結婚

 私には元来結婚願望などはなく、一生ひとりで暮らしていくものだと思っていた。


 東京にいた頃は、休みの日など、一人ででかけるのが好きだったし、それが面白かったし、一人で過ごしている時間はとても幸せだった。ホットドッグプレスなどの雑誌には、彼女とのデートの仕方などの情報が掲載されていたが、こんなのを見れば見るほど面倒くさく思え、彼女などとは縁遠い生活を送っていた。


 しかし若気の至りで、当時流行っていたテレクラに入り浸っていたら彼女が出来てしまい、その流れで少しだけ付き合ったのだが、やはりいろいろと面倒だな、一人が楽だなと思っていた。


 そのテレクラ彼女に「屋久島に行くからよかったら来れば?」と言ったら、ついてこなかった。私の幸せのためだとか言っていたが、長い間一人で暮らして来たので、相手の気持ちなどわかるはずもなかった。


 屋久島に行って、とびうおの漁師をしながらホームページを作ったり、日記を公開したりいろいろと活動していたら、全国各地の女性からメールが来るようになった。一人で遊びに来る強者も何人かいたが、手などは出さずに適当にもてなした。私にではなく、屋久島に興味があるんだろう、私は足で使われているアッシーくんなんだろうな、と思っていた。


 こんなことが何度かあって、今のカミサンと知り合った。


 この人は屋久島が好きなわけではなく、私が取材を受けて雑誌に掲載された際、写真に小さな白いねこが写っていたからメールをした。


 私や屋久島ではなく、トリガーはねこである。


 やはり動物が好きで、私よりもねこが好きなような感じがしばらくは続いた。そのねこも17歳で死んでしまい、やがて自分も歳を取って病気がちになってしまうと、自然にその絆は強く深くなっていった。


 若い頃は一人が楽しかった、というのが嘘のように、今は毎日友達のように喋っている。先日心臓の手術で4日間入院してしまった時には、寂しかったし、そのありがたみを再確認した。


 義父や親戚周りの問題はあるかもしれないけれど、大きな一軒家に住まわせてもらっているし、東京とは違って、少し行けば自然が沢山あるし、いざとなれば東京までは新幹線で二時間と少しで行くことができるし、今では結婚してよかったと思っている。


 ちなみにご近所の様子はといえば、我が家は子供なし、お隣は未婚男性、引きこもり疑惑の方がお二人、そのお隣はバツイチの男性一人、女性一人、その子供が多数。反対側のお隣はじじいに未婚男性一人、そのお隣は結婚しない男女若者二人と愛想のない嫁と何とか家にしがみついているおばあちゃんという感じである。


 このように確率的にも結婚は難しいという現実をみると、今ではよく結婚できたものだなと思っている。


 

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