復興中の王都

「……ふぅー」


 俺の頭の上で溜め息をつく隊長。

 胸中が、だいぶ痛んでいるようだ。

 まあ、無理もないことだ。危険な依頼を受けてまで守った人々が、犯罪に手を染め、最後にはその人達全員を殺すしかない状況に至ったのだから。

 あの村に詳しいのは隊長だけだろう。うかつ励ますようなことは言わないほうがいいはずだ。

 部外者は黙ってるが一番だ。

 アビィという女の子の弔いはグンジさんに任せて、今俺達は王都に向けて脚を進めている。

 あと数十分もすればつくだろう。





 時は昼前だ。

 ここまでほとんど休息をはさまなかったため、予定より早めに王都に到着することができた。

 王都の中からは大きな音が響いてる。工事の騒音である。

 異形獣いぎょうじゅうとの戦いで破壊された建物などを直しているのだ。


「ちょい右! よぉし!」

「重機! 重機こっちもってきて!」 


 工事で汗を流す人達の声が良く聞こえる。

 彼等はエリンダ様の指示で、スチームジャガーやホーガスから派遣された作業員達だ。


「おし! ムラト、下におろしてくれ」

「分かりました」


 オボロ隊長の指示に従い、俺は都の正門付近に腹這いになる。

 ……さすが隊長だ。さっきまでは、あれほど傷心な様子だったが、切り替わりがハッキリしている。

 俺達のような危険な仕事を生業とするものは、感情に左右されてはならない。

 常に目の前のことに最善を尽くすことを考えねばならないのだ。

 隊長が門の関所の兵士から敬礼を受けて都内に入ると、入れ替わるように王都の中から何人かの住民達がやって来て俺の目の前で膝をついた。


「これはこれは、ムラト様。よくぞおこしくださいました」

「偉大なる護国の竜よ」

「巨大なる救世主よ」


 やって来た住民達が口々にそう述べる。

 異形獣との戦闘以来から、俺を信仰したり神格化している人々がいるようなのだ。

 拝むのは構わないが、どうもなんか変な気分だ。

 間違ってもカルト教団のようになってほしくはない。

 ……それに俺が乗っとたこの体は数多の人間を殺してきた存在。本来なら崇拝していい存在ではないのだろいが、内心複雑になる。


「……まあ崇めるのは良いが、間違っても他人に価値観を押し付けぬようにな。それに、女王様の立場もある」

「無論でございます。我々は個人の価値観として、あなた様を崇拝しているだけです。その考えを他の者に強要する気は、まったくありません。それにメガエラ様が素晴らしき女王であることは重々承知しております」


 一応、間違った考えは持っていないようだな。

 ひとまず安心だ。

 俺は足元に気を付けながら立ち上がり、王都を改めて見渡した。

 ……多くの人が異形に食われ死に、そして戦いによって人々の家が壊れた。

 強欲な考えかもしれないが、犠牲者は出したくなかった。

 怪獣の力を、どうにか人命救助に使えないかと思ったのだが、やはりうまくはいかないものだ。

 やはり破壊にしか能がないのだろうか。


「……すまんな、もう少し俺が上手くできたら、もっと犠牲を減らせたかもしれんのに」


 もしあの時、偽者の王を躊躇わず殺しておけば異形獣の暴走は起きなかったかもしれない。

 今、思うと異形獣の暴走を食い止められる機会は幾度かあったはずだ。


「な、何をおっしゃいますか! ムラト様!」

「あなた様のおかげで、我々はこうして生きていられたのです。もしあなた様がいなかったら、どうなっていたか……」

「そうです。あなたは、一つも間違ったことはしておりません。……あの時、夫は死んでしまいましたが娘と私は助かったんです。たしかに喜べるものではありませんでしたが……」 


 人々は当時のことを思い出したように語る。

 彼等の言うとおりなのかもしれない。

 そもそも俺も怪獣も神ではない。ゆえに、どうしても達成できないことも助けられないこともある。

 力を得たからと言って、何でもできるなどと言う都合の良いことはないのだ。


「……そうか。少し気が楽になった」

「そうですとも。あなたは我々の命を救ってくれたお方だ。堂々としていてほしいのです」


 俺を励ますように壮年の男性が見上げてくる。


「それにしても、あなた方が住む領地には随分と変わった道具がおありですね。非常に便利なもののようですし、建築もすさまじい速さでこなせている。何かの魔道具のたぐいなのですか?」


 問いかけてきたのは若者だった。

 さっきまで俺を神のように崇めている様子であったが、やはり今のように気楽に話しかけてくれるほうが俺も会話がしやすい。

 重機を眺める若者は目を輝かせている、よほど興味があるのだろう。


「あれは機械と言うものでな、魔術とは理屈自体が異なる。内部に電気を蓄えておく箱のような物があり、その電気を使って動いているんだ」


 魔術が主体の世界ゆえ、みな機械の知識には乏しいだろう。下手な説明ではあるが、これで我慢してもらいたい。


「仕組みが知りたくて、ここんとこずっと近くで見学していたんです。……分解してみたいですね」


 若者は鼻息をあらげ、ウズウズしている様子だ。 

 あの重機にはとんでもない技術が使われている。

 ニオン副長が開発した蓄電池のことだ。

 俺の細胞から取り出された蓄電物質の構造を模範した人工物は、マッチ箱サイズの物で無休で数ヶ月間重機を稼働させるほどなのだ。

 言うなれば、ここにある重機にはオーバーテクノロジーがつまっているのだ。

 ニオン副長が蓄電池を開発してからと言うもの、恐ろしい程に機械類の性能が発展した。


「……ふむ。ぜひとも国全体に広めたい物ですね。えと、機械とやらでしたかな?」


 そう語るのは、先程励ましてくれた壮年の男。

 気持ちは分かるが、首を縦には振れん。

 この機械技術を持つことは、とんでもない危険がやって来ることを意味してしまうからだ。

 それが星外魔獣コズミック・ビースト

 小型の奴でも隊長達が手を焼くほどの相手と聞いている。


「すまんが、お前達に機械技術を提供することはできんのだ。便利な分、それに伴う危険もあるからな」


 俺の話を聞いた住民達は、不思議そうに首を傾げていた。

 しかしファンタジー溢れる世界で、宇宙生物なんて言葉を聞くとは思いもしなかった。


× × ×


 ズシッズシッと重量感のある足取りで、オボロは城の廊下を歩いていた。

 女王の城と言うだけあって綺麗でオシャレ、なんてことはなかった。

 床はめくれ、壁には穴だらけ。

 そう、自分がしでかした破壊の跡である。


「……少しやりすぎちまったな」


 当時兵士に追われていたとはいえ、さすがに物を壊しすぎた。

 それに今や、女王メガエラの城。後々手間をかけさせてしまうようなことをしてしまった。

 それに関しては、しっかり反省している。 

 だが、悔いのないことが一つだけある。


「……だが御裸おヌードで、城内を走り回ったのは最高だった。あれだけは、忘れられない」


 変質的なことを考えながらオボロは、メガエラの待つ部屋に向かうのであった。

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