペタンコッ、コミュ障ッ、陰キャ吸血鬼ぃぃぃぃぃぃッ!」



 ――ズドォォォォォン!!!!



 今、僕の心に核爆弾が投下されたような衝撃が走った。

 もう僕の心は焼け野原だ。

 深い深い傷ができた。

 どのくらいかというと、地球でもっとも深いマリアナ海溝よりも深い。

 この事は一生……いや、永遠に忘れないだろう。

 そう思った矢先――


「誰に向かって悪口を言っているのかしら?」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。



 ――アンナ!



 そう思って振り向くと、すでに剣を抜いて持っていて、ドス黒いオーラが幻視されるくらいに不機嫌なアンナがいた。

 顔がもう、般若みたいになんだけど……。


「アン……ナ?」


 今までに見たことのない表情をしているアンナに、本当にアンナなのかという疑問が浮かぶのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る