コミュ障吸血鬼、戸惑う


「では陛下、失礼します!」


 爽やかかつ満面かつ秀麗な笑みを浮かべ、アンナは、僕の手を引いて今度こそ部屋を出た。

 女王からしたら〝ものすごく苛立つ笑顔〟をしていたんだろう、それがわかるほど、女王は悔しそうな表情で僕達を見送っていた。

 部屋を出て廊下を少し歩いたところで、不意にアンナが立ち止まって振り返った。


「そういえば、あなた、私がいない間にティアナと何してたの!? なんで女の子らしくなってるの!?」


 あぁ、やっぱり気になってたんだ、それ。


「えぇ? 言っちゃおうかなぁ? 言わないでおこうかなぁ?」


 煽るような言い方しないで?

 あと、何を言おうとしてるの?

 せめて、あの告白染みたやつに僕がYESで返したことだけは……それだけは、言わないでよ?

 そう思った矢先、アンナがとんでもないことを口にした。


「ま、まさか……私よりも先にティアナと交わって……!」

「それはない」


 即答で否定するリオナ。

 よかった、そこは常識の範囲内に収まってるんだ。

 リオナまでアンナと同じことを言い出したら、僕もう人と関わることすらできなくなりそう……。

 というか、アンナはそれしか頭にないんだろうか。

 さすがに引く。


「じゃあ、いったいなにがあったの? ねぇ、ティアナ、なにがあったの?」


 そこで僕に振ってくるの!?

 き、急に言われても……。

 えっ、どうしよう、なんて言えばいい?


「えっと……えっと……えっ……と……」


 結局出てこなくて、どう答えたらいいのかわからなくなって俯いてしまう。


「あぁ、ごめんなさい! 急に聞いた私が悪かったから、そんな絶望した顔しないで!」

「そうだよ、ティアナ。この変態が悪いんだから、気にしなくていいんだよ?」

「はぁ!? 誰が変態よ、誰が!」

「ティアナと交わることしか頭にないんだから、変態でしょ?」


 激しく同意な僕は、何度も頷いた。


「ティアナまで!?」


 ……あれ? なんか、このやり取り、少し前にもしたような?

 どことなく既視感デジャヴな感じが……。


「なんでよ……女の子同士がイチャつくのは普通だって陛下が……」

「それ、前も聞いたから」


 リオナがすかさずツッコミを入れた。

 そうだよね。やっぱり2回目だよね、このやり取り。

 そして、リオナにツッコミを入れられたアンナは、動揺したことを取り繕うかのように口を開いた。


「ま、まぁ、いいわ。私の仕事姿を見れば、変態だと思ってたこと、後悔すること間違いなしだから、覚悟してなさい!」

「それ、自分で言ったら意味ないでしょ……」


 リオナの言う通りだよ。

 自分で言っちゃったらハードル上がっちゃうんだから。

 そんなやり取りもありつつ、アンナの仕事場へと向かったのだった。

 それにしても、アンナが〝リオナが女の子らしくなった件について〟を忘れてくれてよかった。

 あのままだと、絶対に僕がリオナから受けた告白染みたやつにYESで返答したことがバレたからね。


 ◆


「ここが私の仕事場よ」


 そう言って見せられたのは、騎士になった人達が住むことになっている〝宿舎〟と呼ばれる建物だった。

 宿舎に書類仕事ができる部屋があって、そこでアンナは書類仕事をしたり、宿舎の前にある訓練場で他の騎士の剣の訓練をしたりしているらしい。

 アンナ曰く、今日は新しく騎士になった人達の初訓練の日だそうだ。

 で、僕達にはその訓練を見ててほしいと言ってきた。

 アンナが戦うところを見るのはこれが初めてだから、少し楽しみ。


「ティアナ、あそこに日陰になってるところがあるから、そこで見よ?」


 リオナがそう言ってきたので、リオナが見つけた日陰でアンナの仕事ぶりを見ることにする。

 その日陰は、宿舎と訓練所の間を通っている道に生えている大きな木にできたもので、木漏れ日が入らないほど、その木は生い茂っていた。

 これなら多少は怠さが緩和されるかなと思いながら、大きな木の下に座った。

 木の下は、ちょうど訓練場が見渡せるぐらい絶好の観戦場所。

 ここからなら、アンナが訓練場のどこにいても見ることができる。



 ――はずだ。普通の人なら。



 やっぱり吸血鬼である僕には外の日射しは眩しくて、日陰の中のものならバッチリなんだけど、日向に目を向けると残念ながらそんなにハッキリとは見えない。

 よく考えれば、アンナは騎士なんだから、室内での仕事が少ないことくらいわかったはずなのに……。

 どうしよう?

 これで「どうだった? 私の仕事姿? カッコよかった?」とか聞かれたら、どうやって答えたらいいかわからない。

 何か、アンナの仕事姿を見る良い方法はないだろうか。

 サングラス? いや、この世界にあるかもわからないし、探しているうちにアンナの仕事が終わってしまうかもしれない。

 それに、よく考えたら今の僕は背丈からして幼女(?)っぽいし、サングラスしたら背伸びした子どもみたくなる気がするからやめておこう。

 でも、サングラスがあれば目の色で吸血鬼だとバレることは無くなる。

 うん、やっぱりサングラスがほしい。

 ……って、そうじゃない。

 今は、どうやってアンナの仕事姿を見るかを考えてるんだから、〝欲しい物で悩んだ結果〟みたいなそういうことを考えてる場合じゃない。

 あぁ、どうしよう。

 こんなとことしてるうちに、訓練始まっちゃったっぽい。


 ――本当に、どうすれば良い?


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