第248話 譲れぬもの
シャンゼルグ竜騎士校
学園長室
バンバンバンバン
広く整った学園長室でジオニ学園長は机の上に貯まった書類を熱心に確認しながら判子を押す。
マキシ・マム教頭を判子を押された書類を区分けにし各々ファイルへと積めこむ。
「あ!、そう言えばマキシ・マム教頭。朝礼の挨拶の後どうなりましたか?。私は途中で気分悪く辞退してしまいましたけど。何か問題が起こりましたか?。特にラチェット・メルクライの弟子であるあのノーマル種を騎竜にしているアイシャ・マーヴェラスという生徒に。」
「いえ、特に問題はありませんでしたよ。」
マキシ・マム教頭はサラッと嘘で返す、
「そうですか···。にしてもラチェットの弟子がまさかあの救世の騎竜乗りの子孫だなんて。ノーマル種を騎竜にするのも驚きですが。よりにもよってラチェットの弟子にならなくても·····。」
ジオニ学園長は眉間に紫波が寄るほどしかめっ面をする。
救世の騎竜乗りは神竜聖導教会でも聖女と崇められるほどの伝説の騎竜乗りである。それがあの暴虐武人で決闘魔でもある狂姫ラチェット・メルクライの弟子になるのだから世も末である。
「はい、ラチェット・メルクライの弟子であるアイシャ・マーヴェラスは双方の科にとって良い潤滑油になりましよ。」
マキシ・マム教頭は鼻に乗せる眼鏡をくいと上げるとニッコリと怪しげな笑みを浮かべる。
「潤滑油?。」
ジオニ学園長はマキシ・マム教頭の意味不明な発言に困惑する。
「はい、アイシャ・マーヴェラスは組分けの模擬レースで狂姫、最強の大技である千羽鶴を行い。竜騎士科の令息生徒と騎竜乗り科の令嬢生徒を全てのしてしまいました。これで双方の科のいがみ合いも暫く大人しくなるでしょう。」
「なっ······。」
ジオニ学園長は間の抜けたようにぽっかりと口を開け絶句し固まる。
マキシ・マム教頭はラチェットの弟子であるアイシャ・マーヴェラスが一年の竜騎士科、騎竜乗り科の生徒をまとめて倒してしまったと発言したのだ。戦闘専門の竜騎士科とレース専門である騎竜乗り科全員である。彼ら一年でもそれなりの腕を持っていたはず。それを全て倒してしまったというのだから矢張狂姫ラチェット・メルクライの弟子は侮れない。
「そうですか·····。取り敢えず穏便にすんで本当に良かったです···。」
穏便?と言えるのかどうか解らないが、ラチェットの弟子がシャンゼルグ竜騎士校の頭痛の種にならずに本当に良かったと思っている。
「そうですね。ラチェットの弟子の例のノーマル種はスピードは上位種並でしたけど。その他レースでの戦闘を行わなかったです。もしかしたら狂姫の弟子は戦闘専門で。騎竜はスピード専門なのかもしれませんね。」
狂姫ラチェット・メルクライの弟子があの強さなら騎竜が強くなくても問題ない。騎竜はレースに専念すればよい。
「なるほど。騎竜のノーマル種は普通の竜(ドラゴン)でしたか···。それは本当に安心しましたよ。ラチェットの騎竜のような変な色物の竜でなくて本当に良かったです。矢張騎竜は普通が一番です。」
学園長はホッと胸を撫で下ろす。学園内で問題事などなにも起こらなかった本当に良かったと心から安心安堵する。
と、今の段階では二人はそう思っていた。
第4訓練場
『おい、ノーマル種。鳳凰竜なんか相手せず。俺らと相手しようぜ!。』
グレシャーブルーの鱗に覆われ体と氷河のような硬さと寒さを秘めた翼を広げ。氷結のような色をした竜口がニヤけた卑しげな笑みを浮かべる。
鳳凰竜フェニスはそんな態度の竜(ドラゴン)に怪訝な冷たい竜瞳の視線を向ける。
ライナは戦闘に割り込んできた竜(ドラゴン)をまじまじとみる。
確かこの竜は氷結竜だったな····。
炎竜ガーネットをレースでまかした竜騎士科の騎竜である。
氷結竜の舎弟と思われる騎竜が隣で同じく蔑むような竜瞳でニヤニヤとライナを嘲笑う。
『氷結の兄貴がこう言ってんだ。相手してやれよ!。ノーマル種。』
舎弟の竜がライナを冷やかすように挑発する。
『無視よ。ライナ。こんな奴等、相手しても無駄よ。』
模擬戦相手の騎竜乗り科の騎竜、鳳凰竜フェニスはライナに警告する。
ギャ···
(ああ····)
学校の授業である騎竜専用カリキュラムで問題を起こせば主人であるアイシャお嬢様にも本当の意味で迷惑が懸かる。ここはスルーするのがベストである。しかし竜騎士科の騎竜は何でこうも堂々と授業中の真っ昼間に喧嘩を売れるのだろうか?。問題にならないのだろうか?。
ライナは再び鳳凰竜と対峙して水の精霊を呼ぶ呼吸を行う。
すぅ~~~はあ~~~~~~
ギャ
(竜水) ピキィッ バキバキバキバキィッ‼️
再び鳳凰竜フェニスと俺の間にスキルを放たれる。今度は氷の壁が張られ。ギンギンに凍りついて目の前を高く塞ぐ。
『おい!無視するなよ‼️。ノーマル種!。俺達が折角遊んでやろうってんだ!。』
『ちょっと!いい加減にしなさいよ!。あんたたち。今は私と彼で模擬戦をしているのよ!。あんたたち竜騎士科の騎竜は別のところでやってよね!。』
あまりにもしつこいので鳳凰竜フェニスは激しく激怒する。
『うるせえ!雑魚は引っ込んでろ!。騎竜乗り科の鳳凰竜だからと言っていい気になるなよなあ。鳳凰竜は確かにレア種の中でも希少だが。だがそれは戦闘面に優れているわけではなく。能力的に不死である特徴を持っているからだ。それ以外は他の竜とさほど変わらん。それともなにか?俺の氷結をお前の炎で溶かせるのか?。ああ。』
ドスを込めたグレシャーブルーの竜瞳の眼光が鳳凰竜フェニスを鋭く睨む。
『く、この····。』
鳳凰竜フェニスは悔しげにオレンジ色のくちばしを歪ませる。言い分からして事実のだろう。鳳凰竜フェニスの炎では氷結竜の氷を溶かすことが出来ないようである。
はあ····まさか授業中まで突っ掛かってくるとは思わなかったな。せめて休み時間に喧嘩を売って欲しかったよ。全く····。
授業中問題を起こしたらアイシャお嬢様に迷惑が懸かる。退学にならずとも何らかの罰則があるかもしれない。シャンゼルグ竜騎士校の罰則がアルビナス騎竜女学園の生徒に通用するのか解らないけれど。
『どうしましたか?。ライナさん。』
『何の騒ぎですか?。』
騒ぎを聞きつけた緑森竜のロロさんと魔剣竜のホロホスさんが駆け寄る。
『あ、ホロホス。聞いてよ!。こいつらしつこいのよ!。今、私とライナが対戦しているのに邪魔するんだから。』
魔剣竜ホロホスはクラスメイトである鳳凰竜フェニスに事情を聞くと温厚な竜瞳が厳しげに氷結竜を睨む。
『何の真似ですか!。氷結竜コルゴ。これ以上事を荒げると私でもただではすみませんよ。』
真っ黒で少し剣のように刺々しい鱗の竜を氷結竜のグレシャーブルーの瞳が一瞥する。
『魔剣竜ホロホスか····。確かにあんたは強い。氷結竜の中ではあんたとの戦闘は俺を敗北させるだけの唯一の力を持ちあわせている。だがな!、それは主人が魔剣を所持している時だけだ‼️。今は主人の魔剣持ちのマリヤもいないだろう?。俺とやり合って勝ち目はあるのか?。』
氷結竜はけしかけるような口ぶりを発する。
『くっ、言わせて置けば·····。』
魔剣竜ホロホスさんも苦渋に竜口を閉じる。
『やめて下さい!。こんな授業中に喧嘩なんて駄目ですよ!。』
緑森竜のロロさんが二匹の間に入って仲裁しようとする
『うるせえ!スッこんでろ!。よそ者のメスが!。』
バシッ!
ギャあッ!
『えっ!。』
『なっ!?』
スローモーションに目の前の光景が広がる。間に入ろうとした緑森竜のロロさんが氷結竜のグレシャーブルーの長い尻尾を強く頬にうちつけられたのだ。
そのままロロさんの深緑色の竜体が地面にたおれ込む。
『ちょ、ちょっと、何するのよ!。』
倒れた緑森竜ロロさんのもとに二匹の魔剣竜ホロホスと鳳凰竜フェニスが駆け寄る。
『だ、大丈夫ですか?。』
魔剣竜ホロホスは心配そうにロロさんの尻尾で打たれた頬を確認する。竜の頬が少し赤く腫れていた。
『ええ···大丈夫です。』
ロロさんは少しよろけながらもゆっくり竜の脚を伸ばし立ち上がる。
『田舎のメス竜は引っ込んでろ!。これはオス同士の戦いだ!。』
ギャ··ガア·······
(て···めえ······。)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ライナは鋭い眼光を発する。竜瞳が氷結竜コルゴに向けられる。カッと鶏冠が熱くなるほど激情の怒りが沸き上がる。三本の竜の掌の鉤爪が鋭く研ぎ澄まされる。
『おっと、やっとやる気が出たようだな。ノーマル種。』
ニヤリ
氷結竜コルゴは網に懸かったというような冷笑を浮かべる。
『だ、駄目です···ライナさん。アイシャ様に迷惑が懸かります。』
ロロはよろけた身体でも必死にライナを止めようとする。
ギャアラギャ···ラギャアギャアラギャガアギャアラギャギャアラギャガアガアギャ
(大丈夫ですよ···ロロさん。これはほんの腕試しです。決闘とかじゃないですから。)
ライナは満面な竜顔の笑顔でロロさんを宥める。しかしその竜瞳は全く嗤っていなかった。
『はっ、やっとやる気が出たようだな、ノーマル種。主人が強いからっていい気になるなよな。主人にとってはお前はただのお飾りでしかないんだ。お飾りはお飾りらしく目立たたぬように小さく主人に媚びへつらえていろ!。』
··········
氷結竜コルゴの暴言に全く意に介さず。無言と無視を貫く
いつの間にか竜騎士科の騎竜と騎竜乗り科の騎竜達のギャラリーが集まっていた。皆内心ノーマル種ライナが無様にまけることを期待していた。
「ちょっと、ルスコル先生止めないと!。」
ナルン教育実習生はいきなりアルビナス騎竜女学園の生徒の騎竜と竜騎士科の騎竜が喧嘩し始めたことに慌てふためく。
「いいんじゃないか。あのノーマル種。例の狂姫の技を使った騎竜乗りの騎竜だろう。ならば身の程知る良い機会じゃないか。竜騎士科の生徒と渡り合う力があっても所詮ノーマル種を騎竜にしている時点で上位種である竜騎士科の騎竜には勝てないとね。」
「はあ、問題になりますよ····。」
竜騎士科の教育実習生のナルンははあと深いため息を吐く。どうみても竜騎士科があの他校の一年に完全敗北した腹いせである。
ライナと氷結竜コルゴは第4訓練場の敷地で対峙する。
ギャあーーーーギャあーーーー
一年の竜騎士科の騎竜達は竜の嘶きを上げながらテンション上げ上げの絶好調になっていた。騎竜乗り科の騎竜も竜騎士科の騎竜よりも今は無様に敗北するノーマル種の姿を期待していた。
ギャアーーーーーギャアーーーーー
『止めないんですか?。』
盛り上がる竜騎士科の騎竜の中、呑気に寝そべる騎竜に一匹の竜騎士科の騎竜はが声をかける。
エンペラー種でありながらその騎竜は何故かサイズは一回り小さく。ノーマル種よりもすこしサイズが小さかった。
『ああ、いいのいいの。僕には関係ないことだからね。ジェロームの指示がない限りも僕は何もしないよ。』
『そうですか····。』
問い掛けた竜騎士科の騎竜は何処か不服そうにしている。エンペラー種でありながら小柄のサイズをした騎竜は実は竜騎士科一年では最強の騎竜であった。
『コルゴそんなノーマル種やっちまいな!。』
『我等竜騎士科の騎竜にノーマル種ごときに喧嘩を売ったことを後悔させてやれ!。』
竜騎士科の騎竜達から激しい声援が送られる。
くくく、これで手柄を立てれば俺やオックスの評価も少しは上がるだろう。クラスからの評価も上がり。一年最強の竜騎士、騎竜の座につくのも夢ではない。オックスが三竜騎士になれる可能性もあるしな。
三竜騎士とは竜騎士科から一年二年三学年から選ばれる学年最強の竜騎士である。学園最強の竜騎士はゼクスだが。学年最強は竜騎士と騎竜のクラスの評価で決まる。
呑気に寝そべる小柄なエンペラー種を氷結竜コルゴは冷ややかな竜瞳で一瞥する。
ふん、いい気になるなよ。いずれお前をこの年内で蹴落とし。俺達が一年最強になるんだからな。闘争まがいな視線を小柄なエンペラー種に送るが。小柄なエンペラー種は好戦まがいな視線さえと意にかえさない。
ギャアーーーーーーギャアーーーーーーー
『さあ、始めようか。ノーマル種。いつでも来ていいぜ!。どうせどんな攻撃にも俺には通用しないがなあ。』
氷結竜コルゴは勝ち誇った笑みを浮かべる。
『ライナさん···。』
緑森竜ロロと魔剣竜ホロホスと鳳凰竜フェニスは息をのみ見守る。
ギャラギャギャアギャア‼️
(じゃ、遠慮なく。竜破掌‼️。)
ライナは三本の鉤爪の掌を氷結竜コルゴにかざし強烈な衝撃波を放つ。
ドッ‼️
パッキィ!
ピキィッ! ピキィッピキィッピキィッ
『効かねえな·····。』
氷結竜コルゴの前に瞬時に氷晶が張られ。ライナの放った気の衝撃波を弾く。
氷結竜コルゴは涼しそうな竜顔を浮かべる(氷結竜だけに)。
『おい今のノーマル種何かしたか?。』
『さあな、だがコルゴさんが誇る氷結の防御のスキルにはどんな物理攻撃も無意味さ。魔法やスキルだって通用しないんだから。』
竜破掌が効かない?。矢張あの自動発動型バッシブスキルに弾かれたか。戦闘訓練を受けている戦闘専門の竜騎士科の騎竜にまともな小細工は通用しないようである。
『お前が威圧のスキルを使える時点でただのノーマル種でないことは理解している。しかし上位種に特に戦闘専門の竜騎士科の騎竜にそんなもんが通用するわけねえだろうが!。競争を優先するレースでは不利だが。戦闘に関しては此方がエキスパートだ!。』
『氷結の兄貴の使うアプソリュート"ZERO"DF(絶対零度防御)は無敵だ。対抗するなら銀氷の精霊でも使うんだな。だがノーマル種なんかに銀氷の精霊は使役できないけどな。』
氷結竜の舎弟はライナにどや顔の竜顔で偉ぶる。
銀氷の精霊で氷結竜のアプソリュート"ZERO"DF(絶対零度防御)を打ち消せるのか?。なら竜気掌なら普通に消せるのかもな。
竜気掌を使えば奴の絶対零度防御を打ち破り早々に決着をつけることも可能だろう。だがそれでは俺の腹の虫はおさまらない。ロロさんを傷付けたことけっして許さない!。それに師であるレッドモンドさんから教わった新技を今ここで使ういい機会でもある。
この技が王都の騎竜に何処まで通用するか解らないが。試す価値はある。
ライナは覚悟を決め。竜瞳をグレシャーブルーの鱗に覆われた竜に竜瞳の眼光を注ぐ。
『このまま大人しく主人のおっぱいでも吸ってやがれ!ノーマル種。』
氷結竜の舎弟はライナを冷やかすように暴言を吐く。
ギャギャ····
(違うな·····。)
『ああ·····。』
ライナの否定の言葉に氷結竜コルゴの竜の眉間が不快げに寄る。
突然ライナの竜顔は真顔に変わる。何故だが周囲の空気が張り積めたように凍りつき。緊張感が漂いだす。いきなり様子が変わったノーマル種の態度に氷結竜コルゴは何かくると思い警戒体制をとる。
ギャアラギャガギャアラギャ····
(おっぱいは吸うものではない····)
ライナは真剣な眼差しで真理を説くように告げる。
カッ‼️
ライナは何かに目覚めたように眼光を放ち。竜瞳が大きく見開れる。
ギャアラギャガアギャアラギャああーーーー!!
(背中に押し付けるものだああああーーーーー!!。)
(············································································
························································································································································
···········································································
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
『どっ、何処までもふざけたノーマル種だ!!。』
『氷結の兄貴っ!。そんなノーマル種。のしちゃって下さい!。』
グレシャーブルーの翼を広げ氷結竜コルゴの地面が凍りつきだす。
ギャアラギャガアギャアラギャガアギャ
(お前達にノーマル種の神髄を見せてやる。)
バッ
ライナは三本の鉤爪の竜の腕を前につき出すように交差させる。
そしてそのまま竜の両腕を空手の挨拶するかのように腰におもいっきり引いた。
ギャガアラギャガギャアラギャア‼️‼️
(ドラゴンバイブレーション(竜震動)‼️)!!
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