戦士達の決意
騎士達が壊れた正門を静かに潜り抜けたのは、オボロが街に突っ込んでしばらくしてからだった。
「なんて破壊力なの……」
騎士達と一緒に街に入ったユウナは周辺を見渡した。頑丈そうな正門の一部が砕け、石畳がごっそりと抉れ、所々にクレータが形成されていた。
二十トン以上の質量を持つオボロの破壊の傷跡は凄まじいものであった。
そして、グシャグシャに捻れた魔族の死体が無数に散らばっている。
あるものは地面に叩きつけられたらしく腐った果実のように潰れ、あるものは原型が分からない程にバラバラにちぎられていた。そこから漏れだしたであろう内臓や内容物が異臭を放っている。
「……うぷっ!」
あまりに悲惨でグロテスクな状況を目にして、ユウナは吐瀉物をぶちまけそうになる。
すると、いきなり彼女の近くの地面に何かが激突した。それは、どこからか吹っ飛ばされてきたようだった。
「……うぐぅ! ……うげえぇぇぇ」
地面にぶつかった物を認識した瞬間、ついに元勇者は胃の中の物をゲボゲボと撒き散らした。
彼女の近くに吹っ飛ばされてきたものは、魔族の女だった。しかもユウナと同い年くらいの少女だと思われる。
事切れた魔族の少女の姿は、目も当てたくないほどに惨い。もの凄い圧力で胴体を押し潰されたのか、少女の体は搾りかすのように括れ、両眼球が飛び出し、口と股の間から
これほどひどい死骸など見たことがなかった。
あまりにも惨い有り様に騎士達は無言で顔を青くさせた。
「これが……あの男の本当の力なのか」
胃を空にしたユウナは、ゆっくり顔をあげる。
街の中心部あたりで絶叫とも悲鳴とも思える音が響いている。おそらく、今そこが戦場になっているのだろう。魔族達と巨大な怪物の……。
ユウナの目の前で無惨な姿を見せている魔族の少女も、あの戦場から吹っ飛ばされて来たのだろう。
「あの時は、よほど手加減していたんだね……」
ユウナはオボロと戦った時のことを思い出した。
もしも、あの戦いの時にオボロが本気できていたら、自分達も魔族と同じような無惨な死体に変わっていただろう。ユウナは恐怖で身を震わせる。
今でこそオボロは味方だが、一時敵に回していたことが恐ろしく感じた。
「みんな、街の中心部に向かうよ」
そう言ってユウナは騎士達を引き連れ、物静かに街の中心へと移動を始めた。
街の中心部のそこには数百の魔族に囲まれている小山のような熊がいた。多勢に無勢だが、一方的に血肉をぶちまけているのは魔族のほうであった。
無双と言うには、あまりにも理不尽で悲惨な戦場。次から次へと魔族達は惨い姿へと変わり果てていく。
そして、ユウナ達は隠密にその戦場を包囲するような陣形を取っていた。
「……みんな行くよ! 敵は圧倒的だけど、逃げるわけにはいかない」
ユウナは恐怖を払いのけ、決意したように騎士達に号令をかけた。
「……はい、ユウナ様」
「我々は、逃げません」
「魔族に勝っても、ここで逃避しては一生自分も国も守れない」
街に乗り込む前まで怖じ気付いていた騎士達も、覚悟を決めたように返答する。
強大な戦力であるオボロが味方しているから、元勇者であるユウナがそばにいるから、そんな理由で戦う気になったわけではない。
ここで逃げたら、一生守ってもらわなければ生きていくことができなくなる。そう自覚したからだ。
ユウナと騎士達は詠唱を始め、暴れ狂う小山に殺到する魔族達の背に向けて魔術の狙いを定めた。
それに気づいたのか、オボロを包囲する最後尾の魔族達が後ろを振り返る。
「しまった、後ろから!」
「あの化け物は囮だったのか?」
「いかん! 囲まれてる」
これは、一つの策だったのだ。
先にオボロが街に侵入し暴れて魔族達の気を引き付ける囮となり、そしてオボロ一人に殺到してる内に魔族達を包囲して魔術で掃射する。
ユウナと騎士達は同時に魔術を放った。オボロを包囲している最後尾の魔族達に氷の槍や爆発的な火球が襲いかかった。
一気に何人もの魔族が肉体を貫かれ、焼かれ、そして絶命していく。
しかし魔術の多用は避けなければならない。予想外のことに備えての温存、そして魔力の大量消費は疲弊を招くからだ。
ならば、次の攻撃手段は分かりきっている。
「し、死ねえぇぇ!!」
ユウナは抜剣すると、雄叫びをあげながら魔族達に突っ込んだ。
それに合わせて騎士達も斬りかかる。
オボロ一人に夢中になっていた魔族達は背後から奇襲を受けるかたちになってしまったのだ。
さらに、前列付近のほとんどの魔族が背後から襲撃を受けていることに気づいていない。
数が多くとも魔族達は正規の戦士ではない、たちまち混乱に陥りオボロを攻撃するべきか、それとも背後からせまる騎士達か、どちらを攻めればよいのか分からなくなった。
混乱に情事ユウナは、近間の敵を片っ端から切り捨てていく。
彼女の顔にはベッタリと返り血がかかった。
数百もの魔族に包囲されながらも、オボロの肉体には傷一つついていない。
巨体にまとわりつく魔族達は使いなれてない槍を突き立ててるが、超人の肉体を貫くことはできなかった。
「なぜだ! なぜこんなことをする!? 俺達はもう戦力などない、それにここにいる奴等は戦い方もろくに知らないんだぞ! なぜこんな虐殺をするんだ!?」
オボロの首にしがみついていた魔族の男が泣き叫んできた。
オボロはしがみつく男の胴体を鷲掴みにして自分の体から引き剥がすと、ギロリと周囲を睨みつけた。
「お前らは知らんのか? 魔族は生きているだけで、その身から毒素を放出しているんだぜ。まちがっても、お前達などと共存できるか」
オボロのその一言に、魔族達の動きが止まった。
「我々が毒だと? 何をバカな!」
オボロの正面に立つ魔族が言った。
「ならば聴くが、なぜ魔族の領域には草木が生えず、荒野のように廃れている? お前らの毒素は大地を蝕み、二度と草木が生えない荒野にかえる」
「なにっ!」
魔族は驚愕の表情を見せた。
「毒素の放出はお前ら魔族が生命活動を続けている以上、止まりはせん。どのみち魔族として生まれた時点で死ぬことが決定づけられていたんだよ。お前らなんぞと心中する気はない、ここで全員死ね」
そう言い終えてオボロは掴んでいた魔族の男の胴体をブチブチと半分に引きちぎった。ささくれた断面から鮮血と内臓が流れ落ち石畳を真っ赤に汚す。
オボロは真っ二つにした男の亡骸を口元に運び、ゴクリゴクリと喉を鳴らしながら流れ出てくる血液を飲み始めた。
その異常な光景に、魔族達は背筋を凍りつかせる。
「水分補給は終わりだ。さて、そろそろこっちもお仕舞いにする。おとなしく死ぬもよし、抵抗して殺されるもよし。いずれにせよ、お前らが滅びることに変わりはない」
そう言ってオボロは、血を出し尽くした真っ二つの死体を投げ捨てるのであった。
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