ヴァナルガン消滅
ヴァナルガンが閃光の中に消える、それはまるで超獣が突如として太陽に飲み込まれたような情景。
その輝きによって、夜だと言うのに真昼以上の明るさで地上が照らされた。
そして凄まじい衝撃波が周囲一帯をなめつくす。
「うわぁ!!」
その余波は、遠く離れたナルミにも影響を与えた。
強烈すぎる閃光と衝撃と爆音、とても目を開けてなどいられず、両耳を手でふさぐ、そして炎天下のような熱波を肌で感じた。
二体の魔人達は閃光の反射で装甲を輝かせながら強烈な爆風にさらされるが、その質量ゆえに微動だにしない。
鏃が敵対象の体を貫徹し、その体内で高エネルギーのプラズマを解放するメカニズムとなっているのだ。
それはさながら、小型戦略兵器の全破壊力を腹の中に撒き散らされるようなもの。
ヴァナルガンは超耐熱積層装甲に包まれてるために熱核兵器にも十分に耐えられるだろうが、それは表面から攻撃を受けた時の話である。
体内と言う破壊力の逃げ道のない密閉された部位で高エネルギーが炸裂しようものなら、いかに頑強な超獣でも耐えることはできなかったようだ。
「……今度こそ、やったの?」
閃光がおさまったことを感じたナルミは、ゆっくりと目を見開き、超獣がいた方へと顔を向ける。
強烈な輝きだったため、まだ視界がチカチカとしているが、巨大なキノコ雲が発生していることは視認できた。
夜景が橙色に照らされてるあたり、爆破地点の土壌が溶岩のごとく融解しているのが分かる。
(調査せねば確実なことは言えんが、あれほどのエネルギーだ。恐らく、消滅しただろう)
と、ハクラの落ち着いた様子の言葉がナルミの頭の中に響き渡った。
「……あ
そう言ってオボロは鮮血を撒き散らしながら大地から立ち上がった。
プラズマの爆発によって元いた場所から数百メートルも吹っ飛ばされ、たださえ大気圏突破の影響で重度の熱傷を負っているにも関わらず再び高温にさらされた。
裂傷、熱傷、骨折、その他諸々。
六万トン以上の巨体に踏まれ、幾度も大地に激突し、強力な赤外線で焼かれ、電磁加速砲の集中砲火を浴び、大気圏外から落下、味方側からの数十発以上のミサイル攻撃の直撃、最後には戦略兵器クラスの爆発に巻き込まれたのだ。
負傷箇所の数など数えきれない程の重傷ではある。
が、しかしそれでも死にもせず肉体は原形すらとどめているのだ。
超人のみが成せる耐久力と生命力である。
「
全身の激痛に耐えながらオボロは、立ち込めるキノコ雲を見上げた。
強敵を葬ることができたのだから、肉が裂け、血が流れ、身が砕けようとも、そんな
ヴァナルガンが四散した位置は活火山の噴火口のごとく輝いていた。
「……生命反応なし、か」
多目的揚陸艇一番艦ブリッジ内で大型スクリーンに映る、その超獣が爆散した場所を眺めながら異星人リミールは張り詰めていた緊張をといた。
ヴァナルガンが吹き飛んで数分経過しても、その周囲は今だに高温。
しばらく接近はできないだろう。
ゆえに各種センサー等を用いて奴の生死の確認をしていたのだが、その生命の反応は一切ない。
「いや、調査するまでは気は抜けんぞ」
と、彼女の背後から濁った声が。
「ハクラ司令!」
振り返ったリミールの前に佇んでいたのは、不気味なガスマスクで顔を隠す渡世人風の男であった。
「高性能だからと言って、機器の出す答えだけを確実と見ない方がいい。人の五感も取り入れて、その上で結論を出していくものだ」
ハクラは司令官にして最高の科学者、ゆえに合理的なメカニックに頼みをおきそうなものだが、以外にも生命や自然の持つ能力も重視する考え方の持ち主でもある。
「現場の熱がおさまったら、すぐ調査にあたらせよう。慎重かつ入念にな」
「了解です。すぐに現場付近で待機している三番艦に連絡をいたします」
ハクラの指示を聞いてリミールは近間のコンソールを操作し、すぐさまその指示内容を送信するのであった。
「……とは言え、奴は恐らく消しとんだだろう」
「私も、そう思います……あれだけの高エネルギーが体内で炸裂したのですから」
スクリーンを見上げながらガスマスクが囁き、それに応じるようにリミールは頷いた。
そして彼と同じように、再びスクリーンを見上げる。憎むべき最悪の敵が消滅した場所を。
しかしながら、かの怨敵が殲滅されたと言うのに彼女に安堵、歓喜、達成感のような様子はみられない。
「……どうした、リミール? 最悪の存在が葬られた、と言うのにあまり浮かんようだな」
ハクラは、それを感じ取っていた。
「……いえ、喜ばしいことは確かです。亡き同胞達の仇はとれたのですから、私怨も晴らすことができましたし……ただ実感がないと言うか」
リミールは正直な気持ちを打ち明けた。
この恒星系より数百光年離れた位置に、彼女の母星は存在している。
エレクシム、それが彼女の星の名前。そしてそこで誕生し文明を作り上げたのが彼女達、エクタスである。
高度な科学技術を持ち、強大な軍事力を有していたが、あくまでも防衛目的のためであり争いは好まない種族。
当時は繁栄の時代であった。
だが今となっては、それら全てが崩壊した。
「それにヴァナルガンを倒した……いえ、倒されたからと言って命を奪われた同胞達が蘇るわけではありませんし、私が行った罪が消えることもないですし……何より奴を倒したのは私ではありませんから」
安住と仲間の命を奪ったヴァナルガンが葬られたからと言って、別に何かが変わるわけではないのだ。
あるのは、あくまでも仇は討てたと言う結果だけだ。
……それに何も終わらない。
エクタスの科学技術があれば、文明を再興させ新たな繁栄を迎えられるかもしれない。
しかしヴァナルガン以外の超獣が再び出現する、と言う可能性だって十分にある。
今回の勝利は闘いの終わりではなく、また新たな脅威と闘わなければならない、と言う連鎖なのだ。
恨みは晴らせたが、歓喜できる心情ではなかった。
そしてリミールは大型スクリーン内にある一つのウィンドウに目をやる。
そこに映るのは疲れたように寝そべっている巨大な熊の獣人のごとき生物。
だが彼女から見て、はたして彼を生き物と認められるだろうか?
「司令官、あの方はいったい何者なのです?」
ヴァナルガンを倒すのに多く貢献した、その男を見ながらリミールは問う。
そしてハクラは静かに応じた。
「名はオボロ。ただのデカイ毛玉人にしか見えないが、規格外にして超人。……俺達が科学技術を武器とするなら、あいつは生命を武器とした存在なのかもしれんな」
「……生命?」
リミールは息を飲む。
高度な科学技術、巨大な軍事力、それら一つの惑星の文明の全力を注いでもヴァナルガンには勝てなかった、と言うのに。
そんな怪物とオボロは互角以上に渡り合い、そして倒す決定打も作ってくれた。
……何より特に注目すべきところは、オボロが素手で戦ったと言うところだろうか。
全裸で非武装、あるのは超原始的かつ超自然的な頑強な肉体と凄まじい怪力と
……生命とは何なのか?
高度の科学でも理解できない潜在力と可能性を秘めているのか?
それらを高めた者は、最先端の兵器すら凌駕するのか?
むしろ機械装置を用いてる方が原始的なのか?
……あるいは文明を築き発展し社会を作り、そうすることでしか身を守れない程に、ただ単に自分達がそれほどまでに弱いのか?
自分達は繁栄していると、かつてはそう考えていた。優良な種族だと。
……だが実際は、オボロこそ至高の存在であり、自分達は劣等な種族ではなかろうか。
エクタスは科学至上主義、それゆえの考え方であった。
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