激突する巨人

 いきなり上空から現れた金属の巨体を見て、ゴーレム達は一瞬驚いたような素振りを見せる。

 しかし、敵と認識したのかゴーレム達は身構えた。


「敵だな。魔王様の命により貴様らは皆殺しだ」


 すると、一体のゴーレムがいきなり喋りだしたのだ。ただしゴーレムの頭には目や口などはないため、どんな表情をしているかは分からない。

 もともとが無感情的な魔物ゆえに、ここにいるゴーレム達は、ただ任務を遂行する人形のようにしか見えない。

 ……そもそもではあるが、ゴーレムは会話できる程の知性などもっていない。では、なぜしゃべれるのか?


「ゴーレムが喋ってる。魔王の力で巨大化しただけじゃなく、知恵も与えられてるんだ」


 クサマの手から飛び降り、地に着地したナルミが呟く。

 そんなナルミを発見したのか、ゴーレムはクサマの足下にいる彼女を見下ろした。


「小娘、お前がこの木偶の坊のあるじか?」


 木偶の坊? おそらくクサマのことを言っているのだろう。

 それを聞いた、ナルミは怒りを露にした。


「クサマは木偶の坊なんかじゃない! 副長が心血注いで開発した、あたし達の仲間なんだからね!」 

「ン゙マッ!」


 激昂するナルミとは正反対にクサマは無感情的にズシンと一歩前にでて身構えた。


「クサマ?」


 クサマには自我があるとニオンは言っていた。一見、無感情に見えるが、怒りにとらわれず冷静に事にあたろうとしているに違いない。

 そう思いナルミは、クサマを見習うように感情を落ち着かせた。


「我々は魔王様より力を与えられている。お前達二人だけで我々の相手になるかな」

「クサマは超技術の結晶。お前達の貰い物の力には負けないよ!」

「ほざけぇ!」


 ナルミの言葉に激怒したのか、クサマの正面にいたゴーレムが剛腕を振り上げ殴りかかってきた。 

 すると、咄嗟にクサマも拳を突き出した。 

 金属の拳と岩石の拳が激突し、凄まじい音を響かせた。

 そして、粉々に飛び散ったのは岩石。砕け散ったのはゴーレムの腕の方であった。


「わわわわ!」


 近くに砕けた岩石が降り注ぎナルミはたまらずあたふたとする。


「なに! ワシの腕が……」


 ゴーレムは驚きを隠せなかった。魔王の力によって、強度も膂力も大幅に向上している体の一部が容易く粉砕されたのだ。

 つまり自分よりもクサマの方がパワーも強度も上であることを意味していた。


「ン゙マッ!」


 クサマは腕の砕けたゴーレムの頭を両手で掴んだ。そして挟み潰すように力を加えていく。

 ビキビキとゴーレムの頭部に亀裂がはいり、ついには砕け散った。

 頭を破壊されたゴーレムは絶命したのか、岩石の体が崩れ落ち大量の土砂を巻き上げる。


「おのれ! よくも」


 仲間がやられた事に怒ったのか、別のゴーレムがクサマ目掛け殴りかかってきた。

 しかし、クサマは動じることなく顔面でそれを受ける。

 そして、またもや砕けたのは岩石であった。


「ン゙マッ!」


 クサマは間いれず、拳を叩き込んできたゴーレムにお返しと言わんばかりに鉄拳によるアッパーカットを放った。

 轟音とともにゴーレムの頭は粉微塵に砕け、最初に殴りかかってきたゴーレム同様に体が崩れ去った。

 六体いたゴーレムが、瞬く間に四体にまで数を減らしてしまった。

 そして、残ったゴーレム達はクサマを囲むように陣形を作った。

 知性を得た分、自分達なりに戦い方を考えたのだろう。  


「個々で攻めては勝ち目はないが、四対一ならどうだろうな」


 ゴーレム達は、クサマ前後左右に佇む。

 ナルミは自分がここにいては戦闘の邪魔になると思い、クサマとゴーレム達から距離をおいた。

 そして、首にかけてある懐中時計を握りしめた。


「いいよ、試してあげる。クサマ! 全部やっちゃって」

「ン゛マッ!」


 ナルミが懐中時計型声紋コントローラーに命令をくだした。

 ただちに、その指示はクサマの人工頭脳に送信され、金属の超人は駆け出した。

 クサマは目の前のゴーレムにタックルをきめて吹き飛ばした。ゴーレムは全身に亀裂が入り数百メートルも吹っ飛び大地に激突した。

 クサマの機動はあまりにも、おかしかった。


「は、速い! あの大きさと質量で、なんであんなに速く走れるんだ?」


 あまりの機動の速さに左に佇むゴーレムが驚愕の声をはっした、しかしそれだけではなかった。

 背後のゴーレムがクサマの後頭部を目掛けてパンチを繰り出そうと腕を振り上げた。

 しかし、クサマは防御や回避するような素振りを見せなかった。

 このままいくと確実にパンチをもらう……かに思われた。


「ン゛マッ!」


 クサマは物凄い速さで振り返ると、岩の拳が振られる前に鉄拳をゴーレムの頭に叩き込んだ。岩石の頭が粉微塵になり飛散する。

 そして岩の巨体が、ゆっくりと崩れさった。

 左右に立つ二体のゴーレムは唖然とそのありさまを見ていることしかできなかった。


「……バカな、同胞の方がはやく構えていたんだぞ! あいつの動きが速すぎるのか?」


 その見た目に反して、クサマの動作があまりにも速すぎるのだ。

 拳を振り上げていたゴーレムよりも、クサマは先に鉄拳を叩き込んだ。その巨体からは考えられない動きなのだ。

 そしてナルミも、その挙動の速さに驚きを隠せなかった。


「うわぁ……副長どんな技術使ったんだろう? あんな大きいのに、素早く動けるなんて。物理法則を無視してるようにしか見えないけど……」


 ナルミは以前ニオンが言っていた言葉を思い出した。「人は神ではないゆえ、自力で物理を超越するなど不可能だ」……つまり、これ程の性能を発揮しているクサマとて物理法則を超越した存在ではないのだろう。

 ナルミが、そんなことを考えている間にも巨人達の戦いは継続していた。

 右にいたゴーレムが掴みかかろうと、両腕をひろげながらクサマに突っ込んできた。


「ン゙マッ!」


 しかし掴まれる前に、クサマのボディーブローが炸裂する。

 クサマの装甲は極めて強度の高い特殊な合金、それによって覆われた拳と持ち前の剛力が合わさり、その破壊力はゴーレムの胴体は粉々に散乱させて崩壊させるほど。

 そして、すかさず左側にいたゴーレムに脳天から手刀を叩き込んだ。仲間達同様に頭を砕かれたゴーレムはその身を倒壊させ、活動を停止させた。

 そして、残りはあと一体。タックルで吹き飛ばされたゴーレムだ。

 しかし、その最後のゴーレムは亀裂が入った体を必死で動かし逃亡をはかろうとしていた。


「……こんな、奴等を相手にしてられるか!」


 迷うことなく敵に背を見せてズシリズシリと駆けるゴーレム。

 だが、ナルミもクサマもそれを許しはしなかった。


「クサマ、逃がしちゃ駄目だよ!」

「ン゛マッ!」


 ナルミの指示に返答すると、クサマはその千トンを越える巨体で跳躍したのだ。

 跳躍の高さは数百メートルにおよび、そのまま逃亡をはかるゴーレムの頭上に落下した。

 岩の魔物と言えど、クサマのような超重量の金属の塊による落下踏みつけなど耐えられるはずもなく、粉々に四散した。

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