第14話 鈍感系主人公は初恋少女の顔を見ない。 第2部
第14話 鈍感系主人公は初恋少女の顔を見ない。 第2部
スーツを着た店員さんは麗華と俺を恭しく席に案内する。案内された窓際の席に麗華が座ると同時に何かを伝える。すると店員さんが「こいつ出来るな」みたいな顔をして麗華を見て、メニューを持っていってしまった。
「え?メニュー持ってかれたらどうやって注文すんだよ。」
「馬鹿ね。こう言うのは注文はしないで、オススメを頼むのよ。」
「へー。凄えなあ。住む世界が違うや。」
「覚えときなさいよ。そ、その将来使うかも知れないから。」
「なんでだよ。」
「も、もしかしたら私と結婚したりするかもしんないでしょ。」
麗華は顔を赤くし恥ずかしそうに下を向く。
「そんな風になれたら良いよな。」
「なれたらじゃなくて、あなたはなるのよ。」
俺の表情が急に変わったのを見たのか、麗華が警戒したように辺りをみる。
「どうしたの?」
「いや、喧嘩なのかな。」
席を立つ。そうして、ガシャガシャンと凄まじい音が聞こえると同時に俺は目的の場所に着いた。
割れた食器やグラスは辺りに散乱している。紫色の液体がそれらを濡らすようにこぼれ落ちていて、そこにはそれの原因を作ったであろう逆上した男と、俺らのよく知っている女の子がいた。
「ふざけるなよ。僕の会社の業績が少し落ちたから別れてほしいだと?」
逆上する男に詰め寄られていたのは学校で「微笑みの天使様」と呼ばれていた西園寺さんだった。でも、笑顔のかけらすらない冷たい表情で立っている姿は学校でそんな風に言われていることを感じさせなかった。
「はい。そうです。」
「高校生のお前に色々と合わせて付き合ってやってたのになんなんだよ。その態度は。」
激情する男は駆け寄ってきた店員さんに押さえつけられようとするが、それでも止まる気配が見えない。でも、そんな激情する男をつまらないような物を見るような冷めた表情で見ている西園寺さんは少し狂気的だった。
いよいよ店員さん達が男を抑えきれなくなってきた。そして、俺は隣の麗華を見る。麗華は面倒臭そうに男を見ると、溜息をついて言った。
「3秒で片付けなさい。」
「了解。」
西園寺さんを背中に入れて、三人ほどの店員さんを吹き飛ばした男に相対する。
「どけよ。僕は武術をやっているんだ。素人なんかが敵うわけないだろ!」
怒気を含んだ言葉を吐いて、駆けてきた男は何かしらの構えをとる。本当に武術をやっているのかも知れない。まあ、そんなことは関係ないが。
男は様子を見るように軽くジャブを放つ。でも、少し雑魚すぎた。
男のジャブを放ってきた手を掴んで、投げ上げる。3メートルぐらい飛んで壁に激突した男はガクッと崩れ落ちた。お店の中の雰囲気が急に安心したようになる。
「山田君?」
昼間と全く同じように話しかけてきた西園寺さんはいつもと同じ表情には、見えなかった。
そうして、悲壮な表情を浮かべた彼女は俺に感謝を述べる訳でもなく、申し訳なさそうな顔をして言った。
「ごめんなさい。」
俺は不思議そうな表情で麗華はイライラした表情で。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
「うん?何が。」
明らかにおかしい様子が見て取れる。オドオドしたような不甲斐ないような。だけど、うちのお姫様は何が気に入らなかったのか西園寺さんの胸ぐらを掴んで引っ張りあげた。
「あなた、まだこんなことしてるの?」
「ちょ、ちょ待てって。」
俺は慌てて麗華を西園寺さんから引き剥がす。だけど、麗華の目の色はまだ怒りの表情を貯えたままだった。
「この子は操り人形なのよ。」
「操り人形?」
問い返す俺に西園寺さんは頭を抱える。
「親に言われたことを全部聞く操り人形。壊れてしまうことなんて考えられてない。」
「だから、なんの話だよ。」
「自分で話しなさいよ。」
「うるさい。」
「え?」
「うるさい!」
西園寺さんは大きく叫んで立ち上がる。
「何もしないなら放っておいてよ!」
だけどそれに気圧されること無く麗華が言い返す。
「何もしないって、あなたは誰かに助けを求めたの?」
「うるさい。うるさい。うるさい!」
白熱している二人と事情が全くわからない俺。だけど、西園寺さんはいつものその柔らかい笑顔を人が変わったような顔に変えて叫び続ける。
「いや、マジで俺に説明してくれよ。何が起こってるんだよ。」
「私は悪くない。私は悪くない。」
西園寺さんは走り去って行った。
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